王太子の憂鬱
無事戦争も終結した。
ではさっさと帰りなさいとばかりにウルリヒ王太子妃は母国ハヴェルンから来た要人達を追い出す勢いで帰らせた。
「うぅっ、あの馬鹿兄!弟が来てるんだから大人しくハヴェルンで待ってればいいものを・・・今頃ファンテーヌはイライラしてるんだわ。可哀想に、よっぽどオーランドか双子ちゃんのとこに異動させてあげたいけど・・・ダメだわ、彼女にしか務まらないものあの人のお世話するのは。」
妹が身重の身体で兄の有能な秘書官に申し訳なく思っている頃、兄弟王子を乗せた馬車のなかでは兄王子のアルベリヒが盛大なクシャミをしていた。それを見て弟王子のオーランドはそれはきっとバイラル秘書官が未だ帰らぬ主の噂をしているのだとからかう。アルベリヒはとりあえずスルーはしたが実際のところ母国に帰るのが怖かった・・・。
あれはウルリヒに行くと恐る恐る伝えた日のこと。彼の有能な秘書官は山積みの書類に埋れ目を逸らしながら話す次期国王に普段見せない微笑みで聞き返してきた。
「恐れながら殿下、いま何と仰いましたかしら?私の聞き違いであればよいのですが。」
いやだから、友好国の一大事だしルディとカリンも大変な目にあってるようだし?妹姫も気になるしと、しどろもどろになりながらも懸命にウルリヒ行きを宣言した。
「で?」
いや、お前仮にも王太子に「で?」とはなんだ、なんて言える雰囲気ではなく帰ったら今まで以上に働くしここは一つ頼むよってゆうか俺一応王太子だし命令だ、ウルリヒに行く間の留守を頼むと言い残し脱兎のごとく冷え切った空気の執務室を逃げたして現在帰国中。
今の秘書官の一番の責務は王太子妃探しだった。しかし、幼少から離宮で過ごし自由奔放に成長した彼にはなかなか自分の立場がピンとこない。譲れるものなら自分より出来のいい弟に譲りたいが派閥争いなど面倒ごとがあり、やはり自分がそれなりの女性を迎えるしかないのかと車中でボンヤリ考えている。ハヴェルンからは「とにかく王太子を早急に帰国させるように。」とのお達しが来ていて休憩もそこそこにとにかく馬車は急いでいた。
「で、兄上。帰ったらどうなさるんです?」
「あ?そりゃ馬車馬のように働くさ。」
「いや、花嫁候補ですよ。」
ああ、またこの話か頭が痛い。自分がなぜ結婚をまだしていないのか?それは父王にも起因する。全く覚えていないが早くに亡くなった実母とも仲睦まじく、ようやく次の妃を迎えたらこれがまた王妃一筋。世継ぎを考えれば政略結婚もありきだが、やはり両親を見ていると愛する女性と結ばれたい。甘い、その考えが立場上甘過ぎるのは百も承知だ。別の馬車で別の意味で急いで帰っている近々婚礼を迎える二人が羨ましい。王太子の憂鬱はまだまだ続きそうだった。