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華の乱  作者: 黒梟
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 雲行きは怪しさを増す





「却下だ」


 口を開きうとした矢先に放たれた言葉に目を見張る。

 別に却下されても構わない。そちらの思惑にこれ以上乗る気は無いから。聞く気もないから。関わる気も無いから。まあせいぜい頑張れ!

 心の声は相手には届かない。

 相手の心情も読めないようでは、ここまでの人間。ここに集まっている人間のうち、どのくらいの人がそれを理解しているのだろうか。


 自身の作り上げていく作品にどれだけの想いを込め、魅せられるかで相手の自分に対する評価も変わる。

 惑わされず、気を揺るがさず、ひたむきに取り組める環境作りも出来ないのではもうだめだろう。


 相手が人であれば尚のこと。まあ、私の場合は周りに居る人間が特殊過ぎるのかもしれないけど。

 相手も憑きモノが多いしね。


 ふっ、馬鹿にしたように笑われた。どうやら自分が優位に立っていると思ったようだ。

 どうやったらそういう考えになるのか、ぜひ教えて貰いたいものだ。先程まで古参の方々に無視されていきり立って私を睨みつけていた人物とは思えない。


 小物だな~。


 後ろ盾が無くなれば直ぐに崩れ落ちて這い上がってこれないタイプ。逆に後ろ盾がしっかりしていれば、幾らでも図に乗るタイプ。正に虎の威を借る狐。


 という訳でそんな笑いも無視。直球勝負。回りくどいのは一切無し。


「受付でも言いましたが、松葉家は!今後一切!あなた方との繋がりを持ちません!このような場の参加料や、名義貸しも一切しない!仮に他の方から松葉の分も取り立てたところで、松葉はその方にお金は支払わない!ああ、そして最後に、いつもいつも松葉名を語ってお金集めしてる人がいらっしゃいますが、松葉は依頼人と直接会って、仕事を受けることはしないので、自分達で受けて、お金を受け取った仕事は自分達でカタをつけてくださいね。以上です」


 至る所で強調しつつ、一気に捲し立てる。

 相手の言い分など知った事か!

 では、と一礼して古参の方々に向き直れば、


「「「では我々も松葉に倣わせて頂く」」」


 と、後ろから次々と声が上がり、退場していく者多数。凄いな。本当に私をなんだと思っているんだ?


 その光景を見守っていた別の男性が口を開く。

 おそらく主催者側の一人であろう男性。身なりもきちっとしているが、どこか違和感を感じた。

 背中で感じた雰囲気が気持ち悪かったのだ。


「さて、困りましたね。こんなに抜けてはこの集まりを存続するのは難しいですね」


 チラリと私と対峙していた男を見やる笑顔に背筋が寒くなった。

 穏やかに言葉を並べてはいるが、激怒しているのが丸分かりだ。

 明らかに呪われる勢いだ。

 だが、肝心の男はやはり人の感情・心情を読むのが下手だった。そのため、見当違いの言葉が発せられた。


「そんなことはありません。あの者達は一時の情に流されているだけ、直ぐにでも戻ってくる者達ですよ。次の開催日迄に許しを得に来ますよ」


 笑って問題ない、と答えられるこの人はある意味大物かもしれない。


 だけど、それが相手に伝わらなければ意味が無い。


 瞬間見限られた。そう感じた。

 当たり前だ。これ迄何十年と積み上げて来たものを、今回初めて出席した松葉の、しかも当主代理の糞ガキに全て崩されたのでは立つ瀬が無い。


 前に座っている古参の方々を見上げれば、表情が固くなっていた。


 藪をつついて蛇を出したか?


