07
大変お待たせいたしました。
今回も楽しんでいただければと思います。
城の結界を張り直して数日……
ネルファーティエは執務室に来るようにと陛下に呼ばれていた。
きっと、お花見会の件でお話がしたいのだろう。
執務室の前にネルファーティエは到着しノックをする。
「陛下、ネルファーティエにございます。」
暫くすると、返事が返ってくる。
「入ってくれ。」
「失礼します。」
きっと、いっかいのメイドには見せられない書類を引き出しなどにしまっているのだろう、そんなことを思いながらドアを開け一礼する。
室内を見渡すとそこには陛下と王妃それと何処かで見たことのある男性が執務室のソファーに座っていた。
そして、テーブルの上にはティーセットが置いてあり、優雅にお茶をたしなんでいた。
「ちょうどいいときに来たな、休憩をいれてたんだ。そこに座ってくれ。」
陛下は向かいの男性の隣の空いてる席をさしネルファーティエに促す。
「はい。」
ネルファーティエは席に座り、魔物を倒したときの質問にどう答えようか考えを巡らせた。
ネルファーティエのお茶が入り、陛下が真面目な顔をして話を切り出す。
「まず、ネルファに言いたいことがある。」
「はい。」
いつになく真剣な陛下にネルファーティエは真面目に返す。
「お前の隣にいるやつに剣を返してやれ。」
「はい?」
お花見会であったことについて言われると思っていたネルファーティエは予想と全く違うことを言われ間抜けな返事を返してしまった。
数秒後、陛下の言った意味を理解したネルファーティエはふと、疑問に思ったことがあった。
「ですが、私は彼を知りません。知らないのにどうやって剣を借りたんですか?」
これを聞いた隣の男性が驚いた顔で、陛下と王妃は呆れ顔でネルファーティエを見た。
陛下は軽く溜め息を吐く。
「ネルファ、魔物を倒すのに剣を使っていただろう、あの剣の持ち主がそこにいるやつなんだよ。」
ネルファーティエはあの時を思い出す。
あの時は……あの時は、アレを倒すのに剣を使った方が早いから手っ取り早く隣にいた人の剣を奪ってた気がした。
ネルファーティの隣にいた人の顔を思い出す。
ふと、隣にいる男性の顔を見るとさっき思い出した顔とそっくりな顔がそこにあった。
「あら?私にあの時、剣を奪われた人にそっくりですね。」
陛下と隣にいた男性の顔が盛大にひきつっている気がした。
そんな状況で王妃がコロコロと笑っている。
ネルファーティエはどうしましたか?と言う意図で首を傾げた時そこは、混濁だったとメイドたちが告げていた。
お茶を飲み終えた王妃が話に交ざってくる。
「ねぇネルファちゃん。今その剣何処にあるのかしら?」と。
ネルファーティエはそれならと、ひょいっと取り出す。
「ここにございますが?」
「おい、待て今何処から取り出した。」
そんな二人のやり取りに隣にいた男性は無表情で突っ込んできた。
ネルファーティエはわざとらしく顔を反らし、
「秘密です。」と答える。
陛下は再び呆れ顔でネルファーティエを見た。
「ネルファ、いいからそれを返してやれよ。」
ネルファーティエは陛下の言葉に静かに答える。
「畏まりました。」
それから、ネルファーティエは隣の男性に向き直り剣を返しお礼を伝える。
「奪った形になってしまいましたが、貸して頂きありがとうございました。」
男性は剣を受け取りいいや、と無表情で首を振る。
「お礼を言うべきはこちら側だ。私たちが護らなくてはいけないことなのに、私たちじゃ護り切れなかった。君がいなかったら私たちは取り返しのつかないことをやらかしていた。ありがとう。」と。
そして、ネルファーティエはこの男性を真面目な人だと認識したのだった。
……そんなことを考えていると、ネルファーティエはこの男性の名前を知らないことに気がついた。
「あの、陛下。さっき気が付いたんですけど質問してもいいですか?」
ネルファーティエは本人に聞くのは気まずいなと思い陛下に聞いてみようと思ったのだった。
陛下はお茶を口に含んでいたが急いで飲み込んで、いいぞと答えてくれた。
「今思えば私、この方のお名前を存じ上げないですがどちら様でしょうか?」
ネルファーティエはこれで本題が逸れればいいなと思いながら返事を待つ。
そんなことも露知らずに陛下は、お前はそんなやつだったよなとボソボソと呟いていたが直ぐに答えてくれる。
「そこにいるやつはシルファス=レシス、この国の騎士団長だ。」
ネルファーティエはその言葉にまじまじと隣にいる男性を見つめた。
「えー、この人騎士団長だったんですか?私に剣を奪われちゃった人ですよね。」
「そうだが……いや、アレを一人で倒せたお前と比較しちゃダメだろ!」
「いや、きっと誰でも倒せますよ?さずがにあの魔物はまっぷたつに切れば死にますし。」
「倒せるかっ!アレは鱗が固くて急所を狙う方法でしか倒せないやつだぞ。」
「剣に魔法を組み込もうとは思わなかったんですか?」
「剣に魔法だと?そんなことが出来るのか?」
「出来なければ陛下に申し上げませんよ。」
「……少しよろしいかしら?」
陛下とネルファーティエが言い合いをしてるなか、王妃がにっこりと美しい笑みを浮かべて声を出した。
なにかを感じ取った陛下とネルファーティエは同時にはいっ、と返事を返す。
王妃がふふ、と可愛らしく笑う。
「陛下?この場には騎士団長がいることを忘れてないわよね?」
陛下は王妃の言葉にビクッと身をすくませて、情けなく頷いた。
王妃はそれを見て、ネルファーティエの方に向きを変える。
「ネルファちゃん?あまり、陛下をからかわないの。というより、そんなことしてる暇があるのなら騎士団長の名前を覚えなさい?」
「「えっ!?」」
陛下と騎士団長から声があがる。
ネルファーティエは王妃の言葉を聞いて冷静に反論する。
「王妃様、私はちゃんと騎士団長の名前を覚えておりますよ?」
王妃はそれを聞いて、溜め息を吐く。
「ネルファちゃん……そう言って私の名前、間違えてたでしょう。」
「……ちゃんと覚えておりますよ?セレナ様」
「それは私の愛称ですわよ。」
「名前にはかわりありません。」
「なら、騎士団長の名前を言えるわよね?」
「もちろんです。……シルファウルス=セレスですよね。」
「「「違う」っ」わっ」
「誰だ。それは……」
騎士団長は呆然と呟く。
「やっぱり間違えてるじゃないの。それに陛下の名前すら覚えてない貴女が自己紹介したばっかの人を覚えてるわけないでしょう。」
「おいっ、雇い主の名前も言えないのか?ネルファ。」
王妃の言葉に陛下が慌てて聞く。
「……陛下の名前ですか?……ウィルヘイル=フェストウムですよね。」
「もちろん、違うわよ?陛下はヴェルフリート=フィシウムよ。」
「……いつの間に改名したんです?」
「してませんよ。」
ネルファーティエは自分で本題を逸らしたのに、名前を出したことでややこしくなり、なにがなんだか分からなくなっていたのだった。
ネルファーティエは思った。誰か助けてくださいと。
しかし、それが更なるやっかいごとになるとはその時ネルファーティエは想像もしなかったのだった。
いかがですか?
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