十一章 決闘
「おおおお……」
白い建物が立ち並び、水路が巡る。
さすが、聖王国というだけはある。清楚な街並みだった。
「すごくきれいな街ですねぇ」
そう言ったのはルナだったが、俺もそう思う。
とても整然としてて、綺麗な街だった。
そして静かかと思えば、そうでもない。
喧騒はロギウス王国よりもうるさいくらいだ。子供達も走り回って遊んでいることから、治安もいいのだとわかる。
「城は俺達のことわかるのかな」
「このララメルにお任せですよー! なんせ、マリーナ聖王国のメイドも二年務めてましたし!」
「おお、さすが!」
「えへへ、こっちですよー!」
嬉しそうなララメルの後を追う。
ルナと手を繋いだまま。
「……ルナ。もしかしたら、俺は負けるかもしれない。不安か?」
「いいえぇ。ホトリさんを信じてますからぁ」
……期待は、裏切れないな。
全力を尽くそう。
城内にも水が流れている、不思議な城。
白石に、道には赤いカーペットが敷かれている。大きな火災にはならなさそうなところが好感度が高い。
通されたのは謁見の間。そこには、小さな姫様が玉座に座り、頬杖をつきながら俺達を眺めていた。脇には、あいつが……オスティン・ルッシュ・アレイヤが俺達を睨んでいる。
「ようこそ、ルナティア姫とそのお付きの方々。ワタクシはレジロティーナ・ブウェル・マリーナ。よろしくお願いしますね」
「よろしくお願い致しますぅ。わたくしはルナティア・メルト・ロギウスと申しますぅ」
「よろしく、ルナティア。で、オスティン。その護衛はどちらかしら?」
「そのマフラーの男です」
「そう。じゃあ、早速始めてください」
「っておいおい、あんたそりゃないだろう? 王族貴族の前で剣を振っていいのか?」
「試しにこっちへ攻撃してみてくださいな。それですべてが分かります」
何かあるんだろう。
飛びクナイを一本取りだして、投げる。
あっという間に水が集結して、クナイを弾いてしまった。
それを拾いながら、なるほどと思う。
「……便利だな」
「でしょう? 玉座にいる間は絶対に攻撃を受けない。それにしても本当に投げるんですね」
「投げろって言ったじゃんか」
「攻撃しろ、とは言いましたが、ナイフを投げろとは言ってないでしょう」
まぁ、そりゃそうだよな。
「ふふっ、アナタ、面白いですね。お名前は?」
「叢雲滸。ホトリでいい」
「そうですか。ホトリ、ワタクシのお付きになりませんか?」
「そ、それはぁ……!」
何故かルナが必死になって俺を庇っているが、それを見てレジロティーナがくすくすと笑う。わかっていてからかっていたようで、ルナが真っ赤になっていた。珍しい。
「オスティン。……ここまでお膳立てして、負けたらどうなるか。わかりますね?」
「ええ。負けません」
何かを察して、全員が引く。
「ルナティア姫とお付きは、玉座の方へ」
「……ふぁいと、ですよ。ホトリさん」
ルナがそう励ましてくれる。
それだけで、負ける気がしない。
「ボクは君に負けない。一つは、ここが有利なフィールドであること。そして君は、ボクの攻撃を防げない!」
オスティンが取り出した短い杖をかざすと、流れていた水が固まりになって宙に浮かんだ。竜の形を一瞬で象る。
「お、おいおい……!?」
「アクアスパイラル!」
部屋の中を駆け抜けるドラゴン。避けるのは簡単だが、難癖付けられてもめんどくさい。
圧倒的な水圧を誇るだろうそれを――背中の大太刀を抜いて、気力を全力で回しながら、切り裂いた。
その技に、全員が目を見開くのをみることができた。
「な、に……!? 水流を、切り裂いたというのか……!?」
「防ごうとしようと思わないなら、無力化してしまえばいい」
「ムチャクチャだ! なんなんだ、君は!?」
「……後、お前は言ったな。このフィールドが有利であること。それは、俺も同じだ」
手を組み替えて、水浸しの地面へと手を付く。
水がある。あとはチャクラを使って圧縮、そして変幻自在に形を変えればいい。
同じく、水龍。
「なっ!?」
「水遁、水龍撃!」
同じく水で防いでいるが、もう既に俺は他の術を編み上げていた。
「火遁、龍の吐息!」
最大出力でぶつける。
爆発的に蒸気が上がり、視界が煙る。
そこから、更に忍術。
「影分身!」
蒸気が晴れると、地面に押さえつけられ、クナイを突きつけられるオスティンの姿が明らかになった。
「くっ……! 術師だったのか……!」
「剣でも戦ってやってもいいよ」
大太刀を捨て、打ち刀を抜く。
分身を消すと、彼女も細剣を抜いて、猛然とこちらに向かってくる。
「うぉおおおおおおおお――――ッ!!」
「……」
気力も何もない突進。
あっさりと弾いて剣自体を飴細工のように切り捨てる。
