小ちゃいおっちゃん物語 其の一
時は平安時代末期
「ふんぎゃ〜!ふんぎゃ〜!」
「おぉ!なんとも声の高い赤子じゃ!しかも おのこ とはでかしたぞ!」
「ほんに 声の高い赤子じゃ事…おまえさん に似たんですね」
「声が高いのはいい事なんじゃ!わしは 山で迷い子になった時 この声 で皆に気付いてもらいなんとか ひと月の迷い子で済んだんじゃ!」
「それは 良かったですねぇ」
「まぁ…ひと月泣きっぱなしでふた月は声が出んかったがのぉ」
「それはそれは…」
この物語は 家を守ると巷で噂される 小ちゃな妖精の話
この妖精は 汚れのない気持ちの持ち主にしか見えない
少しでも邪神を持っているものには姿を見る事も声を聞く事も出来ないのだ
「殿!殿!」
「なんじゃ 騒々しい!」
「義経殿の居場所がわかりました」
「何!それはどこじゃ!」
「奥州は平泉!」
「よし!直ちに出陣じゃ!」
ここは 鎌倉幕府の創造者 源頼朝の屋敷
「義経殿もここまでか…」
「兄の為に戦働きをし その兄に討たれてしまう…嫌な兄様ですねぇ…」
「義経殿には わしらが見えておったんじゃから驚きだのぉ…そうじゃ!この おのこ の名前は…」
「義経殿から頂くんですね」
「いや…まんま頂いたら芸がない…義経殿の幼少期の牛若丸から…若丸を貰って 薄若丸でどうじゃ!」
「素敵な名前だ事」
ここで決まったんだな…将来どうなるか…
薄若丸はスクスクと育っていった
「父上!お呼びでごじゃるか?」
「薄(薄若丸)よ…お主も もう少しで1歳になる 1歳の誕生日が来たら 薄は 独り立ちせねばならん」
「わかっておりまする父上」
「お主…言葉使いが滅茶苦茶じゃのう…」
「そうでごじゃるか?」
「薄よ…」
「なんでごじゃる?」
「すまん…」
「父上…頭を見て謝るのやめて…」
「お主はまだ 1歳…そのうち 生え揃うであろう…」
小ちゃな妖精は100年に一つ歳を取る…薄若丸 人間の歳で言えば 産まれてから99年が経っていたのだ
「よし!わ…わしも独り立ちして頑張るぞ!」
「この家には 先客は居らんみたい…」
「ここは わしがおるぞ!他をあたってくれ!」
「なんじゃ おったのか…」
家の妖精のルールは 一軒に1妖精
夫婦になった時だけ 1年(100年)だけ家族として生活が出来るのだ
「ふぅ…暑いのぉ…しかし我慢じゃ…頭のてっぺんを陽にあてれば 日焼けして偽装が出来るはずじゃ…」
この時まだ気づいてはいないが…急激な日焼けは 火傷と同じなのだ…
「そろそろいかのぉ」
頭を触ってみる…
「あ〜っち!ってか…ヒリヒリ痛い…まぁ これでわからなくなったであろう!」
頭のてっぺん…自分で確認する術はない…
数100年気づく事がなく生活をする事になる
「さてと 頭の問題も解決したし家でも探すとしよう!」
「ここなら大丈夫かのぉ?たのも〜!誰も居らんか?」
シ〜ン…
「居らんな…うわぁ!」
チュ〜!チュ〜!
「はぁ…はぁ…あそこはダメじゃ…ネズミが多過ぎる…」
「もし お主…住む家を探しておるのか?」
「ん?誰じゃ!」
「わしじゃよ」
「どこじゃ!」
「ここじゃよ」
声のする方を見ると綿毛がフワっと空に舞う
「トゥー!」
ドスン!
