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プロローグ~悲嘆の中で後悔の記憶から悲痛より生まれる憎悪と悪意の残酷な真実、そして優しさは世界征服の兆しになる。~

三連投\(^0^)/

 目を覚ました。それでも、まだ視界は暗いままで闇に包まれている。何も見えない暗がりの中で、どこか懐かしい。先程まで見ていていた夢のような暗い闇の空間がまだそこにはある。しかし、残念ながらここにはあの少年はいない。いや、もうどこにもあの少年は存在していないだろう。彼が消える直前で俺はこちらに戻ってきたのだけど、それでも、もう彼と会えるとは思えない。彼は消滅した。名前を失い、その存在を失った。


(さよなら、レス。)


 そして俺は思い出す。あの場で起きたすべての出来事を、鮮明に。当然、レスに誓った言葉も。

 戦う。

 そう、俺は確かに誓ったのだ。

 守るため。救うため。助けるために。

 

 だから、さしあたってはこの場所から抜け出さなければならない。

 この脱獄不可能と呼ばれている牢獄から。


 今の現状は、目を覚ます前と何も変わっていない。

 目隠し、猿轡、そして夥しいほどの鎖が雁字搦めに俺の全身を拘束している。

 当然、魔法も使えないように結界やら術式が施されているだろうし、力任せに強引に破ればすぐさま化物のような力を持った監獄員が集まってくるだろう。


 絶対脱獄できないと呼ばれているのは身に染みてわかっている。


 だけど、今の俺ならできる。そんな自信が湧いている。


(レスから受け継いだ力が体の中に入っているのがよく分かる。今は眠っているように収まっているけど、使い方は何故か知っている。)


 その力を優しく起こしていく。

 

(まずはこの拘束を外そう。)


 できるだけ穏やかに。ゆっくりと消していくイメージで。俺は力を使う。

 全身に力が行き渡るような感覚を感じ、俺は心の中で呟いた。


(拘束を燃やせ。『地獄の業火(ヘル・フレイム)』。)


 全く音もせず、俺も指一つ動かなかった。

 しかし、拘束はなくなった。

 目隠しは燃えて灰になッた様に散り、猿轡は口を開けたまま消滅し、幾多にも巻かれていた鎖は溶けたように消え去った。


「ふう。」

 久しぶりに自分の声を聞いた。牢獄の内部を見るのも実に三年ぶりである。


「おっとと。」

 自重によって危うく転びそうになる。二つの足だけでこうして立つのも随分と久しぶりなため足元が覚束ない。これは、慣れるのに時間がかかりそうだ。


 じめじめとした匂いが鼻腔をくすぐり、体を少し冷たい地下の空気が体を包む。


 手を握っては開きを何回か繰り返し、やっとのことで体が慣れてきた。


「よし。」


 さて、脱獄を開始しよう。


 そう、思った時ふと気づいた。

(あれ、この服は確か……。)

 あの少年に出会った時着ていた金色の釦の全身が黒い服を着ていた。

 それに伸び放題だったはずの髭や髪もすっきりしているような気がする。


「まあいいか、あとで考えよう。」


 取りあえず、ここから出るのが先決だ。

 拘束の次は牢屋を包んでいるこの結界と壁に刻まれている術式を破らなければならない。

 先程のように炎を使って燃やしてもいいのだが。

 どうせなら、この能力になれるために違うもので破ってみよう。


「吹き飛ばせ。『虚無の霊風ゲヘナ・ウィンドウ』。」

 今度もまた音も形もなく俺を中心に風が牢屋の中に巻き起こる。その風は酷く冷たく、異質な空気を流し込み、強引にそこらじゅうに仕掛けられていた結界や術式を根こそぎ消し去った。


