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七章 騎士対抗戦

 騎士対抗戦。

 それは、騎士隊同士が戦う、いわば練習試合のようなもの。

 国王と、今日から姫様が観戦する、ということもあり、士気は高い。


 で。


「何で俺まで……」


 蒼の騎士隊に俺は加わっていた。

 いつもの革の格好に、蒼いマントがはためいている。


「似合っていますよ」

「で、これどうすれば勝ちなの?」

「向こうに旗が見えるでしょう? あれを先に掴んだ隊が勝ちです」


 今日は紅の騎士隊との戦いだった。

 さすが、魔物討伐のエリート軍団。戦闘のプロ。雰囲気が練磨されている。

 一方で蒼の騎士隊の落ち着きは見事なもので、全員が抜刀し、号令を待っている。


「レディウスさん、俺はどうすりゃいいんだ?」

「ほっほっほ。自由に動いてもらって結構ですぞ」

「……簡単に言ってくれるな」


 要するに遊撃をやれということなんだろう。

 と、パタパタと手を振っているのが見えて、俺はそちらに近づく。ルナが手を振っていた。


「ホトリさぁん! 頑張ってくださいねぇ! カッコいいところ、期待していますぅ!」

「めちゃくちゃ言うなよな、ルナ」


 苦笑を返し、俺は元に戻る。

 ……。

 何度も通じる手ではないが……今日くらいなら。


「では、これより……騎士対抗戦を行う! 総員、抜刀! かかれ!」


 号令が響く。


 ――刹那に、足に溜めていた気力を爆発させ、一気に加速。


「なっ!?」

「ほう」

「あらぁ」


 速度にモノを言わせた一点突破。

 前に配置されていた人間は俺を遅れて視認しようとするが、遅い。

 急加速に対応してきた人間は――紅の隊の騎士隊長、ロズウェルだったが、まともにやりあうつもりは一切ない。

 踵を返してマントを翻しながら外し、跳躍。

 つまり、マントは目くらまし。そしてロズウェルが振り返った時には、俺はすでに旗を奪っていた。


 全員が黙り、静まり返る中、判断をしていたイオンが声を挙げた。


「この勝負、蒼の騎士隊の勝ちだ!」


 全員が驚きの声を挙げるとともに、ロズウェルが豪快に笑いながら俺の背中を叩いてきた。


「だーっはっはっはっは! まさか真正面から突っ込んでくるたぁな! やるじゃねえか、新人! 名前覚えてやるよ!」

「滸だよ、ロズウェルさん」

「ロズでいい。実力があるヤツぁ、俺は好きだ。何か困ったことがあったらいつでも言って来い。それと、姫様の護衛じゃなくて紅の隊に入りたくなった時も、だな。いつでも相談しろ」

「助かるよ、ロズ」


 差し出された拳に拳をぶつける。


 だが、この結果を快く思ってない人間もいる。


「ホトリ殿!」

「おう、睨むなよ……俺繊細だから、怒っちゃいやん」

「正々堂々と戦うべきでしょう!」

「じゃあアリスは国の存亡をかけた戦いで奇襲を王が提案しても正々堂々と戦いましょうって言って味方をいたずらに殺すの?」

「い、いえ、それとこれとは……!」

「同じだよ。生き方の問題だからな」

「それでも納得がいきません! 抜きなさい、今日はとことん訓練しましょう!」

「ひぃいいいい!? 勘弁してくれぇぇぇ! 俺はこの後街に繰り出して買い食いするんだよぉぉぉぉ!」

「そんなもの後でできるでしょう! ほら、行きますよ!」

「いやだぁぁぁぁっ!?」



「レディウスのオッサンよぉ。正直、アリスは蒼の隊の隊長として未熟だと思ってた。腕と性格はいいが、それだけだ。けど、足りない部分を補える面白い奴がいるじゃねえか」

「ええ。アリスはもう少し、ズルくならなくてはなりません。まぁ、まっすぐなところと公平なところが彼女のいいところではありますが」

「違いねえ」



「こら、逃げたらダメです! ちゃんと正々堂々、勝負を!」

「嫌だって! それ刃引きしてあるけどぶつかったら骨砕けるだろ!? お前の力でそんなもんぶん回してみろ、俺の腕があっちゅーまに粉砕骨折だっつの!」

「なっ!? だ、誰が馬鹿力ですか! もう許しません! 今日は足腰立たなくなるまで鍛えて差し上げます!」

「勘弁してくれぇぇぇぇっ!?」



「……実力は、あるんだろうが。あのやる気のなさは逆にすげえな」

「本当に、騎士にはいない人物が入ってきて、面白くなりそうですぞ」

「て、テメェら、助けろって! 俺死んじゃうじゃん!?」

「さあ、捕まえました。構えるのです!」

「嫌だぁぁぁぁ!?」





 ……結局。

 アリスにボコボコにされた後、俺は風呂に入って……疲れをとる。

 風呂というのは王族階級しか使わないものらしく、許されている俺は特例らしいのだが……。


「んぁ?」


 滅多に人が来ないので油断していた。寝かけていた。

 バスタオルを巻いた、恥ずかしそうにしている――ルナの姿。

 一気に脳内が沸騰する。


「なっ、えええ!? る、ルナ、どうしたんだよおい!?」

「お兄様にぃ、言われましてぇ。ご褒美に背中でも流してあげたらどうだぁ? と……」

「イオンの奴……!」


 あいつ、イマイチ何考えてるかわかんねえ。

 可愛い妹をなんでこんな素性不明な怪しい人間とくっつけようとするんだ。


「くしゅっ……」

「……まぁ、寒いだろ。入れよ、温かいぞ」

「はい」


 長い髪は結い上げていて、そこから細い首筋が見える。

 バスタオルが厚手で助かった。薄手だったら透けるところだった。

 女の子と一緒にお風呂につかるというミラクルを堪能――する度胸もなく、ただドキドキしていた。平静さを取り繕うのに、いっぱいいっぱいだった。


「本日はぁ、凄かったですねぇ」

「あ? ああ、何が?」

「騎士対抗戦です。さすが、ホトリさんですぅ。お強いんですねぇ」

「正々堂々だとアリスに勝てないけどな」

「いえいえ、騎士隊長と互角に戦えるだけでもかなり珍しいらしいですよぉ?」

「んなもんかね」


 まぁ取り柄である腕っぷしでアリスに敵わないので少々悲しいのだが、これも最低限しか鍛錬をしてこなかった俺のツケだ。


「では、お背中をお流ししますねぇ?」

「……頼む」


 一生懸命、小さな手でルナは背中を洗ってくれた。

 こそばゆかったけれど、時折触れる体が柔らかくて俺的に幸せだった。


 お、女の子って柔らかいんだな……。

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