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ロスタイムの灯

どうも鬼無里です。

このお話は恐らく大した意味を持っていない、存在自体があってもなくてもいいような話ですので、気楽に読み流してください。

これは、いずれは訪れる終わりの話。

多分、今日か明日ぐらいに、何処かで他人が死んでいくのと同じような出来事の話です。

 上下左右どこを見回して見ても真っ黒い闇が覆う空間に一人、少年が残されていた。

 いや、残されているというよりも消えかかっていて、誰が見てもすでに手遅れだと分かるだろうが、どういった仕組みなのか血を一滴も流さずに両腕とその胴の心臓より下にあたる部位が完全に失われていた。

 それも綺麗に無くなっているのではなく、獣にでも引き千切られたかのように痛々しい跡を残して消失していた。

 不思議なことにその千切られた部位の欠片の一つもその場に落ちてはいない。

 不可解で奇妙なことがこの空間においては起こっていた。

 

 それもそのはずで、この空間は本来枝分かれしているどの世界の次元からも隔絶されている、強い願いや恨みなどといった何かを望む激情が世界の狭間に溜まって、その影響を受けて次元が歪み、そして作り出されてしまった云わば願望の掃き溜めのような空間なのだ。

 だから、この場所では本来ではありえないことが起きる。

 願望が全ての理を捻じ曲げている。


 ほんのついさっきも奇跡が起きたばかりである。


 赤髪の青年が、その後悔だらけの過去と向き合い、新たな力を得て自分の世界へと戻って行ったのも、ここにおいては別段ありえない話ではないのだ。


 そして、今も正にここではありえるが起ころうとしている。

 それは、この空間の中心である全てを失った少年――レスと自分で名付けた少年が、その存在を一つとして残すこともなく消え去ろうとしているという現象である。


 しかし、そのこと自体に驚くことはない。

 そのことは既に決まっていたことで、いまさら取り立てて騒ぐようなことではない。

 レス自身もそのことを自覚していて、受け入れていて、諦めていた。


 理解していたことだ。


 そして、レスの消滅と共にこの空間も跡形もなく消え去ることになる。

 もともと、この空間も彼によって本来行き場を失っていた感情が半ば強引に彼を核にして集められて出来上がった異空間なのだ。核である彼が消滅してしまえば、空間自体が存在しきれなくなり、消滅する。

 何事もなかったかのように、誰にも知られず、それこそ最初から存在しなかったかのように。


 仕方がないことではある。サッカーで例えるところのロスタイムのような、都合を合わせるためだけに作られたこの空間も、レスの消滅という時間制限を超えれば終わりを迎えるのは火を見るよりも明らかことだ。


 だから、レスが今から呟くことなど誰も聞いていないような、在っても無くても同じ無意味な言葉の羅列と変わらない。

 

















「――戦う。か、それも守るために救うために助けるために、ねぇ。」

 レスは赤髪の青年の言葉を反芻するように呟く。そこには、どこか懐かしさを感じているような表情が浮かんでいた。


「全く、ラークらしい言葉だなぁ。優しくて、優秀で、才能にあふれている彼らしい言葉だよ。僕なんかじゃあ彼のようには絶対になれなかっただろうな。」

 自虐気味にそう呟いてからレスは目を閉じた。


「ここに来てからいったいどれくらいの時間が流れたのだろう。ここは時間が分からないからな。それでも流石に僕を知っている人はみんな死んでしまっただろうな。少なくとも一億年近くはここにいたはずだし。それに、ここに来る途中でもうみんなの記憶からは忘れ去られただろうし。」

 レスの消滅は確定している。

 その存在は例え他者の記憶の中であっても残らないほどに徹底して消滅する。

 それが、レスが望んで投げ捨てた対価である。

 彼が自分の能力を使って誰かを助けるための行為に対する対価であった。


「とは言っても、もうどんなことをしたのかなんてはっきりと覚えていないけどね。ラークに話した僕の過去だってほとんど出まかせだったし。僕ももう、誰一人として覚えていないや。まあ、仕方ない。それが、僕が支払った対価だ。……それでも、こんなことになるとは思わなかったけど。」


 レスは想い耽る。

 ラークという名の青年ことを思い出す。

 今レスに残っている思い出はそれくらいのものだ。

「はあ、彼には悪いことをしちゃったかな。あんな能力を押し付けて、世界を滅ぼせなんて。無茶苦茶過ぎるよな。優しい彼には酷なことだ。それでもね、弁明なんかにはならない言い訳だけど、勝手な理由だけど、遅かれ早かれあの世界は崩壊していくんだ。彼が何もしなくても、あの世界は一度滅ぶ。徹底的に自壊していく。人間たちのお粗末な暴走によって。」


 最早レスの存在はほとんど消えかかり、首から下は何もなくなっていた。

 

 それでも、彼は呟く。


 何も残らなくても、彼は最後まで生きることをやめようとはしない。


 彼は諦めることをもうやめたのだ。


「ラーク、これから君はあの日よりももっとひどい地獄を見ることになるだろうね。恐らく、また大切なものを失うだろう。そして、君は知っていく。その能力と僕が君を選んだ理由の真意をね。」








「……なんて。こんなことを最後に行ってもカッコ付くほど僕はイケメンじゃないけどね。首しか残ってないし。」


「……ああ、嫌だなあ。本当に死にたくねぇ。生き残りたいわけではないけど、死にたくもないな。全くほんと、なんていうか、僕は本当に自分勝手な人間だな。」


「僕が死んだら何処へ行くんだろうか?まあ、何処にも行かないんだろうけど。それでも……。どうにか。」


「はあ、もう少しいいものだと思っていたけど。死ぬことってこんなに辛いことなのか。もう、忘れているくせにみんなに会いたくなってきたよ。誰かいないかなぁ。」


「そうだな……、最後に会うとしたら、“ユウコ”に会えたらな。うん?“ユウコ”って誰だっけ?何で、忘れているはずなんだけど。」


「……まあ、いいか。未練たらしくしていても仕方がないや。」


「ああ、もう。くそっ!!なんていうか、本当に、いい人生だったなぁ!!」






















「――最後に勝手なことを言ってもいいかな?ラーク、僕は君に出会えて本当に嬉しかったんだ。











 ……“ありがとう”。」




















 ロスタイムはそこで終わる。

 跡形もなく、その空間ごと消え去った。

 その時間はもう誰にも知られることはない。


 ただ一人、レスの死を知っているのはラークと言う名の青年だけである。

 

 

 レス。災悩人と呼ばれた彼――樹里哉夢はその存在を初めから無かったことのように消え去った。


 その結末を見届けられたものは果たして――。

本当にお粗末さまでした。

この物語はあんまり暗い感じを出していこうとは思っていません。

ただ、人が死んでいく事実だけは目を逸らさないで書いていこうと思っています。

相変わらず拙い文章ですがどうぞよろしくお願いします。

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