 どうやらうまくいったようだ。体中を締め付けていた圧力が無くなった。


「さてと、これで俺を縛るものはなくなったわけだけど。どうしようかな、このまま出ていくわけにも流石にいかないし。」

 別に他の囚人たちを連れて行こうなどとは考えていない。罪を犯してやっとわかったことだけど、償いはしなければならない。当然俺だって。

 だから、ここに囚人たちは置いていく。

 しかし、少年の話が本当ならばこの牢獄では魔力を吸い取る仕掛けがあるわけだ。

 囚人たちの契約によって得た無限に放出する魔力を吸い取る仕掛けが。

 それは破壊しなければならないだろう。そこまでは彼ら囚人たちが償わなくてもよい筈だ。


「……そうすると、この獄内のどこかにある仕掛けを探し出さなければならないわけだけど。」

 同時に出口を探さなければならない。しかし、できれば俺自身が探し出すことはしたくない。もしうっかりこの牢獄の誰かと出会ってしまったら、その人を殺さないで済ませる自信が全くないからだ。あの話を聞いてからでは流石に許すことはできない。

 ここにいる奴らが全員あの日のことに係わっているとは考えられないが、そう言った理屈の問題ではない。

 純粋に憎いだけだ。あの地獄を作り出した人間のことが。

 

 この考えは止めよう。押さえろ。俺は人殺しをするために戦うわけじゃない。

 そんなことをあの少年は望んでいなかった。


「なら、頼むかな。向こうの世界の者に。」

 確か、少年は黒き世界と言っていた気がする。

 あの時は分からなかったが、今なら理解できる。この能力のことを。


『【契約召喚】を開始しますか?』

 頭の中に声が流れる。

「“はい”」

『承認。【契約召喚】のために【××世界】とこの世を繋ぐ扉を開きますか?』

「“はい”」

『承認。支配者(ロード)の許可により【××の扉】を開き、【契約召喚】を開始します。求めるものをコトバにしてください。』


 さてどうしようか、割となすがままにことが進んだが。今の俺が求めているものは……


「探し物を探し、破壊する。そして、悲劇を打ち止めにする者を求める。」

『要求に該当する存在を検索・・・、発見。これにより承認。契約陣を発動し、【契約召喚】を開始します。』


 すると、俺のいる牢屋内に幾何学模様が描かれた魔方陣が突如現れ、その魔方陣より黒い影が噴き出した。

「な……!!」

『検索の結果、最も要望に適した個体【闇鴉】を召喚します。なお、契約を破棄する場合は契約陣を消し去るか、召喚された個体を殺してください。』

 驚愕によって開いた口が塞がらない俺の脳内で淡々とした説明が流れる。


 そして、徐々に噴き出す影は形を成していき、召喚した個体が現れた。


「な、なんで。……少女?」


 それは、まさしく少女だった。

 闇よりも黒い翼を背中に生やし、見慣れない艶やかな黒髪に真っ黒な瞳、膝を抱えて蹲るように座っているそれは、まさしく少女の外見をしていた。


「て、ていうか。全裸!!」

 しかも、服を一切着ておらず、翼に反して真っ白な素肌を晒していた。

「……ん。」

「取りあえずこれを羽織って!!」

 慌てて、金色の釦の黒い服をその少女に羽織らせよとしたところで、少女が立ち上がった。

「な、何を!!」

 当然、全裸である少女の裸体は立ち上がってしまえば隠すところ一つもなく、さらけ出されてしまうわけでして。

 

「…………あなたが、支配者(ロード)?」


 しかし、慌てふためく俺とは違い、少女は首を傾げて真っ黒い瞳でこちらを見つめ、淡々と言葉を発した。

 小さく、消えてしまいそうな一言は、俺の耳に鮮烈に残った。

「う、うん。……そうだけど。」

 できるだけ少女の首から下を見ないようにして、俺は答える。


 そんな俺のことを気にせずに、少女は辺りをきょろきょろと見回して。


「……もしかして、……初めて?」

 そして、こちらのことをおずおずと言った雰囲気で見つめて、恥ずかしそうに聞いてきた。

 ヤバい、上目遣いがかなりヤバい。

「そうだよ、貴方を最初に呼んだ。」

 そう、俺が答えると、ぱあっと、日葵のような明るい笑みを浮かべて、

「……嬉しい。」

 と、呟いて俺に抱き付いてきた。

 いや、もう限界。

 何がって、俺の理性が。


「と、とにかく。それじゃあ、最初の命令を与える。」

「うん!」

 少女は嬉しそうに頷く。

 可愛い。

 わくわくと言った期待がこちらにも伝わってくる。






「――服を着なさい。」







 ◆  ◆  ◆


 すったもんだあって、少女は服を着てくれた。

 つぶらな瞳で

「……どうして?」

 と首を傾げたときには本当に俺が暴走してしまいかねなかったがどうにか自制心を全力で発揮し、本能を落ち着かせた。

 俺の服を羽織らせようとおも思ったが、どうやら自分で服を作れるようで、東にある島国の正装である“着物”ににた黒い装束を作り出した。一瞬影が少女を包み込んだと思った瞬間には着替えていた。瞬きをするよ間もないほどの早業である。


