不穏な空気
おかしい・・・。
帰国してからの秘書官の様子がおかしいのだ。具合でも悪いのだろうか?働かせ過ぎておかしくなったか?とにかく帰国後に顔を合わせてから今まで一切苦情がない。それよりも例の子鹿会解散について頭を悩ませているようだ。
「あの、バイラル?この書類終わったんだが。」
「はい、確認させていただきます。」
書類を受け取り、目を通すと机の上でキチンと整え直し、にっこり微笑み完璧ですと言うと事務室に書類を届けに出て行こうとする。
「あれ、次の仕事は?」
「今日はこれで書類仕事は終わりですわ。そうですね、昼食を挟んで午後2時頃まで予定はありません。あ、私はガウス魔法技師に頼まれた仕事がありますのでここはしばらく留守にしますけど、よろしいですか?」
「あ、ああ。わかった。」
秘書官が去った後どうにも腑に落ちない最近の彼女の態度を考える。気分転換に外の空気を吸おうと廊下に出れば事務室の前でバイラルがハース事務官と真剣な表情で話しているのが見えた。何だかそちらには行けず反対側に周り出る。中庭の噴水辺りで双子の妹姫達に会い東屋の方にルディとカリンが来ていると聞きそちらに歩く。確かまだ休暇中のはず、そういえばウルリヒから帰ってからまだ顔を合わせてなかった。あの建物の角を曲がれば・・・
居た。
ルディとカリン、そこにバイラルも。三人は何やら数枚の紙を見ては談笑しながら意見を交わしている。
・・・笑っている・・・
ふと、離宮から王宮に帰ったばかりの頃を思い出す。あの頃彼女は妹付きの侍女で、そうだよく笑っているのが目についた。そこから興味を持ちその才能に気付いて引き抜いたのだった。
しかし、なんだあれはけしからん。俺には澄ました顔しか見せてないのに他の奴には笑うのか。なんとなくモヤモヤした思いを抱えて仕方が無いので執務室に戻り長椅子に横になると、事務所前でハースと真剣に話し込む姿を思い出す。
最近様子が変→悩み事→男と話している→恋患い・・・
「は⁉︎そうなのかっ⁉︎」
イヤイヤそもそもなんで俺があいつの事をこんなに考えなきゃならん。そこへノックがしてバイラルが名を告げる。力なく返事をすると入ってきた秘書官が慌てて駆け寄る。
「殿下⁉︎どうなさいました、顔色が優れませんよ。失礼しますね。」
そう言って額に手を当ててくる、ひんやりとしたその感触が気持ち良く目を閉じたままするに任せる。熱はないようだが他に症状はないか問いかけてくる。
「胸が・・・苦しいんだよ。なぜかわからない、午後の予定はどうなるかな?」
瞳を開けると紅茶色の瞳が心配気に覗き込んでいた。途端にまた胸が苦しくなる。
「癒術師を・・・あ!オブリー伯をお呼びしますわ。そのままお待ち下さいませ。」
珍しい、慌てている姿は初めて見た。それも自分のために・・・そこまで考えてハタと気づく。ああ、そうかそういう事か。両手で顔を覆い全て悟ったと、自分がおかしく笑いが込み上げる。長椅子から立ち上がるとオブリーが入って来た。
「あれ、殿下体調は?」
「いや、もういい。それよりちょっと離宮に行くから付き合ってくれるか?」
「離宮ですか?」
「お待ち下さい、殿下本当に大丈夫ですか⁈」
ジッと秘書官を見つめた後微笑んで予定を少しずらしてもらえれば今日の仕事にも出れると伝え、頭一つ小さい秘書官の肩を叩くとオブリーと出て行った。
「・・・なんなのよ、もう。」