小ちゃいおっちゃん物語 其の八
チラッ…
「晶殿!」
「やはり来たか…」
「そんな…もののけが出たような言い方をせんでも…」
「似たようなものでしょ」
「静殿まで…」
「あっ 静さん!こんにちわ!」
「晶さん どうですか?体調の方は」
「ん〜〜 初産だからどれが本当かわからないけど…あまり優れない…」
「お医者様に診てもらった方が良いのでは?」
「多分…大丈夫ですよ!それより 小次郎 を見てやってください」
「まぁ!小太郎様の幼い時にそっくり!」
「お爺様に?」
「そうじゃ!小太郎殿の赤子の時は わししか知らんが そっくりじゃぞ!」
「黙れ 禿げ!」
「ヒィ〜〜!何故じゃ〜!何故わしばかり…」
「小次郎殿の母上は わしには厳しかった…」
「おじさん…泣いてんの?」
「思い出してのぉ…」
「そんなにいじめられたの?」
「いや…違うんじゃよ…」
「晶殿…?」
「うぅ………」
晶殿の様子が急変した
「どうしました?晶さん!」
「いかん!静殿!小太郎殿に連絡を!」
「おまえさんは?」
「わしは出来るだけの処置をしてみる!早く!他の者にわしらの姿も声も届かん!小太郎殿を早く!」
「わかりました!」
「晶殿御免!」
おっちゃんは晶殿のお腹に両手をあてる
ブォ〜ンブォ〜ン
おっちゃんの手から光が放たれる
「禿げや…」
「晶殿…喋るでない…」
「小次郎を頼みますよ…」
「何故そんな事を申す…そんな弱気な事で…どうするのじゃ!」
「泣きながら言うても説得力がないぞよ…」
「泣いてはおらん…」
「薄殿…」
「初めてじゃな…わしを 禿げ 以外で呼ぶのは…」
「薄殿は泣き過ぎじゃ…それでは 静さんや小丸ちゃんを不安にさせてしまう…これからはあまり泣かずに父親として凛とするのじゃぞ…」
「わかった…晶殿…約束する…じゃからもう話すでない…晶殿にわしの凛とした姿を見せてやる!じゃからもう喋るでない…」
「薄殿…お主と出会えた事嬉しく思うぞ…辛くあたってすまぬかったのぉ…」
「晶殿…わしは辛くあたられたとは思っておらんぞ…じゃから謝るでない…」
「薄殿…お主はいいやつじゃ……」
「晶!…おっちゃん…」
「おまえさん…」
「くっ……小太郎殿…すまん…小次郎殿…すまん…わしの力不足じゃ…すまん…くっ…」
「おっちゃん…ありがとう…」
「うぅ…小太郎殿…うぅ……」
「おまえさん…晶さんが微笑んでますよ…」
「うわぁ〜〜〜〜…晶殿すまん…やはり…わしは凛とはできんようだ…くっ…」
「晶殿…小次郎殿の母上は わしをいじめておったんではなかったんじゃよ 小次郎殿の母上はわしを心配しておったんじゃ…しっかりせよと…」
「おじさん 母上の事…ありがとうございました」
「小次郎殿…」
「僕 ひぃじいちゃんの事も知らないけど 母上の事も知らないから…おじさんから話聞けて良かったよ」
「小太郎殿…すまんかった…」
「おっちゃん もう気にすんな…おっちゃんは大変だな…何百年と生きていると何人もの人を送らないといけないんだろ」
「そうなんじゃが…わしらは家の妖精であって わしらが見えるのは せいぜい5〜6歳まで なるべく人とは接触しないのじゃ」
「そうか…そうだったな…」
「小太郎殿…わしらはお主らと仲良くなり過ぎたみたいだ…」
「おっちゃん ずっとここに居るんだろ」
「わしらはそれが使命じゃから…」
「辛いだろうけど…小次郎を頼むぞ」
「晶殿にも言われた…それは任せておけ…じゃが…小太郎殿 お主も長生きせんといかんぞ」
「おっちゃん 俺はもう90間近だぞ…」
「何を言うておる わしは500歳を超えておる」
「一緒にすんなよ…」
「小太郎殿は 小次郎殿をそれはもぅ 可愛がったんじゃ」
「そうなんだ…あまり覚えてないけど…僕 ひぃじっちゃん好きだ!」
「小太郎殿はもしかしたら100まで生きるのではないかと思うほど元気じゃったのだ」
「じゃあどうして死んじゃったの?」
「それはな…」
「大殿〜!」
「どうした?」
「これを!」
『生類憐みの令』
「なんだこれ?」
