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九章 困ったら逃げろ!

 俺はイオンと二人で食事を摂っていた。


「ところで、ルナが随分と君に懐いているようだね」

「ああ。驚きだよなー」

「いや、そうなるように仕向けたからね」

「なんでまた」

「ルナには婚約者がいる」


 食事を吹きそうになった。

 けど、まぁ、年頃の姫様だもんな。いないわけがないか。


「僕としては、その婚約を解消したいんだけどね」

「そりゃなんでだ。言っちゃ悪いが外交の道具だろう?」

「そこだ。道具として嫁がせるなんてことを、可愛い妹にさせる。僕は我慢ならない。しかも、相手は……女性だ」

「な、なんだって!?」


 女同士の婚姻?

 それって異世界的にはありなの? アウトなの?


「そんなアブノーマルな事がこの国で認められれば、この国はカオスな状態になる。いや、民はいい。しかし王族はダメだ」

「まぁ、位の高い人間がやると、それを公認し推奨してるようなもんだからな」

「話が早くて助かる。というわけで、君だ」

「どういうわけ!?」

「男の魅力というものを教えてやってほしい。というか、君はかなり気を許されているよ。一緒に寝たそうじゃないか」

「断じて添い寝だからな」

「分かっているよ。でも、責任をとってくれるならそれ以上も許可しよう。僕は君に貴族の籍を用意しようと思っているからね」

「貴族籍!? 俺に!?」

「ああ。で、どうだろう。今日、婚約者をなのる糞女が来てるんだが、会ってくれないか?」

「イオン、かなり根に持ってるんだな……」

「女なのに男の真似事をしている滑稽な雌猿ごときが妹にコナを掛けているのが気に入らないのさ。それも、ルナのほかにも婚約者が大勢いる。……最悪殺していい。頼む」


 微笑んでいるけど、目が笑っていない。マジで怖い。

 仕方なしに、俺は頷いた。


「しゃーねーな。面倒ごとは嫌いだけど」

「そうか、ありがとう。やはり持つべきものは友だな」

「いやでも糞怪しい俺に妹を紹介すんなよ」

「友なら構わない。それに、腕は確か。娘を守れる腕を持っているのが一番だからな」

「……そっか」


 立ち上がり、俺はその場を去る。

 とりあえず、ルナの部屋だな。

 歩いていると、ルナの部屋の扉が唐突に開いた。

 そしてところどころ着崩れている服のルナが飛び出し、俺を見つけて駆け寄ってきた。


「ど、どうしたルナ!」

「こ、こ、怖く、なりましてぇ……」

「おや、酷いじゃないか。これから、婚約者同士の甘い語らいだというのに」


 出てきたのは、嫌に顔が整った男性……いや、女性だった。胸のふくらみが性差を表している。

 それにしてもイケメンだな。


「そもそもー、友人はいいとしてぇ、婚約者は……おかしいと思うのですけどぉ」

「何もおかしいことはないさ。さあ、おいで。大丈夫、怖くないよ」

「……」


 ギュッと俺の服の裾を握って、必死に隠れている。

 ……しゃあないな。


「おいコラ男女。ルナが嫌がってるじゃねえか」

「……誰だい? 平民が城にいるだなんて聞いていないが」

「俺は滸。ルナの護衛だ」

「護衛ごときが、貴族の婚約者同士の愛の語らいを邪魔するな」

「生憎と、イオンに許可は貰ってある」

「……あの男め……」

「ホトリさぁん……!」


 ギュッと俺を抱きしめるルナ。

 剣呑な目つきを、目の前の女はしている。


「ボクはオスティン・ルッシュ・アレイヤ。マリーナ聖王国、ルッシュ領を統治する貴族だ。ルナティア姫は、残念ながら最初に目を付けていたのはボクだ。病床に伏したここの先代の王が認めてくれたのさ」


 ああ、そういう事情なわけな。

 つまり、先代の王が健在だった時に婚約者として認められているってこった。


「だが、今のイオンは違う。俺を推してるぜ?」

「フン、護衛ごときが。いいだろう、決闘を申し込む」


 ビシッと指を向けられるものの、俺は首を横に振った。


「やだね。めんどくさい」

「ボクに負けるのが怖いのかい?」

「うん。戦いたくないし。ただ……」


 一瞬で移動し、彼女の喉元にナイフを突きつける。


「なっ!?」

「……ルナを怖がらせたな。死んで報いてもらおうか?」

「ほ、ホトリさん……そこまでで……」

「……」


 俺は彼女の頬を思いっきり引っぱたく。

 その目は、恐怖しか浮かんでいなかったが、俺は構わなかった。


「……ぼ、ボクに刃を向けたな。マリーナ聖王国が黙っていないぞ」

「やってみろよ。その日が……お前の命日だ。冗談だと、思うか?」


 俺の目を見たオスティンは、後ずさりし、そしてその場から逃げ出した。


「……ホトリさん、ごめんなさい。怖がらずに、受け入れていれば……こういう争いも……」

「タコ」


 拳骨をルナの上にも落とす。軽くだが。


「痛いのですよぉ」

「嫌な時は嫌って言え。どうにもならないなら逃げちまえ。それでも逃げられない時はどうにもならんし、どうしようもない。だから、その時が来るまで、自由に逃げていいんだ」

「……ホトリさん……でも、わたくしは……早く、大人になり、王族としての責任を……」

「ばーか。我慢すんな。背伸びすんな。子供は子供らしく、ワガママを言え」

「……ほ、ホトリさんは、なんで、そんなに、や、優しいんですか……?」


 ぼろぼろと泣いている彼女を、撫でる。


「俺は優しいんじゃない。身内にはだだ甘いんだ。お前のことは、身内だと思ってる。だから、甘やかしてやる。俺にくらいは、ワガママ言え。嫌っていうかもしれないが、基本的には叶えてやるよ。護衛の仕事抜きでな」

「……」


 ルナは、俺の胸で泣き続ける。


「あ」

「……何を、やっているのですか?」


 アリスちゃんじゃないですか、やだー。


「姫様を泣かせるとは……! 覚悟ぉぉぉっ!!」

「ひええええっ!? やっぱこうなるのかよぉぉぉぉ!?」


 俺は猛然と追ってくるアリスを背に、ルナを抱えて走り出した。


「……ふふっ」

「ははっ……!」


 なんだか、こうしていると、笑えて来る。


「なにを笑っているのですかぁぁぁ! 待ちなさい、このぉぉぉ!」


 さて。

 俺、生きてられるのかな、コレ。

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