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四章 騎士として

 二日目。

 勤勉な俺はアリスティアに誘われて騎士の訓練に参加した。


「……はぁ、はぁ……」


 ……やめておけばよかった。

 城の周囲を五十週ほど回り、腕立てや腹筋運動、スクワットなど、基礎鍛錬の繰り返し。

 ようやく剣を持ったら持ったで全員が真剣と同じ重さの武器で殴り合う訓練が始まり、俺は早々に避難してきた。


「ったぁ!」


 アリスティアの動きを見る。

 レディウスの高齢化で譲られた隊長だと本人は言っていたが、それは正しくない。

 本人の剣は凄まじい冴えを見せている。

 これで、三十二人目。

 剣で相手を傷つけずに武器だけ弾き飛ばすという強烈な戦果を挙げ続けている。

 化け物だ。おまけに、身体能力エネルギー……チャクラ、いやここでは気力だったか。その気配もする。


「……ホトリ殿! 私と打ち合いましょう!」

「ええっ!? 勘弁してくれよ、俺もうへとへとなんだよ……」

「そんなことでどうするのですか! いいから構えなさい!」

「……あー、もう」


 訓練用の重い剣を持ち、呼吸を整える。

 体中にチャクラを。疲労が一瞬で消えていくが、一時的なものだ。気力の供給が途絶えると、一気に疲労が襲ってくる。

 とはいえ、今日一日くらいは戦っても問題ない。


「――行くぞ」


 叢雲一刀流剣術。


「っ!?」

「へえ」


 一瞬で近づくことで目の錯覚を起こす剣技――残像剣。

 つばぜり合いになり、先に彼女の小さな体を蹴り飛ばして距離をとる。長い手足はこういうリーチがモノをいう場合に有効だった。


「……」


 剣を地面に差し、手を組み替えていく。

 この動作に特に意味はない。これで発動する、という思い込みの方が大事なのだ。


「影分身!」


 自分の実体を七体出現させる。

 全員が剣を持った俺の姿を反映したが、向こうも技を使うようだった。


「シャイニング……ロアー!」


 薙ぎ払いから放たれた黄金の輝き。

 それは物理的な威力を持って迫り、分身を残らず消し去った。まるで波のような一撃に、冷や汗をかく。恐らく、本気を出せば、さっきの技でこの一帯は壊滅する。


「……いい加減、その魔術をやめませんか?」

「……いい度胸だ。叢雲一刀流剣術で、戦ってやろう!」

「望むところです!」


 俺は刃をひらめかせ、一瞬で懐に飛び込んだ――






「むーっ!」

「むくれんなよ、アリスティアさん」

「……貴方は騎士隊長と同格の腕をしています。腕がいい人物は認めざるをえません。……アリスで構いません」

「そうか、アリス」

「正々堂々戦ってもかなりの使い手ではないですか! もっと真面目に剣を磨く気はないのですか!」

「しつっこいなぁ。俺は相手を倒せれば、剣だろうがナイフだろうが毒だろうが爆弾だって使うんだよ。馬鹿正直に剣なんかで相手してやる方が難しいぜ」

「……まぁ、いいでしょ……つぅ!?」


 わき腹を抑える彼女。


「筋でも痛めたか?」

「多分、最後の一撃を受け止めた影響です」


 俺のせいか。

 なら、仕方ない。

 俺は彼女の脇にスッと手を伸ばした。

 

「ひょわああああああッ!?」


 バッチーン、と平手打ちが飛ぶ。

 あまりの威力に吹っ飛んでしまった。


「な、な、何をしようとしているんですか貴方は!」

「いや、怪我したんなら治してやろうと……」

「……? 治癒術師なのですか?」

「まぁ、動くな」


 もう一度、脇に手を当て、そこに気力を集中。

 細胞を再生し、筋肉を繋いでいく。チャクラを変化させ、筋を回復させていく。

 気孔……だっけ。まぁそういう技術だ。


「……どうだ?」


 ぐるんぐるんとアリスは腕を回す。


「……痛くないです」

「そっか。んじゃーな、お疲れさん。俺は風呂貰うわ……」

「あ……」


 男女別々だが、この城には大浴場がある。

 文明の違いから諦めていたが、風呂があるとロッタから聞いた時は嬉しかった。

 服を脱いで、ぱっぱと風呂に入る。


「……ふぃー……」


 気力を消し、ただ疲労感を風呂で溶かしていく。

 ……疲れが取れて行く。

 でも、これも労働のうちなんだろうか。それなら対価が欲しいけど。


「まぁ、いいか」


 それよりも、俺はもっとこの世界について詳しくならなければならない。

 ならば、どうするか。


「決まってらあ」


 詳しい奴のところに行くのが一番だ。





 

「はいにゃーん! って、おりょ、ホトリじゃん! 遊びに来たの?」

「いや、いつか言った、この世界について教えてほしいんだけど、時間いいか?」

「いいよん。休憩してたところだからにゃー。ほら、上がって上がって!」


 好意的なフォメルンは本当にありがたい。

 ロッタは城の仕事関係はエキスパートだが、学はないらしい。アリスも俺に対して嫌悪感を持ってるみたいだし、イオンも忙しそうだった。

 なので、フォメルンに会いに来たのだけれど、正解だったな。

 乱雑に薬品やら何やらを入っているテーブルを片付け、水出しの紅茶を出してくれた。


「サンキュ」

「で、何が聞きたいの?」

「まぁ、ざっくりあるが……」

「じゃあこの世界についてざっくり説明して、質問を受け付ける感じでいこっか!」

「頼む」


 紅茶を口に含んで、飲み下す。

 常温の紅茶って飲んだことなかったけど、飲みやすいな。

 おまけに香りもいい。バニラのフレーバーが、鼻孔の奥に流れて行って、甘さが残る感じ。


「この世界は、ウェーレス・ハンゼといいます。ここはその世界のラウスフェンド大陸という、一番おっきな大陸なの。北をノースガルド地方、南をサースガルド地方、西をウェストガルド地方、東をイースガルド地方ってよんで、ここは――中央地方のセントガルド地方にあるロギウス王国。ちなみに、各地方ごとに国があるの」

「どんな国だ?」

「ノースガルドのフェリエ帝国、サースガルドのマリーナ聖王国、ウェストガルドのシャンバール傭兵国家、イースガルドの種族同盟国家ってところかな」

「ほー。で、どんな職業があるんだ?」

「誰でも、何にでもなれるってことをこの国では認められてるの。だから、いろんな職業があるけど……基本的には、ギルドに入るかな」

「ギルド」

「そ。商売を中心としていたり、魔物討伐を目的にしたものから、採取だけ請け負いますなど、いっぱいあるにゃん。大抵のギルドはよろずなんだけどね。大きなところは特化しているとこが多いかなー」

「で、騎士はなにしてるんだ?」

「あー、騎士も一枚岩じゃないの。地域の目となり耳となる碧の隊、規律と秩序を守る蒼の隊、荒事専門の紅の隊って感じだにゃん。アリスちゃんは蒼の隊の隊長さんなのは知ってるよね?」

「ああ。そっか、秩序を守らなきゃいけない立場か……」


 そりゃ俺みたいな「法律? モラル? なにそれ受けるんですけど」の人間とは反りが合わないわけだ。


「じゃあ、今から行ってみる?」

「今から? どこへ?」

「ふふふ、い・い・と・こ!」


 パチン、と彼女はウィンクを投げたのだった。

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