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俺、木下(きのした) 和希(かずき)の話に少しだけお付き合い願いたい。

実のところ、何から話せばいいのか…何を話せばいいのかすら整理できていないのだが…。

……そうだな、とりあえず日本政府の奇行から話した方がいいか。



戦争、世界恐慌、人種差別、奴隷制度etc.

そんな過去の出来事がほとんど影も見られなくなった現在の日本では…いや、もはや世界規模であるのだが、萌え文化というものが溢れていた。

過去は戦争のために発展してきた科学技術が、現代では"萌え産業"なるものにおける開発競争のために発展してきている。

メイドロイドなんかがいい例だろう。

文字通りメイドさんのアンドロイドだが、機能が無駄にスゴイ。

格好通りにメイドとしての技能(例えば家事全般や給仕など)は数多の妄想家……もとい小説家たちによって、あるいは漫画家たちによって描かれてきた"完璧(パーフェクト)メイド"のように人間の限界に挑戦しているかのようなレベルである。

しかし、それだけではない。

なんと、オプションとして"ドジっ()"という設定をつけたり、"ヤンデレ"などの属性を付与できるのだ。

…もちろん、ロボットの条件としての『人に危害を加えてはならない』というのを守る範囲なので、刺されたりといったことはないので安心してほしい。

つまり、メイドとしての機能は完璧である上に自分好みにカスタマイズすることも可能なレベルにまで技術が発展しているのだ。

ことの発端は、とある小さな研究所のオタク研究員が「メイドさんほしいなぁ………そうか、いないなら作ればいいんだ!」という発言をして、開発し始めたことだという噂だが、真偽は定かではない。

そして重要なのもそこではない。

重要なのは、そのメイドロイド開発が多くの企業や研究所の目に止まり開発競争が起こったことだ。

ある研究所は自分たちの技術力の証明のために、ある企業は人件費などの長期的な目での削減のためや事業開拓のため…と言いつつ実は自分の趣味のためにというふうに、様々な理由からだった。

これも重要なことではない。

重要なのはあくまでも、そういったものが技術発展のきっかけになる程に平和だったことだ。

そしてそれほどまでに萌え文化が浸透していたことだ。

…そう、この萌え文化の浸透こそが元凶だったのだ。


「最近の兄姉は間違っています! もっと弟妹を可愛がって甘やかすべきです!」


そんな発言が国会で出たのだ。

それだけに止まらず、国会内では「そうだそうだ!」という賛同の声が飛び交ったり、街では「年下に対する扱いの改善を!」というデモ活動まで起こるという事態になった。

…そしてそのわずか2ヶ月後に


『兄職業法』


というものが試験的に導入されることとなった。

もちろん海外から注目が集まった。

しかしそれは、奇行を見て驚くといったものや何を馬鹿なことをやっているんだといった視線ではなく、結果次第では我が国でもやいいなぁ羨ましいなぁといった意味でだった。

そう、世界に広まった萌え文化はここまで人間を汚染していたのだ。

日本政府はそれによって何を狂ったのか一層力を入れ始め、義務教育(現在、高校までが義務教育となっている)の授業のカリキュラムの一つに"兄・姉"というものが加えられた。

教科書には、これまた妄想家…もといラノベ作家や漫画家たちの作品が一部掲載されており、その後にその兄姉の行動原理や心理状態、弟妹からの好感度上昇度などが書かれていたり、似たような行動との相違点や実行時の注意点などが詳しく解説されていた。

厚さはなんと辞書にも劣らず、値段もそこそこ高かった。

保護者や学生たちから不満の声が出るかと思いきや、萌え文化による汚染のせいかほとんど問題なく、むしろ多くの人から歓迎されていたほどであった。

多くの人というからにはもちろん一部の常識(いや、今の時代からいうとこちらが非常識なのか?)のある人からの反対もあった。

……まぁ、お金の力ってすごいよね。

というわけで"全面的に"歓迎されて導入された『兄職業法』。

当時中学3年生だった俺も、高校に上がった春から学ばされている。


ここまでが前置きになるかな。

本題はここからだ。

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