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十二章 本物の暗殺者

 どたどたと騒がしい音がする。

 このパターンは……


「ホトリ殿! 起きていらっしゃるか!」

「お約束だなぁ、アリス。寝てるよ」

「バッチリ返事しているではありませんか!」

「やだ、寝るぅ……」


 毛布を剥いでくるアリス。

 あ。


「……」

「いや、アリス。落ち着け。男のあさだ――」

「――きゃあああああああああっ!?」


 力の限り、俺は引っぱたかれる。

 り、理不尽な……。





「も、申し訳ありませんでした……ど、動揺して、つい」

「ついで人を殴ってんじゃねえよ。ったく。男は朝、処理してないと大体ああなるの。覚えとけ」

「は、はい……」

「で、なんだよ」


 いつもの装備を整えたら、それが言いたかったのだと言わんばかりにアリスが近づいて来る。


「暗殺者が忍び込んでいるのです!」

「暗殺者ぁ? 捜索術に長けてるやつはいねえのか?」

「そ、捜索術?」

「……あー、もう。わかったよ」


 印を組み替え、範囲は――とりあず城全体を。


「はッ!」


 自分の感覚が研ぎ澄まされていく。

 感知の術、というもので、生命反応などを知覚することができる。

 歩き慣れたこの城なら、どういう人間が今どういう動きをしているかが分かる。

 アリスみたいな気力の漲る人間なら、より見つけやすい。


「……一人はロズウェルだな。他に二つ反応がある。一つはえらく……小さいな。子供か? 子供のような実力者に覚えは?」

「……私くらいですが。いや、私も背丈が小さいだけで、一人前のレディーですよ。大きな方はどれくらい大きいですか? 気力が大きいのですか?」

「あー、大きさは百五十センチくらい。気力もデカい」

「なら、メイリアだと思います。メイリア・シュヴァリエ・ムメイ。碧の隊の隊長です」

「んじゃ小さい方を追うか」

「自分も追いましょう!」

「お前はダメだ、問答無用で切りかかるだろ。誰を狙ったものなのか、誰の命令なのか。聞けるなら聞いておいた方がいいだろう? それより、騎士隊を集めておいて、守りを固めてくれ。これが陽動の可能性がある」

「は、はい!」


 俺は窓を蹴って、外へ飛び出した。

 外壁を鉤縄をひっかけて飛び、次の壁を蹴って、再び城内へ。

 感じたのは、隠し通路に一人。気力に長けた人間しか使えない非常通路。

 昇ると、女の子がいた。

 暗殺者、という感じでもない。フリフリのドレスに――刀を持った、十歳くらいの、白髪の女の子。


「こんにちは!」

「お、おう。こんにちは」

「ねえねえ、イオンって人はどこにいるの? お城の人だよね?」

「イオンに会って、どうするんだい?」

「殺すの!」


 暗殺者だった。

 というか、こんな暗殺者ムチャクチャすぎるだろ。


「殺してどうするんだよ」

「……え?」

「いや、殺した後、考えたことある?」

「お父様もお母様も死んじゃって。その時、このお話が来たんだぁ! イオンって王様を殺すだけで、一生暮らせるお金を貰えるんだって!」

「あのなぁ、常識的に考えて払うわけないだろ」

「えええ!? そうなの!?」

「そうなの。お前みたいなのは始末しやすいから、殺されて終わりだ。父さんも母さんも、殺されたんだろ? 誰に殺された?」

「……うん。ロギウス王国の手の者だって言い残して……私が殺しちゃった。だから、お父様やお母様を殺した命令がその王様の命令なら、王様を殺さなきゃ」

「ハッキリ言うが、それは間違いだ。そもそも暗殺者が素直に自分の出身を名乗るか?」

「……あ」

「騙されてたんだよ」

「でも、ワタシは殺されない! 強いもん!」

「あー、はいはい」

「馬鹿にして! もう一人前なの! たぁぁぁっ!」


 ぐんと加速する。


「ちぃ、冗談だろ!?」


 気力を使えるのは分かっていたが、速い!

 おまけに、刀の一撃も鋭い。力もある。練磨されていないが、こいつ、才能の塊だ! 打ち合えば分かる!