「――早速だけど、【闇鴉】。次の命令を出す。」

 と、少女が着替え終わり、俺はその後開口一番でそう告げた。

「……ん。」

 しかし、少女は首を横に振り、あからさまな否定――いや、この場合は嫌悪を示していた。

 今度はこちらが首を傾げる番だった。

「……【闇鴉】、……違う。……名前、……付けて。」

 疑問が言葉になる前に【闇鴉】の少女は俺を指さして端的に言った。

 どうやらこの子は口数は少ないが、積極的に意思表示をする方ではあるようだ。

 それで、少女の言葉を俺が分かる範囲で解釈するならば、

「【闇鴉】という名前じゃない。だから、支配者ロードであるあなたが名前を付けて。」

 といったところだろう。

「俺が名前を付けてもいいのか?そもそも元の名前は……。」

「……呼び出された、……初めて。……だから……付けて。」

 うるうるとしたつぶらな瞳での上目遣いと事あるごとに三点リーダーをはさむ喋り方が上手い具合に相乗効果を発揮していた。そして、そのお願いに合わせて背中の双方の翼を小刻みに震わせている姿も実に愛らしい。

「だけど、俺のような人間なんかに名前を付けられるなんて嫌じゃないのか?」

 それを言ってしまえば、呼び出したことも侮辱に当たるようなことかもしれないが、俺の中にある常識、いきなり湧いてきた常識には、化物などあちらの世界の者たちは人間を忌み嫌い下に見下している者たちが多いらしい。


 しかし、俺の投げかけた疑問など意に返さず少女は首を振る。


「……ん。……あなたは、……特別。……後継者……選ばれた。……だから、……付けて。」

 今度は縋りつくようにして、腰に抱き付てきた少女は何処かしら不安げな表情をしていた。

 俺はそんな顔が酷くいたたまれなくなって、こんな顔させたくなくて。

「そうだな……じゃあ、お前はクロージュ。クロージュと名乗れ。」


 そういうと、こちらにとびきりの笑顔を向けて、

「うん!!」

と、頷いた。どうやら、俺のネーミングセンスには納得していただけたらしい。大して良い名前でもないとは思うが。



 ここらで一度【契約召喚】について説明をしておこうと思う。

 俺がレスから受け継いだ能力は、その本質を言えばレス自身が云っていた通り表と裏を繋ぐ能力である。もっと突き詰めて言えばあちらにいるものとこちらにいるものを呼び出すための門の開閉が主な能力だ。だから、この能力の真骨頂は召喚にある。

 ありとあらゆるものをあちら側から召喚できるこれは、俺の世界にある召喚魔術の枠組みを遥かに上回っているといってよい。

 大仰にでもなく事実を述べてしまえば、確かにこの能力は世界を簡単に滅ぼしうる力がある。だって、この能力には制限も条件も対価もいらない。そういった能力なのだから。


 制限もなく条件もなく対価もいらない、という事実を裏返してみると、実はこれ何も縛りがないという非常に危険な見解を表している。つまりは、どんな優れた者を呼び出しても全く仕事をこなしてくれないこともあれば、最悪力任せに暴れてしまうといったリスクも兼ねている。

