小ちゃいおっちゃん物語 其の六
「こ…小太郎殿…ど…どうじゃ…」
「大丈夫だって…」
「ちょっと…厠…」
「またぁ〜 これで105回目だぞ!」
今日は小ちゃいおっちゃんと静殿の挙式
「おっちゃん 俺 静殿迎えに行って来るぞ!」
「小太郎殿 すまんのぉ」
挙式は小太郎の屋敷の大広間
「ゆ…指が…」
料理人達は皆 指が攣っていた
「殿はいったい何をしようとしてるんだ?」
金の屏風の前に 小太郎が料理人に作らせた小さな御膳が2つ並んでいる
「おっちゃん!静殿を連れて来たぞ!まだ 厠に入ってんのか?」
「大きい声で申すな…恥ずかしい…もう153回目じゃ…」
「こっちは用意出来たぞ!おっちゃんの うんこ待ちだぞ!」
「うんこではない!全く…失敬な…ぶつぶつ…!……」
「どうしたおっちゃん 声が出ないか?」
静殿は白無垢姿だった
「小太郎殿…なんとお礼を申せばよいか…」
「おっちゃん 気にすんな!」
「ほんに綺麗じゃ…」
「おっちゃんの烏帽子も禿げが隠れて良かったな!」
「うむ…そうじゃのぉ…」
おっちゃん ツッコまないのか?
緊張しまくりのおっちゃん
「おっちゃん 食え!そして飲め!おっちゃんの好きなメダカの子の尾頭付きの塩焼きだぞ!」
「…美味い…美味いのぉ…静殿…」
「おまえさん…」
「小太郎殿!聞いたか…おまえさんと言われた…わしはもう いつ死んでもかまわん…」
照れまくり 泣きまくり 緊張しまくりの挙式は夜遅くまで続いた
「小太郎殿 何から何まで申し訳ないのぉ…」
「何言ってんだ?おっちゃん あたりまえだろ!」
「すまん…」
小太郎はおっちゃんの為に箪笥などの家具を職人に頼んで作って貰ったのだ
家具職人の声…「指が攣った…」
時が経ち…
「小太郎殿!」
「ん〜〜…どうしたおっちゃん…」
「わしが…わしが…ち ち ち…ふぅ〜…」
「おっちゃん…落ち着いて話せ…」
「わしに…や や や や …ふぅ〜〜」
「おっちゃん…」
「や…やや子(赤ちゃん)が出来たんじゃ!」
「何!おっちゃん良かったなぁ〜!」
「喜んでくれるか!」
「もちろんだ!そうか おっちゃんも親になるのか!」
次の日
「ふぎゃ〜〜ふぎゃ〜〜」
「小太郎殿〜!」
「ん〜〜…なんだおっちゃん…毎晩毎晩…」
「産まれた!」
「何が?…」
「わしのやや子じゃ!」
「いつ?」
「今じゃ!」
「ふ〜〜ん…おやすみ…」
「うぉ〜い!それだけか!」
「おっちゃん…そんな簡単には産まれないんだぞ!どうせ また鏡でも見たんだろ…おっちゃんの頭を見て赤ちゃんと間違えたんだろ…」
「そうかのぉ…夢をみたのかのぉ…お騒がせしてすまん…」
おっちゃんは自分の部屋に帰って行く
「小太郎殿!」
「ん〜〜…いい加減にして…」
「小太郎殿!」
「おっちゃん…」
小太郎が目を開けるとニコニコしてるおっちゃんが何かを抱いている
「ん?」
「小太郎殿」
「おっちゃん 何抱いてんだ?」
「倅じゃ!」
「ん?本当に産まれたのか?」
「そうじゃ!」
「小太郎様」
「静殿 本当なのか?」
「本当ですよ」
「早くないか?」
「私達妖精は2人で育てた花の種に念を込めるのです その念が強ければ強いほど早く産まれるのです」
「そうなのか?」
「ただ 全ての種から産まれるのでは無く 光り輝く種からだけなのです」
「その種が昨日見つかったんじゃよ それを小太郎殿に報告したんじゃ」
「そうなのか…そうか!おっちゃん!静殿!良かったな!」
「小太郎殿 見てくれ わしの倅じゃ!」
「どれどれ…おぉ!良かったなぁ!ちゃんと髪がある!」
「小太郎殿…最初にそこを見るか…わしと一緒じゃ…」
「目は静殿だな!鼻と口元も静殿 輪郭も静殿だ!」
「小太郎殿!もっと良く見よ!」
「ちょっと待ってろな…おっちゃんに似てるとこを探せばいいんだろ」
「ほれ!」
「ん〜〜と…手も静殿だし…足も…静殿…おっちゃんに似てるとこ…」
「ほれほれ!」
数少ない前髪をかきあげるおっちゃん
「髪は違うだろ…ん〜〜どこだ?」
「ひたい じゃよ!」
「ひたい?オデコ?」
「そうじゃ!わしにそっくりじゃろ!ひたいが!」
「良かったなぁ〜!ひたいだけで!」
「キィーーーー!っと言いたいとこじゃが…わしも同感じゃから許してやろう!」
「良かったなぁ!おまえは 母ちゃん似だ!おっちゃん!静殿!おめでとう!」
小太郎は自分の弟のようにおっちゃんの子供を可愛がった
「おっちゃん 名前付けないのか?」
「それなんじゃが…静殿と考えておるんじゃが なかなかのぉ…」
「俺の名前使ってもいいぞ!」
「それも考えたんじゃが…」
「そうだよなぁ…おっちゃん達がややこしくなるもんな…おっちゃん どんな名前考えたんだ?」
「まず わしが考えたのが 薄静!すぐに却下をくろうた…」
「わかる…」
「そして 静殿が考えたのが 静丸」
「ん〜…2人で納得するまで考えろ!名前は一生ものだからな!」
「そうじゃな わしらはどこまで生きるかわからんから一生ついて回るものじゃから」
「おっちゃん 幸せなんだな 顔に出てるぞ!」
「幸せじゃ 小太郎殿にはなんとお礼を言っていいのか…」
「俺は何もしてないぞ!おっちゃんの事を静殿は好きになったんだから!」
「小太郎殿…」
それから2年の月日が流れ
「小太郎殿!」
「おっ また昨日よりちょっとだけ大きくなったな!」
「はい!小太郎殿!僕の名前が決まりました!」
「おっ!やっと決まったか!なんて名前だ?」
「小丸です!」
「小丸?」
「はい!小太郎殿の 小 と父上の 丸 で小丸です!」
「おっちゃんがつけたのか?」
「いえ!母上です!」
「そっか…小丸か!いい名だぞ!小丸」
「はい!」
おっちゃんと静殿の愛息子 小丸 は元気に明るく育っていった
おっちゃん5歳ちょっとの物語
時は江戸時代に入っていた