細剣の切っ先がカーペットに突き立った。今度は剣をすて、拳でオスティンが殴りかかってきた。
納刀して、組みあい、蹴っ飛ばして踏みつけて、聞いてみる。
「なんでルナにこだわる」
「ルナティア姫だけじゃない……すべての美少女は、幸せでなくてはならないんだ……!」
「何でそう思う?」
「ボクは、女に生まれた。女を悲しませるのは全て男だ。だから、女性に生まれ、貴族に生まれたボクは……ありとあらゆる美しい少女を、幸せにしようと決めた。そういう力があるんだ」
「……」
「ボクは……男として育てられた。だから男のことは分かるつもりだ。……ボクには妹がいた。妹は可愛かったが……四十も年の離れた貴族に嫁ぐことになった。ボクは許せなかった。妹も泣いていた。だから、ボクは……! その貴族を徹底的に痛めつけて、婚約を解消させた!」
「へー」
「……ボクは妹を幸せにする。そして、世の中の可愛い女の子を、全員幸せにしたい。幸せにならなければならない!」
「じゃあ、お前も幸せにならないとな」
「……な、に……?」
「いや、お前も可愛いからさ。ちゃんと自分のことも大事にしてやれよ」
呆気にとられる全員。
その中で、ルナが頷いた。
「ええ。ホトリさんの言う通りですぅ」
ぽかんとしていたオスティンが、大笑いを始めた。
「な、なんだこれは……! ボクは、全ての女の子を救う存在なのに……なんで、こんな……涙が……」
ルナが歩いてきて、オスティンの頭を撫でた。
「与えられるだけが、幸せではないのですよー」
「……!」
「んだな。ま、何にせよ、俺の勝ちってことでいいな?」
「……ああ。負けを認めよう」
「じゃ、可愛い女の子を幸せにする夢は頑張れよ。俺も、可愛い女の子は幸せになってほしいからな」
「何!? き、君は、同志だったというのか……!?」
「いや、そりゃそう思ってるけど……」
「……そうか。男にも、そう考える人間は、いるんだな」
そういうオスティンは、何故だかこちらを見て頬を赤らめていた。
結局、オスティンの家の誇りを掛けた決闘は、無残にも俺が踏みにじってしまった。
けれども、良かったのだろう。
ルナがこうして、無事にロギウスに帰ってこれて、ホッとしている。
婚約は解消。オスティンの家には罰金が科せられることになったらしい。
「やぁやぁ、そんな顔をして、どうしたんだ我が友よ!」
「……お前、何でここにいるわけ?」
キッチンでつまみ食いをしようと思ったら、オスティンがいた。
「いやいや、自分磨きさ。もっと好かれる自分になるため、本物の男を勉強したいと思ってね」
「他所でやれ」
「そう冷たいことをいうなよ、我が友よ」
「いつの間に俺達は友達になったんだよ」
「美少女に幸せでいてほしい同盟さ」
「……ああ、もう。何でもいいわ」
「ふふっ、ボクは男が嫌いだった。だが、嫌いな男にボクはなろうとしていた。だから、これからは男について理解し、理想の男を目指すのさ! そ、それに、君も美少女は幸せになるのがいいと思っているのだろう?」
「おう。お前も美少女だから、頑張って幸せになれ」
「……ふふっ、今までボクを美少女と呼んでくれたのは、二人目だ」
「一人目は?」
「妹」
そこへ、ルナがやってきて――固まっていた。
「あのぅ、何をしてるのでしょうかぁ」
「ああ、ルナティア姫。彼とボクは親友になったということで、会話をしていたのさ」
「な、なぜ、いきなり親友に?」
「決闘をして、自分と相手を理解することができたからね。ルナティア姫は安心して、親友に恋するといい……っと、もうこんな時間か。今日見つけた子とデートするので、ではな親友!」
去っていくアホを眺めて、ため息を吐く。
ほんと、何がしたいんだが理解できない。
けど……
「……本気なんだな、あいつは」
美少女が幸せでなくちゃいけない。ならば、自分が幸せにすればいい。
なかなかできることでも、考えられることでもないし。
……その意欲は、見習うべきなのかもしれない。
「……わたくしもぉ、決闘すればよいのでしょうかぁ」
「え、誰と?」
「ホトリさんと」
「え!? 何で!?」
「お互いを理解しあう行為だと、認識しましてぇ……」
「……そんなことしなくても、一緒にいて、会話するだけでお互いは理解できるよ」
「むぅ……それに、さっきぃ、仲がよさそうでしたぁ」
「お、もしかして妬いてるのか?」
「む、むぅぅぅぅ!」
「ははは! フグみたいだぞ、ルナ! ほれ」
もちもちした、膨らんだほっぺを抑えると、ふひゅーと口から空気が逃げて行った。
「あーっははははははっ!」
「ひどいですぅ! もう!」
ルナがつーんとそっぽを向く。
そんな彼女を撫でる。
優しい時間だった。




