小ちゃいおっちゃん物語 其の二
「ばっちゃん 行ってくるぞ!」
「小太郎や 気をつけて行くんだぞ」
「おっちゃん!ばっちゃんを頼んだぞ!」
「おまえさんは 妖精じゃろ」
「ん?」
「おまえさんじゃよ」
「わしが見えるのか?」
「歳だからボンヤリだがな」
おっちゃんが小太郎の 小屋 に来て半年が過ぎようとしていた
「じいさんと一緒になる前は ウチにもおまえさんのような妖精が居ったが 久しぶりに見たのぉ」
「こりゃ驚いた!その歳でわしが見えるとな!」
「もしかすると…じいさんのところへ行く時期が近づいておるからかもしれんのぉ」
「何を言っておる!婆様が居なくなったら小太郎殿が悲しむであろう!」
「小太郎なら大丈夫じゃよ あの子はこんなところに居てはいけないんじゃ」
「小太郎殿の母上と父上はどうしたんじゃ?」
「あの子が3つの時に2人共 流行病でのぉ…それから
わしが引き取って育てて来たのじゃが… 2年前から この通り寝たきりになってしまい…まだ7つのあの子は毎日 片道3里(1里が約3km)の町に下りてはいろんな仕事を手伝い 帰りに薬を買って来るんじゃよ」
「なんじゃろう…この目から出て来る水は…」
「おまえさんは涙を知らんのか?それは涙というものじゃ」
「涙?何故声を出してないのに涙が出るんじゃ?涙とは声を出して泣く時に出るのではないのか?」
「おまえさんが 優しい証拠じゃよ」
おっちゃんは涙が止まらなかった
「ばっちゃん!ただいま!」
「小太郎殿 婆様は今寝ておる…」
「そうか!今日は米も一合手に入ったから ちょっと待ってろな!今 炊いてやるぞ!」
「小太郎 帰ったのかい?」
「ばっちゃん 御飯が炊けたぞ!美味いぞ〜 今食べさせてやるからな」
「小太郎殿…」
「おっちゃんも待ってろな!」
「ほら ばっちゃん起きろ 御飯だぞ!おっちゃんも熱いから気をつけて食えな!」
「小太郎殿の分は?」
「俺は町で食って来たから大丈夫だ!」
グゥ〜〜…
腹を鳴らす小太郎
「小太郎や ばぁちゃんはいいから小太郎がお食べ」
「俺は食って来たんだって!ばっちゃんは薬飲まないとダメなんだから食え!」
「小太郎殿…」
「おっちゃん 美味いか?」
「美味い…美味いぞ!小太郎殿…」
おっちゃんの飯粒は天然の塩味が…
「そうか!美味いか!」
「ばっちゃん 早く良くなれな」
「婆様は寝たのか?」
「薬が効いたみたいだな」
「小太郎殿 お主は偉いのぉ」
「何がだ?」
「その歳で頑張っておる」
「そうか?町には俺と同じくらいの子供がいっぱい働いているぞ!」
「そうかもしれんが…」
「俺…ばっちゃんには長生きしてもらいたいし…」
「小太郎殿は優しい子じゃ…すまんのぉ小太郎殿」
「何が?」
「わしら妖精は 時が経つにつれていろいろな力がつくんじゃが…今のわしにはまだなんの力も備わっておらんのじゃ…」
「へぇ〜〜!おっちゃんスゲェんだな!」
「褒めてくれるか…何も出来ないこんなわしを…」
次の日
「おっちゃん!ばっちゃんまだ寝てるけど 遅くなるから俺行くぞ!ばっちゃんが起きたら一緒に御飯食え」
「小太郎殿 気をつけて行くんじゃぞ!」
「おぅ!」
「なんじゃろう…胸の辺りがムカムカするのぉ…腹が減ってかのぉ…それにしても婆様起きんのぉ…」
「うぅ…」
おっちゃんの耳に微かに聞こえる呻き声
「婆様!どうしたんじゃ婆様!」
「小太郎…」
「小太郎殿がどうしたんじゃ!」
「小太郎…呼んどくれ…」
顔色が悪いばぁちゃん
「婆様!今呼んでくる!待っておれ!」
おっちゃんは走った
町まで3里
「これじゃったか…胸のムカムカは…こんな能力はいらん…小太郎殿〜〜!」
「これじゃと いつまで経っても町には着かん…」
パカ パカ …
必死に走るおっちゃんを馬が歩いて追い抜いて行く
「これじゃ!」
おっちゃんが馬に飛び乗る
「町へ急いでくれ!」
パカ パカ…
馬に話かけるが馬に言葉が通じない
「これじゃ 馬の耳に念仏 じゃな…そうじゃ!」
おっちゃんは馬の尻の方へ移動する
「御免!」
ガブッ!
