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4話 いざ異世界へ、知らない親友が沢山できました

異世界

 ―――ドスドスドスドス



 屋敷が近付いてくる。



 基礎から生えているモフモフとした獣の脚を懸命に働かせ、割れた窓から生えているたっぷりの真白い毛を蓄えた巨大な尻尾を左右に激しく振って、 


 屋敷が、 近付いてくる。



 そうして俺は転移早々にして、獣屋敷に喰われた。



 。。。。。。。。。。



「ようこそ、平川様」

「お待ちしておりました」


「うむ」


 はたして、喰われた俺は暖炉の炎も暖かな談話室の座り心地の良い犬の上に落下したのだった。


 言い間違えた訳ではない。

 犬だ。

 椅子じゃない。


 高級そうなベルベット生地の背凭れに、ふかふかのクッション。

 白と黒の斑模様毛並みも艶やかな脚と、揃いの尻尾。

 俺の尻のベストな角度を自主的に模索し、そうして『伏せ』をして落ち着く。


 石造りの壁には、顔色の悪い男女6人の肖像画が金の額縁に収まりこちらを見ている。本当に、見ているのだ。


 何しろ時々、在らぬ方向を向いて俺の観察をサボっている奴がいる。バレてるぞ。


 天井には実際に羽ばたく動作を見せる金製の蝙蝠が何匹もとまる豪華なシャンデリアが中央に一つ。

 周囲には宙に浮くランタンの中で、蝋燭の代わりに妖精が羽を輝かせて室内を灯す。


 椅子とセットの丸い艶やかな木製のテーブルの上に鎮座する髑髏が喋りかける。


 

