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二章 実力の片鱗

 黒いズボンに、襟付きの白い長袖のシャツ、それから革のブーツを与えられる。ついでに革のコートも受け取る。

 俺はそこに防寒具筆頭の深緑のマフラーを巻く。ここはかなり涼しい気候で、マフラーも違和感がない。

 護身用の武器まで用意されており、ベルトに装着できる。短剣を二本、同じ部位に差しておいた。剣も投げれそうでいい具合だ。

 軽く動いてみる。……違和感はない。問題なく動けそうだ。


「着替え、終わったぜ」

「はぁい」


 ドアが開き、ルナが入ってくる。

 つま先から俺を見上げ、ニコリと微笑んだ。


「よくお似合いですよぉ」

「そ、そう? ありがと。にしても、この部屋はなんなんだ?」

「王室が所有する衣類庫ですぅ。武器は暗殺者とお聞きしたので、それにしましたがぁ……」

「あー、なんでもいいよ。ありがとな」


 忍者二刀も修めているし、丁度いい。

 ルナの先導で向かった先は、謁見の間だ。

 高すぎる天井。

 地を見れば、甲冑を着こむ騎士達が道を作っている。堂々と、ルナはそこを通るので、三歩程度離れて俺も歩いた。

 先頭が隊長と副隊長なのか。蒼、紅、碧のマントが鮮やかで……多分、普段使われていない礼服のようなものなのだろう。

 先には、階段とデカすぎる椅子。

 そこに座っているのは、金髪の優男だった。嫌に美形で、カールしたその髪がガラス越しの陽光を受けてキラキラと輝いているようにすら見える。

 階段の一番下に立ち、ルナはニコリとその優男に笑みを浮かべた。


「彼かい? ルナ」

「はぁい。ホトリさんです」

「そうか。……ホトリ、僕はイオン・メルト・ロギウス。ここの王なんかをやっている。ルナ、彼にはどんな感じで話しかけられている?」

「普通ですぅ」

「そうか。じゃあ、僕にも普通で構わないよ。何か質問はあるかい?」

「あ、じゃあ。あんたらって、母親が違うのか?」

「ご明察。ルナは異国の東洋人の嫁から生まれた子でね。僕は正妻の子なんだけれど、まぁそんなめんどくさいことで差別しない」

「まぁそりゃいいんだが、あんた随分若いな」

「親は流行り病でどちらも、お互いになくしていてね。だからこうして、僕が王様なんかをやっているわけさ。君を呼んだ経緯については聞いたかい?」

「週に一度の外出に護衛が欲しいってあれか?」

「そうそう。……で、だ。採用試験を行う」

「兄さま、約束が違いますぅ。無条件で、といったはずではぁ……」

「最低限の能力があるかないかは見させてもらうよ。……レディウス!」

「はっ!」


 進み出てきたのは、青いマントの槍使い。老人だったが、その雰囲気は練磨されている。


「このホトリを試せ。この場で、だ」

「承知」


 進み出てきた老人。

 俺は慌てながら指さした。


「ちょ、ルナ! あいつやる気満々じゃん!? 俺殺されちゃうじゃん!? 約束が違うだろオイ!」

「そうですよぉ、兄さまぁ!」

「……始めてくれ、レディウス」

「行くぞ!」


 突進するレディウス。

 が、その目的の姿が、全員の視界から消える――ように見えただろう。


「何っ!?」


 彼の背後に音もなく降り立ち、双剣を差し向ける。

 後ろに目があるのか、それとも勘か。差し向けられた反撃の槍を片方で払い落とし、首筋に刃を当てることに成功した。

 ……俺を、レディウスは顔だけ向けて、睨んでくる。


「……貴様、何を使った……! 暗殺術の類じゃな……?」

「透遁とチャクラだけ。あれ、ここじゃ身体能力エネルギーってなんていうんだ?」

「気力のことかのう」

「そう、それ。それで姿を消して、足を強化して、背後に跳んで刃を当てただけ」

「……やりおるわい。降参じゃ」


 槍を落とし、両手を挙げるレディウス。

 全員がその結末にどよめいたが、手を二回たたいて、イオンが収束させた。


「蒼の騎士隊副隊長、『猛将』レディウスに勝った。みな、彼が護衛でいいな」

「しかし、イオン様! このような、どこの輩かもしれない男に、姫様を……! しかもその黒い髪、平民では?」

「というか、巡回も当然ながら強化する。騎士も警備に導入することになる。それに、ルナの……姫の顔は知られていない。ならば、護衛も平民の方が目立たなくていい。違うかな?」


 そういうと、全員が口を噤んだ。よし、とイオンが微笑む。


「悪かったね、ホトリ。だが、給料を出す身分としては、君がどれくらいの能力なのかを把握しておく必要があったわけだ」

「無能だったら?」

「殺せばいいしね」


 さらりとイオンが口にする。怖え。


「いや、有能そうで安心したよ。僕のことも、イオンと気軽に呼んでくれていいからね。まぁ、みんな何故か、様付で呼んでくるんだけど」

「そうか。よろしくな、イオン」


 言うと、イオンは目を丸くして、それから大笑いを始めた。


「なんだよ。なんか変な事言ったか?」

「いやいや! 君みたいな人間は貴重だよ。友として、よろしく頼む」

「ああ、よろしく」


 何か知らないが、琴線に触れたようで、握手を求められた。

 ……暗器のたぐいは、持ってなさそうだな。

 普通に握手をして、離れた。


「では、皆。決定を告げる。このホトリをルナの護衛とする。緊急招集に応じてくれてすまない。以上、解散だ」


 ざわめきが残る中で、俺はルナに手を引かれた。


「ではでは、参りましょー。街へ……」

「の前に。はい」

 

 イオンが革袋を渡してくる。

 中には、金貨や銅貨が入っていた。


「持っていくといいよ、ルナ。ホトリ、君の給料は君の部屋に置いておく。帰ってきたら確認するといい」

「俺の部屋ってどこよ」

「それも帰ってきたら案内する。今、使用人に準備させているところだ。その間に、早速ルナと散歩なり買い物なりしてくるといい」

「分かった……っておいおい、ルナ。引っ張るなよ」

「わたくし、外に出るのは初めてなのですぅ!」


 ……なるほど、それでか。

 何事にも動じないのは元からで、俺をどうしても護衛に据えたかったのは、外に出たいから。

 まぁ、女の子が楽しそうなのはいいことだ。


「さぁ、参りましょう」

「おう」


 俺も初めてになるこの世界の街へと、歩を向けた。

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