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三章 街で

 街は思ったよりも賑わいを見せていた。

 なるほど、路地を一本またぐと全然人波が違う。区画というか、路地ごとに商店を整理しているのだろう。

 そして至る所に水路が張り巡らされている。

 滝をバックにした城は外から見れば荘厳で、そしてよく考えられている。

 滝の上から強襲――なんて馬鹿なこともできない高さがある。守りも考えられた、良い城のようだった。

 

「ほほー。こういう営みをおこなっているのですねぇ」

「俺もこの世界に来て初めての外出だからなー」

「なにか、飲食店で食べましょうかぁ」

「お、いいな。そうしよう。その金があれば足りるんだろ?」

「はぁい」

「食ってる間もしっかり守るからな。安心して食え」

「ホトリさんも一緒に食べましょうよぉ」

「い、いや、俺は仕事で来てるんであってな?」

「お金はわたくしもちですのでー。それに、主の命令には、従うべきでしょう?」

「……あいよ」


 そう微笑まれては、何も言えないじゃないか。

 俺達は人混みの中を歩く。


「おっと。遅れんなよ」

「あ、歩くのが早いですぅ……」

「ったく」


 気恥しいが、はぐれられても面倒だ。

 手を繋ぐ。


「!」

「どした、そんな驚いた顔して。はぐれないように、だ」

「……はい、ホトリさん」


 嬉しそうな顔をして、少し後ろをついて来る。

 芋洗いの混雑――とまではいかないが、そこそこ人の量がある。

 その中で、見つけたのが……


「はぐっ……もむもむ……」

「……」


 ホットドッグの店だった。

 テイクアウトでコーヒーと、何故かコーラが売られていた。

 俺達はホットドッグとコーラを買って、石橋の上に座って食べていた。行きかう人々に下を流れる運河。ロケーションは悪くない。


「あむっ……はむっ……」

「……」


 大きかったが、俺はもう食べ終わってしまった。

 口の小さな彼女が頑張って口をあけて食べているのは微笑ましくて、ずっと見ていられた。

 可愛い子は何をしてても可愛いんだよなぁ。


「? どうかなさいましたかぁ?」

「いや。ゆっくり食べな」


 俺はコーラを飲む。どこのメーカーなんだろう。というかどうやって作ってんだろう。

 どっちかと言えば、あの青い缶の奴に近いが、それともまた風味が違うというか……ライム? の香りがする。

 

「平和だなぁ」

「ですねぇ」


 ――爆発。

 なんかやたらめったら衝撃と爆音が響き渡り、住宅から煙が蒸気のように噴出する。

 丁度、ホットドッグを食べ終わっていたルナがふらふらとそちらに歩いていくのを追う。


「こらこらこら! どこ行くんですか君は! 爆発あったよね!? なんで火中に飛び込もうとするの!」

「気になりますぅ」

「そりゃ俺だって気になるけども! ほっときゃいいんだよ!」

「ですがぁ……」

「……あー、わかったよ。ほら、行くぞ」


 もうもうと上がる煙。

 騎士も集まってきていたようだった。って、


「アリスティア、さん? ありゃ、なんでここに?」

「ホトリ殿こそ、姫様と一緒になぜここへ?」

「気になったものでしてぇ……」

「……まぁ、気になるお気持ちは理解しますが……」

「そうなんだよ、こいつ止めてくれよ。俺から言っても聞かないんだよ」

「ならぁ、中の様子を見て来てくれませんかぁ?」

「ええええ!? 何で!?」

「ワガママを聞くのも、護衛の仕事ですー」

「この野郎、この野郎。あー、へいへいわかりました。いきゃあいいんでしょこの煙の中! アリスティアさん、ルナを頼んだ」

「わかりました。お願いします」


 建物の中に入る。

 爆発の衝撃で開いたのだろうか。煙は収まりつつあった。

 一階に異常は見られず、二階に上る。

 そこでは、白衣の女の子が地べたに倒れていた。


「お、おい! あんた! 大丈夫か!?」

「……を」

「あ? おい、どうした?」

「水を……」

「……コーラでもいい?」

「じゃあ、それで……」


 元気じゃねえか。





「にゃーん、ごめんなさい。いやぁ、うっかり科学爆弾を作るつもりが、常温揮発性の可燃液体を混ぜちゃってさぁ」

「……」


 神経質なアリスティアがイラついているのが目に見えて伝わってきた。

 この人はフォメルン・ドクター・フォーア。

 その界隈では有名な化学者で、国公認の医者でもある。

 シュヴァリエとかドクターとか、中間にある名前が職業姓というもの。これを名乗るには、国に認められなければならないそうで、苦労があるらしい。


「いつものことじゃーん。睨まないでよ、アリスちゃーん」

「年上をちゃん付けで呼ばないでください! まったく、国直属の医師を辞めて、冒険者に力を貸しているなんて……頭が痛い」

「てか、何で爆弾なんだよ」

「岩で道が塞がった!? とか、希少鉱石が欲しいけどええい面倒だ壁ごとぶっ壊してやる! って時に、携帯用の試験管ボムがお役立ち! 問題は試験管だから持ち運びに注意」

「へえ、普通に良いなぁ。こっそり胸元に仕込んで裏切ったりとかしたらその場所を攻撃して爆殺とか」

「でっしょー!? いい感じのアイテムだにゃん!」

「いや確実によくないに決まっているでしょう!? ホトリ殿、どんな思考回路をしているのですか!」


 いや、携帯できる爆弾って便利じゃね?