「大丈夫か…」
「何を心配しておる?わしはこうして降りたかったのじゃから成功じゃ!」
落ちて来た人物はうつ伏せでそう言った
「どこか空いている家はござらんか?」
「わしがいい所を紹介しよう!」
「それは有り難い!」
「しかし…」
「なんじゃ?ま…まさか…ネズミが大量におるのか…わしはネズミが苦手じゃぞ!やつら生意気に 全身に毛が生えておる…」
「羨ましいんじゃな…」
「わしもあれほど毛があったら…キィーー!羨ましくなんか…」
「羨ましいんじゃな…」
コクッ…
「お主 見たところ その頭でもまだ若いと見えるが」
「わしはまだ1つじゃ!」
「おぉ!元服したばかりか 髪は…結えないか…」
「結えないのではない!結わないだけじゃ!」
「…そうか 斬新じゃのぉ」
「お主が紹介しようと思うておる屋敷には何があるんじゃ?」
「その家には祖母とその孫しかおらん」
「珍しくはないじゃろう」
「まぁ…そうじゃが…」
「どの屋敷じゃ?」
「あの正面に見える 家 じゃ!」
「…どこにあるんじゃ?」
「見えるじゃろ 」
「……人 住んでおるのか?」
そこは屋敷でなければ家とも言えないほどの 傾いた壁を木材で抑えた 今にも倒れてしまいそうな小屋…
「わしの産まれは 頼朝公の屋敷じゃ!あんな物置小屋にも劣るところなど嫌じゃ!」
「まだまだ若いのぉ…頭以外…」
「そうじゃ!さっきも言ったように わしはまだ1歳じゃ!キィーー!頭も若いわ!産まれたままの姿じゃから まだ髪が生えて来ないだけじゃ!」
「おっちゃん達 何騒いでんだ?」
見上げると そこには少年が1人
妖精2人?はキョロキョロする
「周りには誰も居らんな…もしや この者 わしらが見えておるのか?」
「お主 わしらが見えるのか?」
「可笑しな事言うなぁ はっきり見えるぞ!」
「おぉ!これはスゴイぞ!この歳でわしらが見えるとは!」
「お主歳はいくつじゃ?」
「俺は9歳だ!」
「何!この者 将来スゴイ事になるぞ」
「何故じゃ?」
「普通は わしらが見えるのは6歳までじゃ!こやつは9歳ではっきり見えると言いおった!わしらが見える者は将来なんらかの偉人になるんじゃ!」
「そうなのか?そこまでは父上に聞いておらんかった…」
「お主の家にわしらくらいの者が居るか?」
「見た事ないぞ」
「お主!これはチャンスじゃ!この者のところへ行くんじゃ!」
グゥ〜〜…
「なんだ おっちゃん腹減ってんのか?」
「そういえば 父上の元を離れてから何も口にしておらぬ…」
「腹減ってんなら俺ん家に来い!」
「良いのか?」
「何もないけど…おっちゃんに食わせるくらいはあるぞ!」
「お主良かったなぁ!これで将来は安定じゃな!知ってるとは思うが 一度入った家は他の者に取られる事はない」
「それくらいは知っておるぞ!」
「わしらが見える この者は将来スゴイ者に必ずなる!お主良かったのぉ!」
「フフフフ ワハハハ!わしにも転機がまわって来おったぞ!」
「おっちゃん 声高いなぁ!」
「褒めんでも良い!わしが今日からお主の家を守ってやる!連れて行ってくれ!」
「なんか偉そうだなぁ…」
「では いろいろとお世話になった!この恩は忘れぬぞ!」
「お主 いい家に行けて良かったのぉ!羨ましいぞ!」
「では さらばじゃ!早くお主の家へ連れて行くのじゃ!」
「偉そうに…」
少年の肩に乗り 少年の家へ向かう
「え?…」
少年は真っ直ぐ さっきの倒れそうな小屋に向かっている
「ちょ…えっ?…ちょっと待て…え?…」
「ばっちゃん ただいま!」
「えぇ〜〜!」
先客が居れば 居座ることがが出来ない
逆を言えば 先客が居なければ そこがその妖精の住処に決定するだ
「入ってしもうた〜〜〜おぉ〜い おい おい…」
「うわぁ!うっせぇ!」
さっき 一緒に居た おっちゃん妖精は知っていたのだ
「今は ショックかもしれぬが その者は必ず立派な偉人になるはずじゃ」
丸一日泣いた妖精
「泣いて腹減ったろ?これ食え」
「ヒック!…かたじけない…ヒック!…モグモグ…」
「美味いか?」
おっちゃんは飯粒にかぶりついた
「モグモグ…ちょっと変な味がするが…モグモグ…食えない事はない…モグモグ…」
「3日前の飯だからな…」
「……」
ピィ……
「大丈夫か?」
「な…なんとか…」
おっちゃんは腹を壊した
「お主…飯を食っておらんが」
「俺は大丈夫だ!」
「何故食わんのじゃ?」
「米がない!」
「買えば良かろう」
「米なんか高過ぎる!ばっちゃんに食わせる分があればそれでいいんだぞ!残りの金はばっちゃんの薬代にあてるんだ」
「お主は優しいな」
「明日からはちゃんとした飯を食わせるからな!」
「いや…お主が食う時に一緒に食う それでわしはいい…」
「おっちゃん」
「わしは1歳じゃ!おっちゃん呼ばわりするでない!」
「おっちゃん こんな家で悪かったな…」
「何を言っておる!お主はそのうちスゴイ偉人になるんじゃ!その時をわしは待っておるぞ!」
「俺が?」
「お主には その力があるんじゃ!自信を持て!まだ聞いておらぬかったな お主の名は何と言うんじゃ?」
「俺は 小太郎だ!」