十三章 明らかになる影
さて、シャルルだが。
やはり非常に優秀な生徒だった。
なので。
「お、お兄様、ごきごきっていってるよ!? な、なんか、体が、動かないんだけど……」
「絶対に動くなよ。動いたら死ぬぞ」
「ええええええ!?」
今は、忍者整体を施している。
これをやれば身が軽くなり、力が湧く。気力のない人間の限界突破の手法としてもあるが、元から才能のある人間に使うと、より効果的。
人間は持てるポテンシャルを引き出しきれていない。
これは、そのポテンシャルを引き出すのに、一番手っ取り早い方法だった。
パン、と背中を叩くと、かしゃんと骨がハマった。
「はい、動いていいぞ」
「……あれ? なんか、体が……軽い? 力も沸いて来る!」
ぴょんぴょんと跳ぶ彼女だが、滞空時間が長い。
「……シャルル、ちょっと体触っていいか?」
「? いいけど」
「じゃ失礼」
日本だと完全に事案な事を口走ってしまったが、これは必要な行為だ。
腕を掴み、その後太ももを掴む。
……なるほど。
「バランス型だな」
「? どういうこと?」
「気力の波動――体に道筋があるのはわかるか?」
「うん! そこに気力を流して、強化するもん!」
「通常時、巡っている気力があるんだけど、普通は強い場所と弱い場所がある。人によって違うけど、俺もバランス型。上半身、下半身ともに、同じように強く気力を流せるんだ。しかも、シャルルの伸びしろは見えない。……すげえよ」
「えっと……?」
「俺なんか簡単に抜いちまうぞって話しさ」
「そうなの? そうしたら、お兄様はワタシが守ってあげるね!」
「そっか。そりゃ嬉しいな」
くしゃと頭を撫でる。
嬉しそうにする彼女と一緒に、俺自身を鍛え治すために、今日も鍛錬だ。
「今日はナイフ投げやりたい!」
「剣術の後にやるぞ」
「わーい!」
彼女はナイフ投げが好きなようだった。
クナイは思ったよりまっすぐ飛ぶようで、面白いらしい。
飛びクナイと普段使い用のクナイは進呈済み。
訓練場に行くと、アリスがまた渋い顔をしていた。
「いつも一緒ですね」
「うん! お兄様ー! うふふっ!」
「でへへ、可愛いなシャルルはぁ~」
甘え上手なので、つい甘やかしてしまう。
溜息を吐き、アリスは剣を抜き放つ。
「ホトリ、お相手をお願いします」
「えー、やだよ。今日はシャルルに付き合うんだし」
「最近付き合い悪いですよ! 前までは嫌々ですが付き合ってくれたではありませんか!」
「いや、俺よりも強くなりそうな原石だ。きっちり育てたいんだよ」
「……ですか。では、シャルル殿」
「なーに?」
「……私と稽古をしましょう。来なさい!」
「ヤダ」
ずこーっとアリスは地面を滑った。いいリアクションだ。
「何故ですか!」
「だって、ワタシのこと殺そうとしたし」
「その男も殺そうとしたでしょう!?」
「守ってくれたもん! それに、ここにいられるのもお兄様のおかげだし。ねー?」
「ねー?」
「くっそ、腹が立ちます」
「でも、そうだな。そろそろ俺以外が相手でもいいだろ。シャルル、命令だ。アリスを倒せ。ただし、殺すな」
「分かったよ!」
彼女の目が硬質に変わる。
忍者として、心を殺す術を教えた。
人をすでに殺しているシャルルは、何というか、そういうことに関してより一層ためらいが無くなった気がする。
敵味方をはっきりと区別している。強かなのだ。
そういうところは、ルナに似ているかもしれない。
「たぁぁぁっ!」
「くっ!」
アリスの顔色が変わる。
一撃でも受ければ、その早さと重みと鋭さ、遠慮のなさが存分に伝わるだろう。
子供でもあやすつもりだったんだろうけど、俺から見ればシャルルとアリスは互角だ。
