(3)
「やっほーカズにぃ」
「…お前、今日はまだ学校あるだろ? ってか、毎年お盆くらいにしか来ないのに………もしかして」
「うん、私がカズにぃの妹になりに来てあげたんだよー。嬉しい? ねえ嬉しい? 私みたいな可愛い妹ができちゃって嬉しい?」
「全然。むしろお前じゃないことを切に願ってたよ」
「そ、そんなに喜ばれると逆に恥ずかしいていうか……」
「人の話を聞け!」
夏休み2日前、従姉妹の木下 柚季が俺の家にやってきた。
名字が同じなのは俺の父さんの弟の娘が柚季だからだ。
小さい頃…と言っても4年くらい前なのだが、「わたしね〜、大きくなったらカズにぃのおよめさんになるの〜」とか言ってよく抱きついてきたのはその頃の可愛かった柚季だけ。
翌年には「あ、カズにぃ。カズにぃはまだかのじょできないの? わたしの友達でも付き合ってる子いるんだよ〜? カズにぃってば遅れてるぅ〜」などとからかってきたり、俺がそれに対して去年の柚季の発言を返すと「え、わ、わたしがカズにぃのおヨメさんとか何言ってるの? 意味わからない!」と言ってキレてきた。
……たった一年の間に柚季の身に一体何があったのか興味が尽きない。
何があの純真で可愛らしかった柚季を、こんな…まるで俺の同級生の女子たちのような人間から可愛さを捨て去った存在に変えてしまったのか……あれ、なんか答えが出てるような?
ま、まぁそういうわけで柚季は最初の出会い以来変わってしまった。
……ん? 出会い以来変わったって、よく考えたら打ち解けたってことなのか?
いや、でもお嫁さんになるとかいう発言自体かなり打ち解けてる証拠っていうか、そんな気がするんだけど…。
話を戻そう。
とにかく俺は柚季の『兄』を体験することになった。
あ、余談になるんだが、先生から親と親戚に連絡が入って俺には届いてなかった話。
あれの真相は柚季が俺に内緒にして欲しいと、柚季の両親と俺の両親に頼んだらしい。
不運なことにそれがどうして誤解を生んだのか、俺の両親は「和樹が『兄』体験に選ばれたことは本人には内緒だ」ということになったようで、俺にまで連絡が来ていなかったのだ。
……まぁ大した準備も必要なかったわけだし、心の準備的なこと以外には問題なかったんだけどさ。