 やれやれと思っていると、部屋の温度が2度ほど下がった気がした。と言うか、絶対に下がった。


 寒いな。


 彼は、私に向き直ると声を掛けてきた。勿論振り返って向き合う気など無い。


「初めまして、松葉の方。向き合って頂けないのは悲しいですが、今回は致し方ないですね。機会があれば、今度は貴女の口からお名前を教えていただきたいですね。では、失礼します」


 古参の方々に礼をして、優雅に去って行った。

 話された内容からしても、本人から名前を聞くことによって、相手に影響を与える何かを持っている。

 こういう時の感は当たる。まるで、葉様が倒れた時の様だと思った。

 表情には出さずに彼が会場から出ていくのを待つ。古参の中でも特に付き合いの長い、蒼爺が落ち着いた顔立ちで話しかけてきた。


「気を付けなさい。()()は人では無くなっている。何を憑けているかは分からんが、葉の死にも関係しているだろう。紫炎は問題ないと思っているが、お前は分からん。用心に越したことはない。それと、先程言っていた頼みだが、このふざけた催しを止めさせて欲しかったのだが・・・・・、問題無く終わりそうで何よりだ」


「代わりに私が目を付けられましたがね。まあ、此方としても、辞めたかったので仕方ありませんね」


 おもむろに白扇を取り出し勢い良く開く。

 綺麗に開けた白扇に松葉が祓いの時に書く文字をサラサラと書いていく。筆を直し、手首を返して白扇を回し勢いよく閉じて又開く。それを蒼爺に手渡す。

 蒼爺の顔が柔らかくなった。


「昔と変わらず見事だな。勿論鈴も()()()()()()()()()()()?」


「ええ、勿論。最近は紐がダメになってきたので、そろそろ掛け替えないといけないんですよ。あれが無いと、()()()()()()()()()()()()


「仕事は来ているのか?」


「問題無く」


 迂闊なことを言えば、足元をすくわれかねない。それでも構わないのだが、今の段階で、家の中を荒らされるのは不本意。

 あの二人が落ち着くまでは、持ち堪えなければ。


 顔付きが険しくなってきたのだろうか?苦笑されてしまった。


「まあ良い。先程も言ったが紫炎大丈夫だが、あ奴等は周りの者から攻めていく。どうしても彼奴が欲しいらしい。何を持っているのかは知らんが、取り込まれないように気を付けなさい」


 心配されるのが久しぶり過ぎたので、思わず笑みが零れてしまった。


「ありがとうございます」


 貰えた情報は少ないが、松葉に執拗に絡んで来たのはあの男で間違い無いだろう。

 こちらから接触する気は無いが、対策だけは講じておかないといけないな。

 華が消されれば、間違いなく相手は同じ様に消される。それ位までに、紫炎は華に執着している。

 私の安寧の為にも、厄介事は一つ一つ片付けなければ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢



 会場を出ようとした時、鈴の音が響いた。

 振り返り床を見ると、純金製で私の名前のあやめの華が描かれた鈴が落ちていた。


 やはり紐がダメになっていたか


 鈴を拾い上げながら、どうしようかと悩む。

 これには、魔除の効力も有る。力を無駄なく効率的に使うのにも有効。

 ・・・・・、まあ暴走しない為の安全装置なだけだけど。

 使い慣れてるから、このままでいとこうかな。


 周りを気にせず部屋を出ようとしたら、前の学校で会った・・・様な気がする人に声を掛けられた。


「その鈴は()()()()()()()が持っているものだ。何故たかが当主代理のお前が持っている?」


 怪訝な顔をしてしまったが、すぐ笑顔で返す。


「何故と言われましても、生まれ落ちて名を付けられた時に作って頂いたのです。なんの問題もありませんが?」


「何を言っている!その鈴は純金製で、特別に作ってもらっていると聞く。しかも、素材にも特殊な効力が施されている筈だ。値段も安いものでは無いのだぞ!それを当たり前のように作って頂いただと?!あの家の者はそんなに優しくは無い!」


 私の言葉に納得いかなかったのか、怒鳴られた。何で松葉の内情を教える必要があるのだろう?

 やる気も無く、ため息混じりに答える。


「貴方様より使えると判断されただけでしょう?そんなに疑問に思うなら、直接紫炎に聞いてください。

 聞きたいことは以上ですか?もう帰りたいので、これ以上話しかけないでください」


 礼をして今度こそ本当に帰った。

 周りがどんな反応をしていたのかも知らずに・・・・。






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