 これ、異世界だろうな。ファンタジー系の。


 不思議と、何も驚かない。

 全ての出来事が、すんなりと受け入れられる。

 寧ろ………、


「……おい、自分の椅子に行けよ!」


「冗談を言うな! 新入りにどちらが上なのか、その体に教えてやっているんだろうが!」


 当たり前のように俺の膝の上に座る、見知った朱色の髪の小娘。

 そっちの方が気になる。


 軽すぎる体はそれでも布地越しに体温が混ざり始めれば確りと温もりを感じる。

 周囲から見ればほのぼのしているように見えるかもしれないが、こいつ、元気一杯に脚をゆする為踵が思いっきり俺のスネを蹴り続けている事に気付いてない。


 痛くないが。……そうだ、痛くない。


「平川様」


「わかっている」

 漆黒の鎧に包まれた身体で立ち上がる。

 漆黒の闇をも照らす地獄の蒼い炎を纏う『ヘルライトソード』を掲げ、低い声で紡ぐ。


「俺は、ダークナイト平川」

 想像、小学校1年生時。


「ヴァンガルヴォルグ村出身」

 想像、中学校2年生時。


「キングダークエルフナイトの平川弘と」

「スーパープリンセスの平川正美の間に産まれた」

 職業及び種族想像、小学校1年生時。

 両親の名前、そこまで妄想に手が回らなかった為、無想像。本名。


「善良に見せかけた王の手下である、血も涙もない盗賊に襲われ故郷の村と両親を奪われた」

 想像、高校3年生時。最近。


「闇に堕ち暗黒軍の隊長を務めた」

「親友は別部隊の隊長『十十十クウド十十十』」

 想像、高校3年生時。最近。


「その後、とあることが切っ掛けで心を取り戻した俺は新たな仲間達と数々の冒険をしてきた」

「天使族の『パンツ2枚目』、ウィザードの『』、ハンターの『白ゴマおじさん』」

「大切な……仲間達」

 想像、高校3年生時、最近。


「そして」

「……今は亡き………」

 声が、詰まる。

 胃の腑に石が詰め込まれたような感覚。


「エルフの妻……、クリスティーン」

 涙も、出ない。

 悲しみに暮れた日々が長すぎて、涙も枯れている。

 そう”この体”は憶えている。


「良いですね」

「問題はなさそうです」

 髑髏は朗らかに続ける


「この世界を救っていただく、ですが平川様にはメリットが無さすぎますものね」

「私達にも都合が良い、そして平川様も今までの空想全てが現実となる」

「名前などいくつか想像なさっていたものは、一番古いものか最新のものを採用させて頂きました」


「心はかの世界にいっらっしゃった平川様のまま」

「魂は半分ずつ」

「体に刻まれた記憶、経験は今まで想像してきたダークナイト平川様です」



 ―――そうだ、思い出せる。



 自分と敵と異世界以外の想像以外が面倒くさくなり、思いっきり普通の普段通りの中年男女である両親と過ごしたあの田舎の村。

 貧しくてひもじい思いもしたが、不思議な花が沢山咲いていて、子供も大人もみんな心の優しい温かな村だった。


 だが普段通りの見た目の両親、と感じられる辺り確かに心は現実の俺だ。


 十十十クウド十十十の顔は知らないのでモザイクが掛かっているが、共に戦った際に負った傷がまだ腹で疼く。


 初めて上半身裸ハンターの白ゴマおじさんを、白ゴマおじ、ヴァーン、と呼び合って酌み交わした酒の味も憶えている。


「美しいわね……本当に………」

「ところでイライザ、あなたまた太ったんじゃないのかしら?」


 何故小学校1年生の時の、本名でいったタイプを採用した。

 何故ヴァーングレイスの方を採用してくれなかったんだ。

 脳内でズレが起こっている。

 早速不具合だろう、これ。


「何言ってんの。ふざけないでよね」

「より魅力的になっただけでしょ! キャスリーン、あんたこそ肌荒れしてるじゃない」


 猫耳ウィザードに至っては読めなくて名前が呼べていない。


「それで、あたしはこれくらい大きなドラゴンを殴った事がある!」


 ……クリスティーンとの穏やかな日々。

 輝く金髪、柔らかな笑顔……

 そして、倒れこむ彼女を抱きとめた俺の手を伝う鮮血の生暖かさ、

 ……聖光竜(セイントドラゴン)の癖に腐臭漂う、吐息。


「この完璧な陶器肌のどこが肌荒れしてるって言うのよ!! 訂正しなさい!」

「頬の所のそれ、肌荒れじゃないの? あ、間違えた、シミかなぁー」

「殴ったら火を噴いて来たから仕方なく、仕方なくだぞ! 勘違いしてくれるなよ。仕方なく撤退したんだけど………」


「ちょっと、静かにしていてくれないか……!」

「少し位感傷に浸らせてくれ……」


 俺の膝の上で弾む少女、それから俺を挟んだ左右、見憶えのある美少女2人が騒がしい。

 そして嫌な予感もする。


 骨の口を開く髑髏。

「ダークナイト平川様、手紙は読んでいただけたと思います」


「本日より、此方の屋敷にてこの悪役修行中の姫様達と共に寝起きしながら、世界を旅し邪悪の復活を手伝っていただきます」


「フン……任せろ」


 おい、馬鹿だろ、俺の体。

 確かに嬉しい、想像が現実となるのは。

 だが、あくまで暗黒騎士(ダークナイト)は妄想であるからこそ成り立っているんだ。

 それが現実となれば話はまるで違うぞ。


 そう抗うが、結構な確率で、骨髄反射的に体が先行して答える。


「そうですか!」

「それでは早速ですが、先ず始めにここにいる3人の姫様たちと近くの森でユニコーンの毛を毟ってきてください」

「それが必要なのです。理由は後でも良いでしょう」


「……嫌で……

 ……任せろ、女の2人や3人庇いながら戦う等造作もない。正し、足手纏いにはなるな………理解出来た奴は付いてこい」

 

 ヘルライトソードを振りかざす、俺。


 半分こなはずの現実の俺の魂は弱いらしい。


次回、ユニコーンの毛を毟れ!

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