blue lovers
「海香ちゃん。空が帰ってくるのよ。会ってくれないかしら」
お母さんに言われたから、行かずにはいられなかった
当のお母さんは行ってしまい、私は一人あの人に会わなければならなかった
リビングには、あの人と私の写真
幼馴染で中学校まで一緒に登校していた
一緒の高校に入りたかった…
でも、互いの努力が足りなかった
それから気まずくなって
会えなくなって
あの人の部屋に入る
並べられたダンボール箱を除いて、あの頃と同じだ
ベットに座る
あの人の面影が隣にある気がして
どんな顔をしてあの人に会ったらいいのだろう
昔はいつだって一緒にいた
その時はどんな顔をして一緒にいたんだろう
思わず、頬を触る
ベッドに顔をうずめる。お母さんがきっと洗ったのだろうあの人のにおいはしない
いや、あの人のにおいを私は覚えているんだろうか
確証もない。2年も離れてしまったから私はあの人を忘れてしまっている?
背筋に冷たいものがよぎる
ふと顔を上げるとダンボールが目に入る
あの人と別れて2年
私は勉強に打ち込んできた
あの人は何をしてきたんだろう
知りたくてダンボールを開く
始めに出てきたのはトロフィーだった
陸上競技のものだ
インターハイ1位
県大会1位
いくつかの賞状もある
昔からあの人は、足が速かった
私をいつも置いていった
その度に私は泣いてあの人が戻ってくるのを待っていた
それは今でも同じだということだ
次のダンボールを開く
あの人の体操服だ
思わずかいでしまう
ラベンダーの香りがする
いけないと思いつつも顔をうずめた
深呼吸を一回
体操着をしまって次のダンボールを見た
大量の手紙が溜まっていた
何よりもハートマークが目を引いた
内容はどれもラブレターだった
『先輩はいつもいい匂いがして大好きです』
『付き合ってくれませんか』
『いつも練習を見させてもらってます。走ってるあなたはとても素敵です』
あの人はカッコいいから女の子には昔からモテていた
もしかしたら、彼女を作ったかもしれない
それは、嫌だ
あの人の隣に私以外がいるなんて嫌だ
少しそう思ってしまっている自分に嫌悪しながら
最後の箱を開いた
あの人のアルバム
そして、小さな箱
『スカイブルーの香り』
これが何だったのか思い出すのに時間がかかったけど
思い出した瞬間、涙が溢れた
私が誕生日に買ってあげた香水
スカイブルーとは書いてあるけど中身はラベンダーの香りだったことを思い出した
あまり、自分自身に気を使わない人だから
私が使うように薦めたのだった
その時、扉が開いた
「久し振り…って、なんで泣いてるんだ!?」
泣き顔を見られたのと、久しぶりに出会えた感動で穴という穴から液体が漏れるのを感じる
「空。お帰り」
一段と背が高くなった彼女は私を見下ろしていた
「ええーと、ただいま」
彼女は状況を把握しきれずに頬をかいている
私はどうにか涙を拭いて立ち上がる
「こんなに背が高かったけ?」
顔一つ飛び出て高くなっている
「そういう、海香は一段と可愛くなったな」
頬が熱くなる
「空はかっこよくなったね」
「なぁ。海香」
「何?空」
「勉強教えてくれないか」
「…?」
「今度こそ、同じ学校行きたいんだ。海香と」
「分かった。もう離さないからね」
「海香こそ。私に置いてかれるなよ」
「分かってるって」