4F:夢の終わり-6
《さぁ、ファンファーレを終えて、いよいよ各馬がスタートゲートに収まっていこうという所。正面スタンド前では出番を今か今かと待ち構えている人馬が輪乗りをしています。
皐月賞馬ストームライダー、鞍上竹田豊の心境は如何なものか。
或いは逆襲を狙うラストラプソディー、川澄翼はどうか。
生涯一度の晴舞台。導く騎手達の心境は如何に。
まず奇数番号の馬が収まって行きます。
①番ヤッティヤルーデスが収まり、③番ストームライダーも無事収まりました。
順調に各馬が枠入りを……っと、⑬番コーネイアイアンがちょっとゲート入りを嫌がりましたが、鞍上ホックマン騎手に促されて従いました。
続いて偶数番号の馬が収まってまいります。順調に枠入りが進んでまいります。
さぁ。さぁ。会場のボルテージが高まってまいりました。
最後に⑱番ヘルメスアイコンが収まりました! 係員が離れます。
第NN回……日本ダービー……スタートしましたッ!
スタート絶好⑯番のサタンマルッコ! 他出遅れもなく揃ったスタートとなりました!
1コーナーへの先頭争い、好スタートの⑯番サタンマルッコがぐんぐん加速して先頭を奪う形。外のほうからすいすい進んで内へ寄せてまいりました。
内の方では②番ラストラプソディー③番ストームライダー辺りが前に出ている。
⑧番のゲノム、⑩番のナイトアデイは後ろに下げた格好で1コーナーへ各馬進んでまいります。
先頭は、今日はハナを切った⑯番のサタンマルッコ。3馬身ほど切れて②番ラストラプソディー、いや⑥番のスティールソードが外から上がっていきました。その後ろ。その後ろに皐月賞馬ストームライダーが追走しているぞ!
内の方に④番オーダナテンプク、⑦番イイヨファイエルなどがいて、さらに⑪番ホーリディ、⑧番ゲノム、⑤番カタルシスなどが追走しているようだ。
おっと。
おぉっと。
場内がどよめいている。先頭のサタンマルッコが後続を大きく引き離し始めた。
2コーナーを抜けて間もなく1000mを通過……58秒と少し。58秒と少し! これは速い! これはダービーにしてはちょっと速いぞ!
大丈夫なのか横田。果たしてこの馬はそれでいいのか。どうなんだ横田友則。この馬はそれでいいのか。
馬列が向こう正面を進みます。
先頭の⑯番サタンマルッコが二番手集団を12、3馬身離している。二番手集団先頭は⑥番スティールソード。切れて二馬身内ラチ沿いに②番ラストラプソディー。その外③番ストームライダー。後ろに④番オーダナテンプク、⑦番イイヨファイエル、⑨番グルグルマワルなどが居て、⑧番ゲノム、⑤番カタルシスが内ラチ沿い、⑰番シルバーシックル、⑮番メイジンはややかかり気味か外目を上がっていっていますが、この辺り馬群が一団となって固まっています。
その後ろに切れて1馬身①番ヤッティヤルーデス、⑫番アスノスタッカート、その後ろに⑱番ヘルメスアイコン、⑭番マリンシンフォニー、⑬番コーネイアイアン、最後方⑩番ナイトアデイといった体勢となっています。ナイトアデイ福岡騎手は腹を括ったか後方待機の大胆な騎乗をとりました。
ざわざわと。場内が静かにざわめき出しております。
先頭の⑯番サタンマルッコが向こう正面の坂に差し掛かかります。後方とはリードを10馬身ほど空けているぞ。
二番手集団も間もなく坂に――おっとここで最後方⑩番ナイトアデイがすーっと押し上げてきた。にわかに色めき立つ各馬。
3コーナーに差し掛かる。ペースが一気に上がってきました。
二番手先頭は変わらず⑥番スティールソード。内の②番ラストラプソディーはもう外目に持ち出して抜き去ろうという構え。③番ストームライダーはその後ろで内に入れたようだ。
さぁ4コーナーの中間、後方集団が一気に加速して先頭を走る⑯番サタンマルッコとの差を詰めてきている! ⑦番イイヨファイエル、⑧番ゲノムは外に出した。⑩番ナイトアデイが①番ヤッティヤルーデス等を伴って一気に追い込んでくる!
直線を向いた!
サタンマルッコがまだ先頭リード2馬身!
スティールソードとラストラプソディーが追い上げてくる!
後ろの方は伸びが苦しい!
残り400を切った! キタキタキタ! 後ろから内目を突いてストームライダーが物凄い勢いで襲い掛かる!
あっという間! 並ばない! あっという間にスティールソードとラストラプソディーを抜き去り、サタンマルッコを、
サタンマルッコに、
サタンマルッコが、まだ粘る! まだ粘っている!?
サタンマルッコがまだ頑張っている! 懸命に粘る!
ストームライダー鞭が入る! あと200! 後続との差は開いている!
竹田の右鞭が唸る! ストームライダー追っている!
しかし! 差が詰まらない! サタンマルッコまだ粘る!
いや、これはサタンマルッコ、伸びている! 1馬身、2馬身、差が開く!
なんだこれは! どういうことだ!?
ストームライダーは伸びが悪い!
サタンマルッコだ。
サタンマルッコだ!
サタンマルッコだッ!
横田の執念ッ!
