十五章 危機
グレゴリウス・ヒューゲル・フェリエ。
彼に、今回の顛末を語る。
「――以上だ」
「そうか。ご苦労だったな、ホトリ」
「つか、何で俺をまた来訪させたんだよ」
ルナが倒れそうになっていたので、仲間の休憩ついでに俺は報告に来ていた。
無理もない。身内が目の前で殺されても、吐きもしなかったのだ。色々溜まって当然だと思う。
涙は枯れたけれど、しぼんだ心が回復するには、時間しかない。
「オレはぁ才能のあるやつが好きだ。あのお嬢ちゃん――シャルルもいい線だが、お前ほどじゃない」
「いやいや、シャルルの方が才能あるから」
「嘘を吐くな。お前の才能は、それどころじゃねえ。人を見る目は確かなんだ、間違いねえ。彼女が上限五十としたら、お前は二百はある。で、見たところ二十三歳にして、お前の完成度は五十四パーセント……でも、不殺でリミッターを掛けてやがるな、無意識に。だから、騎士隊長より少し上のレベルでしかねえ」
「……」
「なあ、お前。何で殺しをやらない。大義名分さえつけば、罪にも問われない。護衛として属しているなら尚更だ。お前はお前自身でリミッターを掛けている。そんなことじゃ、お前の大事なもの――命か、女か。どちらかを守れずに死ぬぞ」
「とりあえず、その節穴の目を何とかしたらどうだ? 俺はそんなに強くない」
「……強情だねぇ。そして、お前の戦闘方法は合ってねえ」
「は?」
「お前の才能は天賦の才だ。だからシンプルなのが良く似合う。真正面、真っ向から、打ち合い、叩きのめし、ぶち抜く。技術なんて本来いらねえはずなんだよ」
「いや、俺忍者だし」
「暗殺者なのは見りゃわかる」
だから違うっつの。
「お前の本領は、武器でも道具でもねぇ。その体だ。その体、鍛え上げれば――無敵になれると思うがね」
「……付き合ってられっかよ」
「何でぇ、少しは付き合えよ」
「与太話に用はねえんでな」
「……じゃあ。本題だ。ホトリ、オレのモノになれ」
「ええええ!? お前ホモだったの!?」
「ばっ、ち、違ぇよ! そ、そういうことじゃなくてだな!」
「頬を赤らめるな気色悪い!」
「……お前、あのままロギウスにいると腐るぞ、その才能」
「いーんだよ。こんな戦いの才能が腐る世の中でいてくれりゃ、俺はそれで」
「……後悔するぜ」
「そんときゃそん時だ。じゃな、グレゴリウス」
片手を挙げて、俺は去る。
強さとか、才能だとか。正直どうでもいい。
今は、ルナの傍にいてやりたかった。
雪まみれになって帰ると、宿の前で雪を固めているルナ達に出会った。
「なーにやってんだ?」
「ホトリさん。シャルルちゃんが、雪だるまを作ろうって」
「うん!」
楽しそうなシャルルに、笑みを浮かべているルナ。
しかし、時折、その顔が曇る。
俺はその顔面に――
「わぷっ!?」
「ぷははっ、ボーっとしてるからだ」
「むぅ……! えい!」
「ひょいっと。ほらほらどうした、当ててみな」
「シャルルちゃん! お願いします!」
「まっかせてー! とりゃりゃりゃりゃ!」
「うおおおおっ!? シャルル、やめ、やめろォ!?」
雪玉を高速で投げつけてくるシャルルと、相変わらずのんびりと雪玉を投げてくるルナ。
彼女達から逃げ回っていると、イオンが寒そうに腕をさすりながらやってきた。
「くそ寒いのに元気だな、ホトリ」
「イオン、お前も参戦しろ!」
「嫌だよ。何で僕が……」
「えーい!」
さすがルナ。マイペース。
雪玉をイオンにぶつける。
「ふふふっ、イオン兄さま、遊びましょう?」
「……いい度胸だ、ルナ。ロギウス王国の王族たるもの、何事にも全力でだ! 行くぞ、ホトリ!」
「よっしゃ、やっちゃるぜ!」
俺達はしばらく雪遊びに興じた。
楽しそうにしてくれていたルナに、心が救われた思いだった。
ロギウスに帰り、酒場に寄る。
「あら、ホトリ。しばらく見なかったけど、どうしたの?」
「レティーナ。最近バタバタしててな……」
いつもの席には、レティーナと……
「ん? どうしたんだい、親友」
オスティンが座っていた。
「おいレティーナ、オスティンも加わったのか?」
「ええ。団員の一人ってところ。水の魔術も剣の腕もそこそこだし、まぁナンパ癖を除けば満点ね」
「ナンパじゃない。そんな軽い行為ではないよ。誰にでも真剣なだけさ!」
「ドヤ顔で何言ってんだお前!?」
相変わらず読めないやつだった。
「じゃあちょっとクエストに付き合いなさいよ」
「どんなクエストだ?」
「近所の森に、メルトメロンが自生しているの。でも、周辺には魔物がでるし、ということで、採取をね」
「なら、人手は多い方がいいんじゃないか? ヴェロンやロンド、それにミルたちも集めてさ」
「今別々の用事でいないのよ。どう? いいお土産にもなるわよ」
「……土産か」
なら、ルナとシャルルにでも持って帰りたい。
