(5)
さぁ始まりました夏休み!
終わりはまだですか? 8月31日はどこですか?
僕はここにいますよ〜……。
「おはよ〜カズにぃ〜…」
「……あぁ、おはよう柚季。まだ眠そうに目を擦る柚季も可愛いね」
「え、えへへ〜…ありがとう、カズにぃ」
「でも、いつもの柚季の方がもっと可愛いと思うなぁ」
「う、うん。じゃ、じゃあ顔洗ってくる!」
俺が朝日を見ながら黄昏ていると、目をこすりながら柚季が起きてきた。
今の一連のやりとりだが、俺の本心からの言葉は「…あぁ、おはよう」の部分だけである。
それ以降の歯の浮くような、本当に兄が妹に言うだろうかと疑問に思わざるを得ないセリフは、『兄』体験の一環である。
喫茶店という接客業を経験していなければ絶対に無理だっただろう。
そんなことを考えていると柚季が戻って来た。
「カズにぃ、どう…かな?」
「うん、さっきよりもずっと可愛いね」
「で、でへへ〜…」
「じゃあ服を着替えて朝ご飯にしようか。母さんが作ってくれたご飯が冷める前にさ」
「そうだね。じゃあカズにぃにもっと可愛いって言ってもらえるように、気合い入れて着替えてくる!」
「あ、コラ柚季。そんなに走ると危ないだろ。お前が怪我したらどうするんだよ」
「ご、ごめん。…でもカズにぃにいっぱい可愛いって言ってもらいたいって思ったら我慢できなくて…」
「あぁもう、怒られてしょんぼりする柚季も可愛いなぁ…。ほら、俺の可愛い柚季。もう怒ってないから、もっと可愛い柚季を俺に見せておくれ」
「うん!」
柚季が元気を取り戻して部屋に戻っていく。
それに反比例するように俺の元気が無くなっていく…。
……まだ初日が始まったばかりだというのにこの疲れ具合。
残り40日とか耐えられる気がしない。
そして俺はまた黄昏る。
夏休みさん、終わりはまだですか?