おっちゃんが馬の尻に噛みついた
ヒヒィ〜ン!
嘶いた馬は町の方へ走り出した
「婆様待っておるんじゃぞ!今 小太郎殿を連れて帰るぞ!」
町へ着くおっちゃん
「こんな広い所で…小太郎殿がどこにおるか…そうじゃ!」
スゥ〜〜…
「小太郎殿〜〜〜〜!!!」
ビリビリ!
町全体が震えた
ワォ〜ン!ヒヒィ〜ン!「おぎゃ〜おぎゃ〜!」
カァ〜カァ〜!
町中の動物 子供が騒ぐ
「ん?今 おっちゃんの声がしたぞ!」
おっちゃんの声は小太郎の耳にも届いた
「なんでおっちゃんが町に…まさか!ばっちゃんに何かあったのか!」
小太郎は声がした方へ走る
「おっちゃ〜ん!どこだ〜!」
「小太郎殿!ここじゃ!うわぁ!」
プチッ…
「ん?」
小太郎が足を恐る恐るどけると…
「ここじゃ……」
ペラペラのおっちゃん
「おっちゃん すまん…」
ボンッ!
普通に戻るおっちゃん
「スゲェ…」
「小太郎殿 大変じゃ!婆様が!」
「ばっちゃんがどうした!」
「とにかく早く家に帰るんじゃ!」
小太郎は家路を急いだ
おっちゃんを肩に乗せて走る小太郎
「ばっちゃん…今 行くぞ…」
「ん?雨が降って来おったか?」
空を見上げるおっちゃん…空は澄み渡る晴天
「小太郎殿…」
おっちゃんにあたる雨粒は小太郎の涙
おっちゃんは小太郎の肩でブツブツと何やら念仏のようなものを唱えていた
ガラッ!
「ばっちゃん!」
「小太郎…」
「よし!成功じゃ!」
「ばっちゃんどうした!」
「小太郎…ごめんなぁ…」
「ばっちゃん…なんで謝んだ?」
「小太郎…じいさん達が迎えに来たみたいじゃ…」
「帰ってもらえ…な…ばっちゃん…じっちゃん!ばっちゃんは居ないぞ!だから…だから帰って…」
「小太郎…おまえは優しい子じゃ…ばぁちゃんが居なくなったら町に下りろ…」
「何言ってんだ?…俺はずっと…ばっちゃんと一緒だぞ…」
「妖精のおまえさん…」
「なんじゃ…ここにおるぞ…」
「小太郎をよろしくお願いしますよ…」
「うん…うん…」
「ばっちゃん…そんな事言うな…」
「小太郎………」
「ばっちゃん?…ばっちゃ〜〜〜ん!」
「小太郎殿すまん…」
「おっちゃん ありがとな」
「わしは何もしておらんぞ…」
「おっちゃんは 俺が家に着くまでばっちゃんの命をもたせてくれたんだろ」
「知っておったか…一か八かじゃったがな…」
「おっちゃん スゴイんだな…」
「まだまだじゃ…」
「小太郎殿 いつ町に下りるんじゃ?」
「俺はここに居るぞ!」
「町に下りんのか?」
「ここがばっちゃんの家だ!それに…おっちゃんはここから離れられないんだろ?」
「小太郎殿は勘が鋭いのぉ…その通りじゃ!ここに この家がある限り 誰も居なくなっても離れる事は出来ないのじゃ…」
「安心しろ!俺はどこにも行かないぞ!」
「小太郎殿…」
「おっちゃん!これからもよろしくな!」
これが小ちゃいおっちゃん(1歳)の頃の物語