 まだ荒いが、そこらへんの冒険者や騎士より絶対に強い。騎士隊長クラスだ。


「あなた、強い!」

「まぁ、伊達に年食ってねえんだよ。こいよ、大人の戦い方ってのを見せてやる」



 暗がりの中、鉤縄を投げる。こともなげにそれを避けるのを確認した後、気力を走らせて回転させる。

 鉤縄は服に引っかかって、彼女をこかした。そこからシュルシュルとワイヤーが動いて、彼女をがんじがらめにして、動けなくなる。

 ……こんな狭いところでドレスなんて着ているからそうなる。

 起き上がる前に踏みつけて、拘束する。


「あ、あれ? あれ? 動けない、んしょ……あれ……?」

「……んじゃ、あの世行きだな」


 クナイを取り出して、深呼吸する。

 大丈夫だ。俺は殺せる。

 殺せない理由がない。

 こいつは排除すべき敵だ。


「や、ヤダよぅ……! し、死にたくないよぉ……!」


 大声で泣き始める彼女に対して、俺は――刃を振り上げた。





「暗殺者を捕まえてきた」


 イオンや騎士隊が集まる中、縄で縛った彼女を突き出す。

 まだ泣いていたが、俺が知ったことではない。


 結局、俺は殺せなかった。

 処遇は騎士隊と法にゆだねるとしよう。


「間違いない。僕を殺すと言った少女だ。メイリア、丁度君がいてくれて助かったよ」

「……頑張った。そいつ、強くて逃げられた」


 多分、「イオンって人?」とか聞いて、その人にあったらどうするの、的な事を聞いたんだろう。

 で、戦闘になったと。


「よくやってくれた、ホトリ。やはり、暗殺者には暗殺者だな」

「だから俺は暗殺者じゃねえっつってんだろ!」

「ははは。さて、アリスティア。この少女の首を刎ねよ」

「!」

「気は進みませんが……子供とはいえ、暗殺者。殺しておく方が無難でしょう」


 剣を抜き放つアリス。

 恐怖で震えている少女。逃げられないと悟ったのか、涙がまた流れていた。


「死にたくないの……助けて……!」

「……あの世で詫びましょう。御免!」


 振り下ろされた白刃――


 ――それを、白刃で弾き返す。


「ほぉ」

「なっ!?」

「……え?」


 一番驚いていたのは、その少女だった。

 無理もない、自分を無力化して突き出した人間が、その少女を庇っていたからだ。


「イオン、この子、俺にくれないか?」

「え……? ど、どういうこと?」

「こいつ、俺の弟子にしたい」


 咄嗟に思い付いたのは、それだった。


「殺せ、アリス」

「その命令を続けるなら、俺はルナの護衛を降りる」

「……なぜそこまでする。薄汚い暗殺者だぞ」

「こいつは何も知らない。知らなくても許されないことを彼女はしようとした。だが、見過ごせない」

「まさか、惚れたのか?」

「才能には。こいつは将来、騎士隊長を凌ぐ使い手になる。その才能が潰えるのは、同じ剣士として見過ごせない」

「……分かった。友人の頼みなら、仕方あるまい。しっかり育てろよ」

「おう」


 俺は気力をこめていたワイヤーの拘束を解いた。


「え……? 殺すんじゃないの……?」

「俺が、今日からお前の兄貴だ。守ってやるよ」

「……」

「どうした? 信じられないか?」

「信じられない! なにを、信じたらいいか、もうわからないの! 殺すんでしょ!?」

「殺さない。俺の夢があったんだ」

「……夢? それって、何?」

「可愛い妹が欲しかった」

「え?」

「妹はいいぞぉ。家族だって時点で、俺が守ってやるし、身を守る術を教えてやるし。……知らなかったら、教えてやるよ。いろんなことを」

「何か言動が意味深ですね」

「黙ってろアリス、それはお前がやらしい奴だからだ」

「だ、誰がですか、誰が!」

「で、どうする? 俺と一緒に来れば、殺させないけど?」

「……行く」

「そっか。じゃ、よろしくな。俺は叢雲滸。ホトリ・ムラクモってことになるのかな」

「ホトリお兄様?」

「うん、それで」


 見た目は抜群に可愛いので、お兄様呼ばわりも可愛い。


「ホトリ、部屋は君と一緒だ。見張りの意味も兼ねている。逐一動向には気を払え」

「あいよ」

「……ワタシ、シャルル。今日から、シャルル・ムラクモ……?」

「おう。兄妹だからな」

「……ほ、ホントに殺さない?」

「さすがにへこむぞ。それに殺すんなら、ぐるぐる巻きにしてる時に殺してるわ」

「……えい」


 控えめに、彼女が抱き着いて来る。


「よろしくね、ホトリお兄様」

「ま、よろしくな」


 こうして、俺に妹ができた。






 ルナと引き合わせるのもどうかと思ったが、業務の都合上、顔見知りの方が都合がいい。


「シャルルちゃんですねぇ。わたくしはルナティアと申します。よろしくね?」

「うん! よろしく!」


 上品な顔立ちだが、敬語はまだ使えないようで。

 一緒に本を読みだした彼女達に付き添い、ため息を吐いた。


 一時の感情に流され、暗殺者を助けてしまった。

 これが親父に知れたら、確実に俺は殺されているな……。異世界でよかった。

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