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妻にするなら君がいい  作者: にしのかなで
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氷の秘書官

ウルリヒから王太子一行が帰国したと報告を受けたバイラル秘書官はまずオブリー魔法執務官の部屋に面会の申し込みする。それから王太子付き職員の事務室にいきハース事務官を労い向こうでの様子を聞く。事務室の誰もがすぐに王太子に挨拶に行くだろうと思っていたが彼女は肝心の王太子以外の人物と接触している。

そう、彼女は解っているのだ王太子が今日執務室に現れないことを。帰国したのは昼前だったから国王陛下に報告を兼ね昼食を一緒に取るだろう、それからかなり急いで帰国したので他の方々も含め疲れていること。ただ、ハース事務官は一般職員で優遇はされない。そこで疲れを取るためまだ帰らぬ、黒髪の魔法技師の近侍特製のお茶で疲労回復をしてもらいつつ自分の事務室で様子を知る限り聞き取る。


「そう、カリンさんの髪が・・・」


「ええ、それに何かよくわからないんですがその翼竜の毒気にやられた後のカリンさんに対するガウス魔法技師殿の対応も見る限り子鹿会は早々に解散した方がいいのではと思いまして、特に男子の部は。」


「そうね、髪の事を知ったご令嬢方もガウス魔法技師に詰め寄るかもしれないわ。でも、肝心のお二人の意向をお聞きしてからにしましょう。今日はもういいですよ、十分ウルリヒでの話がわかりました。事務官の仕事は手分けしてやってありますから、そう大した仕事はないはずです。無理せずゆっくりしてくださいね。ご苦労様でした。」


「あ、はい。ありがとうございました、失礼します。」


秘書官の部屋を出てハースは首を傾げた。


「王太子殿下について聞かれなかったんだけど・・・」


事務官の去った部屋では秘書官が侍女に茶器を片付けてもらっている間に来客があり、オブリー魔法執務官からの面会の了承が伝えられた。それを聞くと彼女は一冊のファイルを手に取り彼の執務室に向かう。


「失礼します、王太子付き秘書官バイラルです。ニーム・エイナル・オブリー魔法執務官に面会に参りました。」


例の不思議な魔法のドアをノックし了承を得て中に入る。さあ、これからが本領発揮だ。

中にいたこちらも有能な魔法執務官は既に疲労回復しているらしい。そういえば彼の婚約者は癒術師であったかと思い当たる。テーブルを挟んで席を勧められ、紳士的な対応や物腰はかつての公爵家の離れで執事を長年こなしていたからだろうか?などと考えながら本題に入る。


「まずはウルリヒ遠征お疲れ様でした。急な出張で大変でしたでしょう。」


珍しく微笑みを浮かべながら労ってくる秘書官の纏う空気がウルリヒの気温並に寒いのは気のせいではないだろうとオブリーは覚悟を決めた。自分の婚礼準備に忙しい中、王太子直々に遠征隊に加えられ従った事で彼女の怒りの矛先は自分にも向いているはずだと、帰りの馬車の中から実は彼も憂鬱だった。


「お帰りになったばかりで申し訳ないのですが早速本題に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


「ああ、勿論いいですよ。」


「実は殿下の花嫁候補ですがこちらにリストアップしております方々をオブリー伯のご婚礼にお招きすることは可能でしょうか?」


「え・・・?花嫁探しは年明けに国中の貴族令嬢を集める予定でしたよね。」


そこで彼女はこれまでの経験と洞察力から王太子がそれではまた上手いこと逃げる、国内の派閥がこれ以上割れないうちに一番自然に候補者を選ぶに相応しい場がオブリーの婚礼であることなどを話した。どうあってもその場で候補者を決める覚悟の秘書官の緻密な計画性に脱帽したオブリーはリストを眺め婚礼に招待されてもおかしく無い身分の令嬢・姫君方を見て更に感心する。


「お話はわかりました秘書官。しかし、公爵家に相談をしてから招待状を出すよう手配して貰います。宰相にはこのことは?」


「すでに、陛下・宰相共に許可はいただいております。ただ、主役のお二人には一番早くお知らせして納得していただきたかったのですが・・・なにせ殿下のお供でお二人ともお留守でしたので、事後報告になりましたことをお詫びいたします。」


「あ、いやそれは私どもに責任がありますから。陛下と宰相が納得なさっているのなら安心です。それからあなたにお渡ししたいものが・・・。」


席を立ち執務机の引き出しを開け何やら取り出し席に戻る。


「遅くなりましたが私どもの婚礼への招待状です。アナスタシアが日頃アルベリヒ殿下の事で頭を悩ませているからたまには息抜きもかねて参列していただきたいと。」


「アナスタシア様が?私のような者でもよろしいのですか?」


「ええ、是非にと。」


「承知いたしました。お招きありがとうございます。アナスタシア様の花嫁姿を楽しみにしておりますとお伝えくださいませ。」


「はい、必ず。彼女も喜ぶでしょう、では早速この計画案を実行に移すためもう一人の主役と話し合わねばなりませんので今日はこれで帰らせてもらいますが、あ〜殿下の様子などはお話ししなくても?」


既にドアに向かい足を運んでいた秘書官の周りの温度が一気に下がった。ゆっくりと振り返り話し始めた時以上ににっこりと微笑みを返し


「お気をつけてお帰り下さいませ。」


とだけ言い残し、ドアを開けて去って行った。


噂通りの氷の秘書官。

引きつった笑いを顔に貼り付け、手にしたファイルをもう一度見る。暫しの間考え抜いてペンを取りリストの最後に名を加える。


ファンテーヌ・フォン・バイラル子爵令嬢22歳


そして満足した顔で慌ただしく帰宅をしたのだった。



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