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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

すべて退屈なセピア色

作者: I

多分失敗作

 すべて退屈なセピア色を呼吸してかろうじて生き長らえている。窓から差し込むガラス越しの光が座り尽くすわたしに起きてよとやわらかく説得する。

そんな窓辺には白い花がしおれて花瓶で生きている。

この手で影をつくり花を覆い尽くしたら終わりは早まるのだろうか。

わたしももう疲れたから、できることなら安楽を施してあげたい。

 できる限り目覚めないように、諦観のまま目を擦る。部屋。ああ、わたしの部屋か。

自部屋ですらどこに何を置いてあって、どのような意味合いでそれを配置したのかを思い出せない。

そんなわたしに世界を見渡せっていうのは、酷なものがある。


 ふと、写真がある。写真立てに収まっていて、けど埃で曇っている。ガラスのカバー上を指で満遍なくかすめとる。

わたしとウクライナの友人の、ツーショットだ。山頂で撮ったものだ。夜空は満天で、大気は澄み切っていた。わたしのあなたが今ここにいて、それでしか成し得ない光景なのよって、ロマンチストなあなたが言った。

セルフシャッターで撮って、流れで密着されて結構恥ずかしくって、

その場ですぐに現像した写真を見て、右上に映るこれほら流れ星なんじゃないかって。あの星は降り注ぎならが、いくつもの国境を跨いでいるんだよって。

もうわたしたち大人だよ、って小っ恥ずかしさから飛び出た反応に、

「でも幸せでしょ?」

なんて応答されたら、黙りこくるしかないくらいにその通りだった。


それから先は、どうしたんだっけ。

忘れた。ダメだ、もうなにもかもがダメだ。

なんらかを意識してもロクな行動ができそうにないから、できる限り慣れきった生活の感覚で稼働しだすことにした。

便宜的におはよう。


 シャワーを浴びる。ボディーソープをてのひらに吐き出して、素手でカラダを洗っていく。乳房をしこりを見付ける。定期検査を怠ってるから、フツーに癌かもしれない。

思い出した。ウクライナの彼女のことを。

風の噂でしか聴いてないが、民族浄化の犠牲になったらしい。全裸になっていて、乳房が引きちぎられていて死んでいたという。膣と肛門から白く残酷な体液を垂れ流しにしていて。

けど、喉の奥には折りたたまれた写真がつまっていたという。

すべてはお爺さんの話だ。

わたしに伝えたお爺さんの嘘なのかもしれない。彼女は下手したら死んですらいないのかもしれない。彼女はよく幸せな嘘をつくタイプだったから。

死にてたくても死ねないくらいに、多くの意味合いで強かったから。特に人生との向き合い方に関しては、悟りを開いていたとも思う。

「ほんとうは大事なことなんて一切無くて、わたしは生き続けることでそれを証明することができるんだよ」

最後の別れ際で彼女が流すように呟いた言葉だ。生きる意味とかそういう次元の遥か上から落下してきたもののように感じ、

だからやっぱり彼女は未だにどこかで無意味性を実証し続けているのだろう。

わたしの今の生活が退廃そのものである限り、彼女は生きている。少なくともわたしのなかではそういうことになるのだろう。


 シャンプーで髪を洗い、リンスは面倒くさいから省いた。そうして、気の済むままにシャワーを浴び尽くす。

洗濯機にぐっしょりとなったバスタオルと脱ぎ捨てておいた下着と寝巻きとを投げ入れ、洗剤をいれ起動させる。

そして洗濯機の隣にある『タームマシーン』を起動する。ただのコンピュータで、そのアプリケーションのひとつだ。

アプリは黒いローディング画面を終えると、ウェブからあらゆる学術用語を抽出し、現存するものすべてをアプリ内に取り込み済みにすると、

その用語はミキサーにかけるようにシャッフルされる。

時間とか哲学とか物理がすべてごちゃ混ぜとなって、一綴りのワードとなってディスプレイ上に吐き出される。

『Date error』

ほら、無意味が表示される。最近はまっているのは、こういう自己満足だ。

でも自己満足はとても気持ちがいい。これだけが生を実感できる方法だから、わたしは明日も明後日も、世界が終わるまでもずっとこの行為を続けて、世界へ体現をぶつけるんだ。

ばーか、って泣きながらずっとずっと。

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