「5代将軍 綱吉公が取り決めた新しい法令でございます!」
「ふ〜ん いいんじゃないか」
「小太郎殿…妖精回覧板が回って来たんじゃが…」
「なんだそれ?」
「妖精界の瓦版じゃ!」
「それがどうした?」
「今 江戸では もののけ がはびこっておるみたいなんじゃ」
「もののけって うらめしや〜 のもののけか?」
「それは 幽霊じゃ…もののけとは 悪霊の事じゃ
!」
「だから 幽霊だろ」
「悪い幽霊じゃ!」
「どうも 江戸城下では大量の神隠しが流行っておるみたいなんじゃ」
「薄!」
「誰じゃ!わしを気安く呼ぶや……父上!」
「えっ おっちゃんの父ちゃんか?」
「薄や」
「はっ!父上!」
「お主に折り入って頼みがあり参ったのじゃが」
「わしに頼み事?」
「もうすでに耳には入っておるとは思うんじゃが…江戸城下のもののけの件なんじゃが」
「先ほど 回覧板で知り申した」
「実はのぉ…そのもののけなんじゃが…どうも…わしら妖精の類いが絡んでおるみたいなんじゃ…」
「えっ…っと申しますと…」
「うむ…わしらは ピュアな心の持ち主にしか見えないのじゃが 妖精界の中には 邪なものを好む妖精が稀におるのじゃ…」
「っと申しますと…」
「綱吉公が 生類憐みの令 の御触れを出したのは知っておるか?」
「先ほど!」
「どうも 綱吉公を操っておるのが 邪精 のようなんじゃ」
「邪精ってなんだ?」
「邪精とは…うわぁ!誰じゃお主!」
「俺は小太郎だ!」
「父上 わしが世話をしている小太郎殿です」
「世話されてんだろ…」
「そこは…わしに華を持たせても良いではないか…」
「まぁ 良い…まだドキドキが取れん…」
「俺 さっきから居たのに…さすがおっちゃんの父ちゃん…」
「まさか!小太郎殿はわしらが見えるのか!」
「見えるぞ!」
「失礼じゃが…歳は?」
「88歳になるぞ!」
「薄!お主を見える者は 小太郎殿だけか!」
「今は…数日前まで晶殿も居たのですが…」
「その者は?」
「先日 お亡くなりに…」
「しまった…遅かったか…」
「父上どうなされた」
「わしが お主に頼みに来たのは…邪精を退治出来るのはわしらが見える人間だけなのじゃ!お主から以前 貰った文に書いてあったのを思い出しこうして赴いたのじゃが…」
「おっちゃんの父ちゃん 邪精ってなんだ?」
「おぉ そうじゃな 邪精とは悪い精霊のことじゃ!わしらは良い精霊で 妖精なんじゃ!」
「ふ〜ん」
「して その晶殿は 何故亡くなったのじゃ?」
「御子息 小次郎殿を産み…次の日に…わしの力が足りなく…」
「おっちゃんは良くやってくれたぞ…だからもう泣くな…」
「薄や…それは 邪精の仕業じゃ」
「どういう事ですか?」
「産後の弱っておるところを狙われたんじゃ…」
「まさか…」
「間違いないであろう…お主が世話になっておる小太郎殿の一族は 日の本一の忍び一族!その現城主が晶殿であったのであろう?先ほども言ったように邪精を退治出来るのは わしら妖精が見える人間なんじゃ」
「晶殿がお産するのを待って…許さん!父上!わしは今まで これほど怒りを覚えた事はありませぬ!」
「薄や…気持ちはわかるが…晶殿が居ない今となっては…」
「おっちゃん!俺が一緒に行くぞ!」
「小太郎殿…小太郎殿では無理じゃ…歳を召され過ぎておる」
「そうじゃ…小太郎殿…危険過ぎる」
「おっちゃんの父ちゃんが言ってる事が本当なら…俺は晶の仇を討つ!可愛い孫娘だったんだ!」
「小太郎殿の気持ちはわかるぞ…しかしな 小次郎殿はどうするのじゃ…もし 小太郎殿に何かあったら…小次郎殿はどうするのじゃ!頼むから無茶をせんでくれ…わしも いつまでも小太郎殿と一緒に…」
「おっちゃん…だから行くんだぞ…誰かが退治しないとダメなんだろ?小次郎もおっちゃん達をいつまでも見れる大人になるはずだ!その時に 今度は小次郎が危険な目に合うかもしれない…小次郎を守る為に行くんだ…だから おっちゃん…力を貸してくれ」
「ズスゥ〜〜〜〜〜…あいわかった!」
小太郎88歳とおっちゃんの邪精退治が始まった…