 それは、檻もなければ鞭もなく、また食事も与えられていないのにもかかわらず従っている、猛獣使いライオンの様でいつ牙を剥くか分からない不安定な状態である。

 だから、それ故に敢えて縛りつけて、猛獣に鎖と肉を猛獣使いに鞭を渡し、安定させたのがこの【契約召喚】だといっていい。

 平たく言えば、召喚した者を命令に応じさせ、その対価を召喚側が払い、そして命令を破った場合のペナルティを付けることができるの【契約召喚】である。


 だから、俺がクロージュに名前を付けた後に早速こう告げた。

「まず先に対価を与える。クロージュ。これを飲め。」

 そう言って、俺は自分の右手の親指のひらを薄く噛み千切った。

 当然、そこからは真っ赤な流血が滴り、今にも落ちそうになる。

「……ん。」

 しかし、俺の行動を先回りしていたかのように素早く、クロージュは俺の噛み切った右の親指を口に咥えてその流血をなめた。

 それは、もう熱心に、ご褒美に食らいつく犬のように、恍惚とした表情で優しく俺の指をなめてなめてなめ回していた。

 十分に味わったのか、軽く指がふやけてきた辺りでクロージュは俺の指から口を離して、ゴクリ、と喉を鳴らして飲み込んだ。何故かその姿が酷く官能的に思えてしまって目に焼き付いたのはまた別の話である。


「……おいしい。」

 聞かなかったことにしよう。


「クロージュ、命令だ。この建物または周囲にある全ての魔力を吸引する機械・術式・建築物を探索し破壊しろ。」

 酷く抽象的だが、問題はない。血を与えるという対価は【契約召喚】においてはいくつかの例外を除いて最上級の対価であり、これにそぐわない結果を出すことはまずもって有り得ないようで、どんな命令であっても主の意向を完全に遂行する。と、頭の中の知識がある。

 今日が初めて使う【契約召喚】だから、実際にやってみないと分からないが。

「……ん。」

 クロージュがコクンと頷く。

「よし。命令を遂行次第、即時俺の下へ帰還しろ。行け!!」

 なんていうか、こうして命令を下していると団長時代を思い出すな。懐かしい。

 俺の部下は当然全滅しているわけだが。


「――行ってくる。」


 昔のことを思い出している俺を横目に、一言告げてからクロージュは影に包まれ、瞬きするよりも速く消えていった。

 後に残ったのは一枚の黒い羽だけだ。


 これで、思い残すことはなくなった。

 さっさとこの湿っぽい場所からオサラバするとしよう。

 

 俺は、床に落ちているクロージュの羽を一枚拾って、胸のポケットに入れた。

 ほかに何か思い出として、戒めとして、持っていけるもの――例えば鎖の欠片とかないものかと牢屋内を見回してみたが、チリの一つとして残っているものはなかった。

 なんていうか、素っ気ないな。


 恐らく、クロージュならば人間程度ならばどうのような奴が相手でも俺の命令ぐらいは簡単にこなすだろう。

 流石に全く気付かれずに遂行することはできないだろうが、それでもまるで神隠しのようにいきなり、突然魔力の吸引器具を破壊していくだろうな。


 これはあくまでも推測だが、クロージュ一人でも街一つぐらいなら落とせる。

 どんな手段を使ってでもという条件は付くだろうが、クロージュの力量はそれぐらいはあるだろう。


 そして、そんな神隠しに目を奪われているうちに俺は俺でいともたやすく煙のようにこの牢獄から出ていくわけだ。


 味気なく、素っ気なく、さりげなく。


 この牢獄から出たら、まずは拠点を探そう。できるだけ人目に付かなくて、ロストや生物も極力いない荒野のようなところがいいかもしれない。この能力を少し本気で試したいからな。

 それで、拠点を作った後は、力を蓄えよう。

 世界を壊すのではなく、守るための力を蓄えるために。


「そうだな……二年。二年で準備を整える。そして、力を蓄えた後はまず最初にアイビスを見つけに行こう。」

 いや、同時進行でアイビスの居場所を探すかな。

 今だからわかる。アイビスは確かに生きている。契約はどうやらまだ繋がっているようで、自分の中から魔力が溢れている。

 だけど、まだ早い。

 


 ……せめてこのどうしようもない世界へ向けての憎しみを隠せるようになってから始めよう。














「さあ、世界征服はこれより開幕だ。」

とまあ、いきなりいきなりの三連投ストックきれました。

なんていうか、性格柄あんまりストックを置いておきたくないんですよね。

そんなわけでお粗末さまでした。

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