特にルナは傷ついてるだろうし、なるたけ優しくしてやりたかった。
そっとしておいた方がいいのも分かってる。あいつの性格だと、元気づけようとする俺達を逆に気遣うはずだ。
けれども、放ってはおけなかった。面倒な性格なのは、俺の方。
「しゃーねえ。いくか!」
「うむ。甘いものをとって、それから甘いデートと洒落込もうじゃないか!」
「いやデートはしねえけど……」
「何!? 可愛い女の子とデートしたくないのか君は!?」
「俺は一途なんだよ」
そんな気が多い方じゃないとは、思うんだけど。
まぁ、今のところ、特別はいないな。
やっとこさ、荷車を押して帰ってくる。
「テメェ、レティーナ。最後まで手伝わなかったな」
「あら、か弱い女の子に荷車を押させようと? それにワタシは魔術専門」
「ボクも肉体労働は苦手でね」
「俺だってやりたくないっつーの」
溜息を吐く。
「もう、取り分を少し多くしてあげるってことで話はついたじゃない」
「割に合わん」
「あんまり文句を言うものではないよ親友」
「へいへい。んじゃ、荷馬車は片づけといてくれ。俺は一個もらって帰るわ。俺の報酬は次に来た時に渡してくれ」
酒場まで運んだら、一個持って俺は帰宅する。
荷車まで使うことになろうとは思わなかった。道中の魔物は俺とレティーナ、オスティンで撃退。ファングウルフと言っていたが、どの程度の魔物なのだろうか。
まぁそれはいい。
早く持って帰ってやろう。
「わぁ! メロンですかぁ!」
「そーそー。どーだ、ルナ。美味そうだろ」
「甘い香りが……!」
「じゃ、食べる前に、お互いのことを話していくってのはどうだ?」
「お互いの事ぉ、ですか?」
「うん。じゃあ、母さんの名前だ。うちは静香だった長谷部静香」
「わたくしの母親は、アイリ・アサギリでした」
「……アイリ?」
聞いた名前だな。
「いや、もしかしたら……」
「?」
「あのさ、俺の親父の姉なんだけどさ。朝霧愛理って人が、若いころに行方不明になったっきりなんだよ」
「……」
「? どうした」
「召喚の時に、ですねぇ。あなたが現れたのは、偶然ではないんですぅ」
「そうなのか?」
「ええ。人間なのを望んだので、わたくしの血液を媒体に使ったんですけど……。それが、魂の情報として伝わったと、召喚した人間から聞きました」
「ってことは、もしかしたら……お前は、俺の従妹なのかもな」
「……従妹」
「ん? 嫌か?」
「いいえぇ。だって、従妹だと、妹で、そして結婚もできるじゃないですかぁ」
……そうだな。
俺がやけにルナのことを気に掛けているのにも、ようやく理解がいった。
どこか、俺と近いものを感じていたから、なのかもしれない。
「じゃ、食べるか」
「はぁい!」
メロンを頬張るルナを見てると、そんな感情もどうでもよくなる。
「じゃ、好きな食べ物は?」
「甘いものはぁ、何でも大好きですぅ!」
「そっか。んじゃ今度外出する時、うんまいアイスクリームの店見つけたんだよ。そこ案内するよ」
「わぁぁぁ! 楽しみですぅ!」
……笑ってくれている。
当たり前であるかのように。
それだけで、こんなにうれしいなんて。
「? どうしたんですか、ホトリさん」
「いやいや。メロン、取ってきたかいがあったなって」
「盗ってきた?」
「いや盗んだわけじゃねえよ。ギルドの依頼で、取ってきたのを分けてもらったんだよ」
「なるほどぉ。ギルド……」
「……興味あるか?」
「はいぃ!」
「んじゃ、今度案内してやるよ」
どんどん、したいことが増えて行く。
彼女と過ごしたい時間が、増えて行く。
……本当に俺は、身内としか思ってないのだろうか。
アイスクリームを舐めながら、俺はギルドの面々にルナを紹介した。
勿論、姫であることは明かしていない。居合わせたオスティンも何も言わず、ただ微笑んでいた。
「よろしくね、ルナティア」
「はいぃ、よろしくお願いしますぅ」
レアーナと握手なんかしていると、オスティンが耳打ちしてきた。
「いいのかい?」
「交友が増えるってのは、いいことじゃねえか」
「……そうだね」
姫を隠している今でも、重要な事だろう。
「女の子同士が一番いいからね!」
「いや、それもどうなんだと俺は思うけど……」
相変わらずのオスティン。
と、警鐘が鳴る。
滅多な事じゃならないはずだが……何があったんだろうか。
「戻るぞ、ルナ!」
「は、はいぃ!」
ルナを抱え、屋根の上から跳んでいく。
「ふわーぁ!」
「お、そういやルナを抱えて跳んだことなかったな」
「凄いんですねぇ、ホトリさん!」
「別に凄かぁねえよ。どうれ、もう少し高いところへ――」
王城まで一気に届くジャンプ。
その折、暗雲を切り裂いて――ドラゴンが山に降り立つのを確認した。
「……ドラゴン」
「どうしたよ」
「竜災、です。最悪、国が無くなるかもしれません」
「な……!?」
この国が、無くなる?




