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(6.5)

コメディ要素(微)&恋愛要素(増)

その日の夜、柚季が俺の部屋を訪ねてきた。

夜くらい解放してもらいたいという本音を抑え込みつつ笑顔で対応する。


「か、カズにぃ」

「どうしたんだいユズ? もう遅い時間だしちゃんと寝ないと肌にも悪いよ。可愛くて綺麗な肌なんだから大切にしないとね」

「う、うん、そうなんだけど…」


否定しないのかよ。

謙遜の色も見られないな。


「夏休みの宿題で、ちょっとわからないところがあって…カズにぃに教えてもらいたいなって思って…」

「わかったよ、ユズ。ユズがわかるように頑張るから、俺に見せてくれるかな?」

「え、え〜と……」


言い淀むユズが後手に持っていたものを胸の前に移動させた。

…てっきり勉強道具かと思ったら、枕だった。

いくらユズでも間違えたなんてことは………ないとも言い切れないか?


「ゆ、ユズ?」

「えっと、ね…。カズにぃが早く寝たほうがいいって言ったし、勉強は明日にしてもう寝ようかなって…」

「そ、そうだね。じゃあ明日頑張ろう」


思わず「枕を持ってきているのに、俺の発言を理由にするのは苦しくないか?」と言いたくなったが、我慢我慢…。

………てかなんでユズは枕なんか持ってきたんだろう?

勉強すると言いつつ、俺に宿題を押し付けて自分は枕を使って安眠する予定だったのか?

しかし俺の部屋には俺のベットくらいしか寝具はないし、客間の布団を持ってきても敷けるようなスペースはない。

もしそんなことをされれば俺のベットは柚季が使うこととなり、俺はなぜか自分の部屋から追い出されて客間で寝ることに…。


「あ、あのねカズにぃ!」

「う、うん?」

「ユズ、久しぶりにカズにぃと一緒に寝たいなって思うんだけど…ダメ、かな?」

「う〜ん…ユズももう大きくなってきたんだし、いくら兄弟でも一緒に寝るのは…」

「で、でも〜…うぅ」

「それにさ、一緒に寝ると暑くて眠れなくなりそうじゃないかな? 俺はユズが心地よく眠れないのは嫌だなって思うんだ」

「大丈夫! ユズはカズにぃと一緒のほうが安心してむしろぐっすりだから!」


……はぁ。

これも『兄』体験の一環として受け入れるしかないのか…。

もう夜だし、これ以上騒がしくしたり言い合って遅くまで起きてるわけにはいかないしね。


「わかったよユズ。じゃあ一緒に寝ようか」

「う、うん…」


俺は机の上の勉強道具(『兄・姉』の教科書と『兄職業法』をプリントアウトしたもの)を片付け、部屋の電気を消した。

ユズがその間に俺の布団の中に潜り込んでいたので、ユズから少し離れたところに枕を移動させて俺も横になる。

真ん中に枕を置いていたせいかユズが自分の枕と俺の枕を若干重ねてたからなんだけど、邪魔ならどかしてくれて良かったのに…。

体の力を抜いて目を閉じると、横から熱を感じた。

そちらを向くと、ユズが俺の方に寄ってきていた。

…せっかく暑くないようにと配慮したのに意味がなくなってしまった。


「ユズ、起きてるかい?」

「……」

「寝ちゃったのか…」


起きているなら離れさせようかと思ったのだが、寝ているのなら起こしてしまうのは可哀想だろう。

俺が我慢すればいいだけの話だからね。

そんなことを考えて、ユズに背を向けて再び目を閉じる。

すると、ユズが抱きついてきた。

……本当に起きているのでないとすると、寝相が悪いのか人恋しいのか…。

さすがに今回は引き離そうかとも思ったのだが、昼間ユズが抱きついてきたときのことを思い出してできなかった。

そして俺はそのまま黙って目を閉じ、眠りについた。


半分…というかほとんど眠りに落ちようとしていた時に「カズにぃのバカ…」というユズの声が聞こえた気がしたのだが、それが幻聴だったのかそれともユズの発した言葉だったのか定かではない。



まぁ確実に言えることは、翌朝俺がベットから蹴り落されていたほど、柚季の寝相は悪いってことだ。

……もう絶対に一緒に寝たりしないからな、ユズ!

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