小ちゃいおっちゃん物語 其の十六
「太郎ちゃん でいいですか?」
「いいぞ!」
「太郎ちゃんと晶ちゃんは優しい子ですね」
「なんで?」
「今のこの時代 自分の事しか考えない…考えられないが正解かな?それは仕方ない事 それなのに私共にあのような施しを出来るんですもの」
「だってみんな腹減ってたんだろ?」
静殿は何も言わず微笑む
「おばちゃん なんか可笑しいのか?」
「やっぱり…太郎ちゃんは見えない分感じる事に長けてるんですね」
「ん〜〜 なんとなく分かるって言うか…」
「太郎ちゃんはどうして目を治すのが嫌なの?」
「だって…目の前で死んで行く人をもう見たくないから…」
「そうか…」
「父ちゃんと母ちゃんは俺と晶ちゃんを守って…他にも沢山の人が…」
1年前…
ウゥ〜〜〜〜〜〜〜〜…
「来たぞ!晶 太郎 防空壕へ行くぞ!」
「えぇ!今 御飯食べ始めたとこなのに…」
「帰って来たら食べましょうね」
父ちゃんが太郎を 母ちゃんが晶を抱えて走る
ブルブルブルブル
「なんだ!今日はサイレンが鳴ってまだそれほど経ってないのにそこまで敵機が来てるぞ!」
バババババ…
上空から容赦無く鉄の雨が降ってくる
その雨は父ちゃんと母ちゃんにも…
「父ちゃん…苦しいよ…」
父ちゃんは太郎に覆い被さっていた
「もう…行ったな…」
「あぁ…苦しかった…あれ?母ちゃんと晶ちゃんは?」
「太郎ちゃん…」
「晶ちゃん 居た!母ちゃんは?」
「お母さんは…」
「晶ちゃん なんで泣いてんの?」
「太郎…」
「父ちゃん なんで立たないの?もう敵行ったぞ!」
「太郎…晶…これからは2人で力を合わせて生きて行くんだ…わかったか?」
「何言ってんだ父ちゃ…」
父ちゃんの言葉がどう言う意味か太郎も気付いた
「太郎…晶…」
「父ちゃ〜〜〜〜〜ん!」
父ちゃんはもう何も喋らなかった
「そうですか…それは辛かったですね…こんな幼子が2人で…」
「でも…俺には晶ちゃんが居る…1人ぼっちになったのもいっぱい居るんだぞ…」
「目はどうしたのですか?」
「晶ちゃんを助けようと爆風で…でも これでいいんだ…もう…」
「…うちの人の口癖が こんな愚かな戦さはいつまでも続かない です…私もそう思いますよ」
「そうなの?」
「はい もうじきこの戦さは終わるでしょう」
「そっか…良かった…」
「太郎ちゃんはその時 平和になった日本を見たいとは思わないの?」
「…見たい」
「なら 治そうか」
「うん…」
「太郎ちゃんはいい子だね」
「晶ちゃんもいい子だよ!」
「そうだね!だから私達が見えるんだから」
静殿は放って置く事が出来なかった
太郎と晶ちゃんはまだ4歳
とても優しく素直な子供
「おまえさん」
「静殿どうじゃ?」
「俺の目…治してください」
「おぉ!そうか!治すか!そうかそうか!」
「太郎ちゃんの事よろしくお願いします」
「晶殿大丈夫じゃよ 紅!診てやってくれ」
「はい!太郎様失礼します」
紅が小太郎の目に触れる
「どうじゃ?」
「時間がかかると思いますけど 大丈夫です!」
「今日も太郎ちゃんをお願いします」
太郎と晶ちゃんは毎日 治療に来た
「紅さん お願いします」
「任せてください」
紅は太郎の目に手をあてる
ブォ〜ン
紅の手から光が溢れる
「紅さんは姉ちゃんなのか?」
「そうですよ 私は女ですよ」
「じゃあ 紅姉ちゃんだ!」
「紅でいいですよ」
「ダメだよ!歳上を呼び捨てにしちゃダメなんだぞ!」
「わかりました 太郎様の好きなように呼んでください」
「太郎ちゃんでいいよ!」
「そんな…」
「いいんだよ!偉そうなおっちゃん!近くに居る?」
「偉そうなって…わしか?」
「そう!みんなに言って!俺は太郎ちゃんだって!」
「私は晶ちゃんでいいよ!」
「皆の者!そう言う事じゃ!」
「太郎ちゃん」「晶ちゃん」
「おぅ!」「はい!」
妖精達の間では 太郎と晶ちゃんは大人気だった
「ん?みんな!早く!また空襲がなるぞ!」
「何も聞こえんぞ?」
「太郎ちゃんは聞こえるの!遠くの飛行機の音が!」
太郎は視力を失ってから聴力が良くなっていた
「おじちゃん達 俺達に掴まれ!」
おじちゃん達が太郎と晶ちゃんに掴まる
「太郎ちゃん大丈夫?行くよ」
晶ちゃんが太郎の手を取り駆け出す
ウゥ〜〜〜〜〜〜!
「ほら来た!晶ちゃん急いで大丈夫だよ!」
「太郎ちゃん大丈夫?」
「ぼんやりだけど見えるから大丈夫!」
「わかった!」
バババババ…
間一髪で防空壕に逃げ込む
「おっちゃん もうすぐ戦争終わるんだろ?」
「終わる…必ず終わる!」
「そうか…良かった おっちゃん達戦争終わったら一緒に暮らそうな!」
「お主ら 身内は?父上や母上の兄弟とかは居らんのか?」
「遠くに居るって聞いた事あるけど…わかんない」
「そうなんじゃ…」
「それに会ってもわからないし…」
「そうじゃな みんなで暮らそうな!」
おっちゃんは 太郎と晶ちゃんを安心させる為に そう言った
「今日は遅いのぉ…」
「若 見えました!」
「おぉ 来おったか!」
毎日 太郎と晶ちゃんをおっちゃん達は待つようになっていた
「太郎殿 目はどうじゃ?」
「うん ぼんやりだけど風景とかならもう見えるぞ」
「そうか それは良かったのぉ」
「もうちょっとでおっちゃん達の事も見えるようになるかなぁ?」
「この紅にお任せください!必ず 太郎ちゃん に私達が見えるようにしてあげますよ」
「うん!自分の目で見たいから晶ちゃんに聞いてないんだ!みんなの事」
「じゃあ 急いで治さないとですね」
「うん 紅姉ちゃんよろしく!」
太郎に笑顔と光が戻りつつあった