残酷な真実
どうも鬼無里です。久々の投稿ですがどうぞよろしくお願いします。
「これから僕が君に伝えることはどれもこれも嘘や偽りがない、ある意味で純粋な、それでいて真っ黒な闇を煮詰めて凝縮したような、残酷な真実だ。本当ならば、もう少し君と他愛のない話をして、心を落ち着かせたり和んだりして、お互いを理解して信頼し、僕も君も万全な状態で臨みたかった。だけど、僕には残された時間がほとんどない。その証拠がこの右腕だよ。唐突な話で混乱するかもしれないけど――僕はもうじき死ぬ。体の全てが消滅してこの世界から僕という存在が微塵も残さず消え失せる。残念ながらこれは確定だ、もう逃れられない。」
少年は堰を切ったようにこちらの意向を確認せず話し始めた。
表情は何処となく辛そうで、でもしっかりとした覚悟が瞳の奥にある。
俺はそれを見ていた。見ているだけだった。
「何で?という疑問にはこう答える。僕は生き過ぎた。死んだ回数は多分一兆とかそのぐらい。だけど、どんな傷や病気や呪いでも僕はついに死にきれなかった。それは僕は引き継がなければならなかったから。僕の後継者に。災悪を。……つまりは、君に僕の後釜を担ってもらいたい。」
「後継者?災悪?それに一兆回死んだって――」
「全て真実だよ。そのために君と話をしているんだ。優秀で才能が有って仲間思いでだけど化物だって助けてしまうほど心が優しい。――そんな君にこそ、僕の後継者は適している。」
「…………俺はそんなすごい奴じゃない。」
少年の言葉に俺は胸を張ることはできない。だから、口から出たのは何処までも虚無的な自虐の言葉。
「君はそう言うだろうね。僕も多分同じことを言ったと思う。…………君は一人の化物である少女を助けた。確か、その少女のことを君はアイビスと呼んでいた。アイビスを助けたのは君が魔装騎士団長となって初めてのロストの討伐の時で、君はそのときからロストと戦うことを避けだした。君がどうしてアイビスを助けたのか。それは彼女が既に死にそうな目をしていたからと、人間に追われていたからだ。最初君はアイビスをロストだとは思わなかった。それはアイビスが其処までに人間と同じように思い・行動し・『助けて』と君に伝えたから。だから君は助けた。優しすぎる君は助けるために彼女を庇った。では、ここで一つ疑問が生じる。なんで、人間たちは躍起になってアイビスを追っていたと思う?確かに、ロストは君たちの敵で化物だけど別に追いかけるようなことはしなくてもいいはずだ。基本的には人間が無闇矢鱈に手を出さなければロストはそのまま反応を示さない。しかし、彼女は特別だった。なんせ――アイビスは人間に作られたロストだからね。」
「……………………………………は?」
思考が停止した。
アイビスが作られた?それも、人間に。
「人間の敵がロスト。これは君の世界じゃ常識だけど、その人間はあろうことか敵でさえも利用しようとしていた。理由は既に述べているよ。――ロストの生み出す無限の魔力を手に入れるためさ。」
無限の魔力を手に入れる?
それって、つまりは……
「ロストが変換し無限に放出する魔力を、しかし人間にとっては有毒である魔力を、人間はどうにかして使いこなすためにロストそのものを人間に近づけようとした。それが、彼女。君が“アイビス”と名付けたロスト。人間に利用されるがために勝手に生み出されて、飼われていた、永久魔力製造実験の被験者で被害者の一人だ。」
少年の口から語られるそのあまりの事実に俺は絶句した。
アイビスが人間に無限の魔力を利用されるために作られた実験の被験者。
その事柄を頭が理解することはどうやらできそうにもない。
よく分からなドス黒い感情が自分の心から溢れて来ることだけははっきりと感じ取ることができた。
そんな俺を見つめながら少年は続きを紡ぐ。
「もともと、ロストが変換する魔力に人間たちは目を付けていて、かなり古くから利用しようと様々な実験が行われてきた。その実験の計画はどれもこれもがあまりにも残虐極まるようなものだったけど、大した成果は見らて来なかった。その数ある計画の内の一つがロストと人間を配合してより人間に近い、言ってしまえばロストの変換した魔力を放出する能力だけが出るように組み合わせていったんだ。もちろん、人間とロストじゃそもそもの生物としての種類が違うから失敗ばかり。結局この計画は頓挫して終わるかに見えた。――だけど、最後に生み出されたロストの少女――アイビスは、今までのどれよりも変換される魔力が人間に近かったんだ。喜び勇んで魔力を抽出しようとしたわけだけど、しかし、あまりに人間に近づきすぎてしまったロストであるアイビスはかなり不安定で、それ故に暴走が起こり、結果として彼女は人間の手から逃れることになる。そして、人間から追われることになったアイビスは幸か不幸か偶然にも君と遭遇した。」
そこで、少年は一旦を目を閉じた。
まるで何かに耐えるように。
さながら苦行を乗り越えようとする修行僧みたいに。
ゆっくりと言葉を選ぶように、躊躇いがちに、静かに目を開けてから、少年は再び喋り出す。
「――でも、事実はもっとひどかった。彼女と君が遭ったのは偶然じゃなかった。――君たちの出会いは最初から仕組まれていた。」
そして、俺へと死刑宣告よりも残酷な言葉を告げた。
「人間たちは暴走し逃げていく彼女を追うにつれて、制御することは不可能だと結論付けたんだよ。そして、前々からロストを殺すことを躊躇っていた君に彼女を遭遇させあわよくば拘束させようと、君を彼女が隠れている場所へロスト討伐へと赴かせ、上手く追い出して君と遭遇させた。彼ら人間たちにとっては彼女がそれで殺されればそれはそれでよかった。だけど、君は庇った。思惑を超える形で君は彼女を捕えることに成功した。君は結構うまく証拠を消していったからね。まあ、その点も含めて暴走するようなロストの討伐に君のような厄介な人を送ったのかもしれないけどね。これは完全に彼らの予想外だった。流石に騎士団長である君を証拠もないのにロストを庇っているなんて眉唾物の疑いをかけるわけにもいかない。だから、賭けに出た。ロストの魔力を人間が使えるようにするために方法――つまりは君と意図的に契約させようとした。そのために、程よく圧力を掛け、程よく褒美を出し、程よく仲間と繋がらせて、程よく敵を作らせて、程よく順調に生活させて、最後に君を追い込んだ。そして、あの日が起きた。人為的に起こされてしまった。」
「っ!!……それ……じゃあ。あの日の……出来事って。」
声が震える。脳内がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられたかのように混乱している。体はその後の続く少年の言葉を拒絶しろと叫ぶ。耳を塞ぎたい衝動に駆られそうになる。しかし、その行動をとることはできない。俺は聞かなくてはならない。それが、あの日の真実ならば尚更だ。
「君は、君とアイビスは利用されたんだ。……人間の欲望によって、都合よく動かされたんだ。」
少年は静かに告げた。
荒唐無稽で出鱈目の様で騙されているかのように都合がよく――それでも、残酷な真実を彼は俺に告げたのだ。
俺は、それを嘘だとは全く思わなかった。
――なぜなら、少年が泣いていたから。
まるで親友が殺された時のように、恥も外聞もなく、今までずっと我慢していた涙の堰が堪え切れずに決壊したのだ。
俺にとっては見ず知らずの、話したのもこれが最初の相手なのにこれほどまでに感情を露わにして号泣するなんて白々しいと思った。
だけど、少年のその涙を俺は疑わなかった。
俺の顔もすでにぐしゃぐしゃになっていたから。