「せぁああああっ!!」
「たぁぁぁぁぁッ!!」
力では、まだアリスの方が優勢。
多分アリスは典型的な上半身特化型。武器を振るうスピードや格闘などに優れるものの、足捌きなどがまだまだだ。
一方、シャルルはどちらかというと下半身主導で動いている。
フットワークの軽さと軽い武器を活かした連続攻撃。それを更に活かすには、敵がどの部位に攻撃を仕掛けたら嫌か、徹底的に教え込んでいる。
シャルルのペースに持ち込まれると、体力や気力などが消耗して、確実に傷が増えて行く。暗殺用の剣術。
しかし、経験値の差だろう。暗殺剣術はもう俺で見ているアリスは、それに対応し、シャルルの剣を弾き返す。
「え!?」
「―――っ!」
瞬間の隙。しかし瞬間で、達人同士は事足りる。
喉元に突きつけられた剣。勝ったのはアリスだった。
「負けちゃった。強いね」
「いえ、手並みは見事です。これは、ホトリ殿が育てたくなるのが分かります」
「お兄様ー、どうだった?」
「いい感じだな。というか、あれだ」
「「戦いは、剣だけじゃない」」
「お、わかってるじゃんか」
「うん! お兄様に教わったこと、ぜーんぶ覚えてるよ!」
「よっしゃ。じゃ、次は忍術の練習するか!」
「するー!」
こうして、いろんなことを仕込んでいく。
……親父も、俺に忍術とかを仕込んでいた時は、こんな気持ちだったのかな。
「……それは、本当だね?」
「うん。ワタシの出身は、北のフェリエ帝国。お屋敷に行って、そのお話を、髪の黒いお兄さんに聞いたの」
「ふむ。厄介だね」
「どう厄介なんだ?」
聞くと、イオンが首を振った。シャルルが首をかしげる中、イオンが口を開く。
「……僕には、すでに嫁いだ弟がいてね。弟は、ロギウス王国の王権を取り戻そうとしているようだ。頭の痛い話だよ」
「そりゃ、何で嫁いだんだよ?」
「ああ。異母の影響を強く受けた弟でね。ただ、貴族の間からは不義の子ではないかと怪しまれ、耐えかねて嫁ぐという方法で逃げた大馬鹿者さ」
「どうすんだよ」
「ホトリ、それから、シャルル。護衛を頼みたい。僕が直々に決着を付けに行く」
「ルナ一人残していくのは不安だ」
「……確かに不安だが……このまま暗殺者が増えてはかなわない」
「何もお前が行く必要はないんじゃないか?」
「ルナに行けと? ……彼――ミズーリとルナの仲は、悪くなくてね。残酷な事をさせられない。かといって、ホトリ。君に任せたら、シャルルと同じように命を救うかもしれない。それではだめだ。あいつは国王という立場に妄執している。殺すのが手っ取り早い」
「……フェリエ帝国への敵対行為とならないのか?」
「だから、先にフェリエの皇帝に暗殺の許可をもらいに行く。彼とは既知の仲でね」
「それに、シャルルにとっても敵かもしれない、というわけか」
「……うん。お父様とお母様を殺した相手かもしれない。だったら、ワタシは行きたいの」
「……」
「ならいっそ、二人で行きゃいいじゃねえか」
「何?」
「ルナも話に加えてやれよ。あいつももう、子ども扱いは嫌だろうしな」
「……なるほど、その発想はなかったな。なら、騎士隊長格も一人つけねばな。……いや、むしろ手薄になるのが狙いなのかもしれない……」
「他に城を任せられる人間はいないのか?」
「レディウスが一通り知っているが、後継者も用意しないとな……。では、ルナに声を掛けて来てくれ。メンバーは、僕、ルナ、ホトリ、シャルル、それからメイリアだ」
なんか、身内のどろどろって異世界にもあるんだな、とか。
そこが冷めた感じだ。俺の身うちじゃないのでどうでもいいというのもあるが。
……ルナが心配だな。