サタンマルッコ、一着でゴールインッ!》
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直線を回ってから絶対に出さないと決めていた声が出た。
400を切った辺りで絶叫していた。
200を切ったあたりではもう自分が何を言っているのか分からなくなっていた。
そしてゴール板を駆け抜けた瞬間。
わーとかおーとか、そういう文字に出来るような音ではない叫びを上げながら、同じく意味不明な音を爆発させているオーナー、クニオ、夫人と抱き合った。
ああ。
ああ。
ああ!
マルッコが勝った!
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《……――二着にストームライダー! 三着入線はどうやら⑥番スティールソード!
無敗の皐月賞馬ストームライダー敗れるッ! 波乱の結末を迎えた日本ダービー!
勝ったのはゼッケン番号⑯番サタンマルッコだ!
嵐を引き連れて、府中2400mを鮮やかに逃げ切りましたッ!
侮ってはいけなかった、この男、横田友則の逃げを侮ってはいけなかった!
おっと場内のどよめきが大きくなりました。
あぁなんということだ。なんということでしょう!
第NN回日本ダービーはレコード決着! 2分23秒0のレコード!
恐らく世代戦では塗り換わることは無いだろうと思われていた、ドゥラメンテの2分23.2秒を0.2秒縮めました!
恐るべき怪馬! どうしてこうなったのかまるで分からない!
横田は知っていたのか、知っていての騎乗だったのか、馬の能力を信じての騎乗だったのか。
今、2コーナーからサタンマルッコに乗り、横田騎手が……あぁ。横田騎手泣いています。声援に何度も何度も頭を下げながら、口元が描くありがとうございますの言葉。
相棒の背に揺られ、今、ゆっくりとスタンドへ戻って来ます。
何度も涙を拭いながら、横田騎手が帰ってきました。
うん? サタンマルッコが足を止めました。横田騎手も目を丸くしている。
おやおやおや。なんでしょうね、もうこの馬には驚かされっぱなしです。
サタンマルッコ、ゴール板の前で高々と嘶きました。歓声にも負けない美声を披露して……あぁ。
『ヒィィィィン!』『オォイッ!』『ヒィィィィィンッ!』『オォォォイッ!』
はは、あははは。本当におかしな馬です。コールアンドレスポンスとでも言うんでしょうか。スタンドのお客さんと掛け合っております。どうだと言わんばかりの勝ち鬨。
颯爽と駆け出して、今、地下馬道へ戻っていきました。
どこからどこまでも破天荒な馬です。全く訳のわからない競走馬です。
しかし一つ私達の胸に刻み込まれました。
彼こそが、今年のダービー馬なのです》
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「放送席、日本ダービーを制しましたサタンマルッコ号鞍上、横田騎手にインタビューいたします。横田さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ふふっ、目が、赤いですね」
「いやぁ、お恥ずかしい。しんみり帰ってこようと思ったんだけどね、マルッコが騒がしくするもんだから、涙も引っ込んじゃったよ。ほんと変な馬ですよ」
「最後ゴール板前で嘶いていましたね。あれは横田さんの指示ではなく……?」
「いやほんと、勝手にやり出しましたよ。いきなり鳴き出すからビックリですよ。普段から色々変なことする馬なんだけど、これは飛び切りですね。でもお客さんと息ピッタリで良かったです」
「そうだったんですね。では横田さん。ダービージョッキーになって、どんな気分ですか」
「…………言葉では言い表せないですね。僕もマルッコに合わせて、感情に任せて一緒に叫んでおけばよかったかな。形にするなら、たぶんそんな感じ。あ、でも一つ。
親父、勝ったぞ。俺、ダービージョッキーになったんだ。凄いだろ。
ダービーじょ……ダービージョッキーに、なたん、だ。俺が、やった……すいません、ちょっともう無理……」
「父の代から続いた因縁を晴らしましたね。改めて、おめでとうございます」
「ありがとう、ございます…………! ご関係者の皆様並びに応援してくだしゃったファンのみにゃしゃま、本当に、ありがどうございまじだッ!」
2020/9/15 追記
コースレコードとレースレコードについて巨大な誤解をしていたため作中に誤った記載がありました。
>>電光掲示板には戦慄のRの表示!
掲示板の赤文字はコースレコードの更新がされた際に使われるもので、レースレコードの更新では使われないそうです。
つまり今だとアーモンドアイの2:20.6を更新しない限り2400mではレコードは点かない。(ロジャーバローズもレコードついてなかったなそういや)
ご指摘感謝!
一応言い訳するとレコード表示じゃなくてR表示だから別物と押し通せなくもないですが、この後も何度も出てくるので良い感じに訂正しておきます
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レコードタイムはいつか破られる物ですが、ドゥラメンテが持つダービーレコードは今後暫くは更新されないんだろうなと思います。あのスーパーレコードを更新する馬は、一体どんな馬なんでしょうね。
今年から、ドゥラメンテの子供が走ります。(6/8訂正、ジャスタウェイと勘違いしてました走るのはまだ先ですちょーはずかしい)
ドゥラメンテの子供から出たとしたら、とっても素敵な物語ですね。早くに引退してしまった父親が見せてくれた夢の続きを見せてくれるかもしれません。
ご感想、評価、ありがとうございます。励みになります。
話としてはここで一区切りですが、引き続き毎日更新で頑張っていきます。