「じゃあ、あの爆発も日常茶飯事なんだな?」

「そうだにゃん! 週に二回くらいは爆発してるし、みんなも気にしてなかったっしょ? 騎士の人達も、真面目なヤツ以外は来ないにゃん」

「……頭が痛いです」


 アリスティアは頭を抱えているようだった。

 ルナは物珍しそうにコーラを飲んでいたし、各々寛いでいる。


「なあ、冒険者って何してるんだ?」

「にゃん? そんなことも知らないのん?」

「ああ。俺は最近、ここに来たんだ。この街の仕組みとか、冒険者とか、色々分からないことだらけでさ」

「じゃあ、今度教えてあげるよん! ……でさ。この女の子、姫様なんでしょ?」

「!?」


 アリスティアが一気に剣呑な眼差しになる。

 ルナは動じず、俺はだらりと両腕を下げた。


「ちょ、みんなファイティングポーズやーめーてーよー!? だって、気づくでしょ? わざわざアリスちゃんが同席するような、それでいてアリスちゃんと知り合いの手練れの男の人と一緒。守られてるって理解した方が早いし、守られるべき人間で見たことがないのは姫様くらいじゃん」


 な、なるほど。

 筋の通った判断だが、随分と頭の回転が速いんだな。


「……このことは内密にお願いします」

「王様は……知ってそうだにゃん。だから、見たこともない平民に見せかけた護衛まで用意したんだろうし」


 鋭い。

 何というか、科学者や医者というより、探偵と言われた方がしっくりくる。


「じゃ、お姫様、お名前は?」

「ルナティアと申しますー」

「ルナちゃん……かーっ! 可愛いにゃん! 十三歳くらい?」

「十六ですよー?」

「おおう、意外に。あたしは十七だから、色々よろしくにゃん!」

「はぁい、よろしくお願いしますー」

「で、そっちの護衛君は?」

「ホトリだ、よろしくな、フォメルン」

「ホトリ! なんかカッコいい! で、ホトリは暗殺者なの?」

「唐突に人を暗殺者呼ばわりすんな!」


 どいつもこいつも。


「だって、いかにもひと殺してますって顔してるし」

「ねえ俺どんな顔なの!? ひどくない!?」

「ルックスはいいけど、目が死んでる」

「とても落ち着いていらっしゃいますよぉ、ホトリさん」

「喋ると三枚目ですね」


 辛辣な評価に泣きたくなった。





 城に戻る。

 そのまま謁見の間へ、ルナは向かった。イオンが誰かから報告を受けており、鋭い目をしていたのだが、俺達を認めると、柔らかく表情を変えた。


「お兄さまー!」

「おや、おかえり、ルナ。街はどうだったかい?」

「とても楽しくてですねー、友人もできたのですよぉ?」

「それはよかった。苦労を掛けたね、ホトリ」

「基本的にはいい子だったよ。で、六日間俺は自由行動でよかったんだよな?」

「ああ、それでいい。僕から何か頼むことがあるかもしれないが、それは別途、報酬を用意しておくから。部屋は……ロッタ!」

「はーい! イオン様ー!」


 進み出てきたのは、なんというか、二つ結びが可愛らしいメイドさんだった。


「ロッタ、君にはホトリの専属メイドになってもらう」

「おおおお! 専属! はーい、専属専属! 専属いぇーい!」

「いぇーい」


 よくわからんがハイタッチを求められたので応じる。


「うん、仲良くやれそうです! ホトリ様、よろしくお願いしますね!」

「可愛いメイドさんじゃん。イオン、いいのか?」

「人懐っこいけど、貴族受けが悪いからね。余ってたんだ」

「あー、イオン様酷いです!」

「ちなみに父上が存命だったころからの古株だから安心してくれていい」

「二十七歳でーす!」

「えええええ!? 見えねえ!? 十代じゃないの!?」

「やだもー! 嬉しいなぁホトリ様ったらぁ!」


 ばしばしと背中を叩かれるけど、ええ、これが二十七?

 アリスティアといい、最近の女の子は分からない。年が全く分からない。


「では、部屋に案内してやってくれ。生活でわからないことがあれば、ロッタに聞くといい」

「サンキュー、イオン」

「ではこちらですよ!」


 案内されるがまま、俺はついていく。

 城の一室。

 十畳くらいなのか。大きな部屋だ。屋敷にいた頃は六畳の小部屋を使っていたので、だいぶ広く感じる。


「食事の時間になったらお呼びしますね! 外で食べたいって気分もあるでしょうし、その時は仰ってください! 外泊も、私に声を掛けて頂ければ!」

「サンキューロッタ。これから、よろしく頼むわ」

「はーい!」


 ……。

 失敗すれば首が飛ぶ仕事だけど。


「ん? あ、ロッタ。待って」

「はーい」


 机にあった小さな革袋をあける。

 そこには、金貨がぎっしりと詰まっていた。


「うひゃあ……!」

「これ、いくらなんだ?」

「金貨一枚で武器が買えるんです! ……この金額は、騎士隊長と同じくらいの俸給です!」

「……」


 なるほど。

 俺の実力は騎士隊長と同格くらいなのか。


「よし、これから飲みにでも行くか、ロッタ!」

「わぁ! いいんですか!? 金貨一枚でどれだけ飲んでもおつりがきますよ!」

「うむうむ、やっぱ身の回りの世話をしてくれる人とは、仲良くしときたいからな!」

「わーい! 久しぶりにメイド服以外の服着て行こうかなー! うふふっ!」


 その後、俺は早速ロッタのお世話になった。正確には結局、二軒目で潰れてしまったのだ。

 俺は酒は弱くないんだが……この世界の酒って、火酒だったんだな。そりゃつぶれるわけだ。

 がく……。

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