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悪意と憎悪。

「おかしなところ?」

 俺は目の前の少年に尋ねた。

「そう、この話はおかしい。もちろん、面白いという意味ではなくて不可解な――変なところがある。」

 俺は少年のことを相変わらず見つめているが、彼は俺の視線から目を逸らしてクルリと反転し背を向けた。

「先程まで話していたことは君の視点からの記憶で、君が知っている・経験したことでしかない。だから、その出来事の裏の事情が全く話されていない。つまりは、君が知らない本当のこと――真実がまだ隠されているんだ。」


 パンっと少年は両手を叩いて音を鳴らした。

「少し場所を変えようか。ここから先が本題だから。」

 その瞬間俺の見ている風景が変わった。

 紙芝居で次のページに切り替わったように、真っ白な空間が天井があり床があり壁がある室内の風景に変わったのだ。

「この部屋は僕の世界の僕の部屋だ。名前を失う前に住んでいた部屋だけどね。僕の姿が完全なものになって君との共通点が増えたから、君をこちらの世界に連れてくることができるようになった。先ほどまでの何も考えていなかった君の想像の世界とは違い、この部屋僕の想像の世界というわけさ。――とりあえずは、適当なところに座ってくれ。立って話すほど急いでいるわけではないしね。」



 腰を下ろして向かい合い、丸いテーブルのようなものを挟んで、少年は話し始めた。

 

「君も少しは気分が落ち着いたかな?これから話すことは君にとってはかなり重大で辛い話になると思うから、心の準備ができてから話そうと思うんだけど。」

「いや、大丈夫だ。」

「本当に?」

 少年が俺の心を覗き込むかのように目を合わせてくる。

「実を言うと別に君は真実を聞かなくてもいい。僕のしていることは蛇足で余計なことなんだ。純粋な悲劇を汚すだけの行為に他ならない。」

「いや、それでも構わない。四年間、あそこに閉じ込められていれば心構えぐらいなんともない。貴方は知っているんだろう?あの日の全てを。だったら、教えてくれ。それで後悔しても受け入れる覚悟は最初からある。」

 俺は少年の目を見つめ返した。

「俺があの牢獄に投獄されることになったのは、何かしら隠したいことがあったからだろう?いくら俺が死なないとは言っても、魔装工場の溶解炉にでも入れられたら消滅するだろうし。それに、俺を生かしているということは俺に何かしらの利用価値があるということだ。国家が隠したくなるような利用価値が。」

「正解。その通り、君は魔装国家オーキッドに利用されている。もしかして、君は捕まった時から気づいていたのか?なら、何故抵抗しなかった?真実を解き明かそうとしなかったんだい?」

「それが俺にできる償いだから。俺に利用価値がるなら使ってもらって構わない。それぐらいしか俺にできることなんてないのだから。」

「別に、君が背負う罪なんてないよ。うん、そうだね。じゃあまずは君が今置かれている現状から話していこうか。君がどうして利用されているか、その訳から話そう。」

 俺は頷いて、少年の話を聞くことにした。


「君が幽閉されている牢獄は歴史に残るような凶悪な罪を犯した者だけが投獄される。なぜ、処刑せずに牢獄という処置で終わっているかというとその犯罪者たちが例に漏れず死なないことにある。だから仕方なく、というのが表向きの理由になっている。ここまではいいね。だけど、君が言ったとおり例え不死身でも殺す方法はいくらでもある。流石に体を全て溶かされでもしたら生きることなんてできないだろう。ではなぜ生かしているか。その理由は君を含める彼ら犯罪者たちがどうして不死身になったのかということが大切なキーワードになってくる。どうして君が不死身になったのか、それは君が“ロスト”と契約を結んだから。それが、君を殺さずに幽閉しているという理由だ。」

 少年の話は続く。

「話は変わるけど“ロスト”とそれ以外の生物の違いとはなんだか分かるかな?実は“ロスト”その他の生物の違いは一つしかないんだ。通常普通の生物だと、いくら魔力の量が多いからと言っても無限にそれを使い続けることはできない。いずれは体内の魔力は枯渇してしまうし、その回復にはかなりの時間がかかる。それ故に魔装と呼ばれる道具を使って君たちの魔力行使の補助を行っている。もともと、魔力が詰まっている魔装ならば直接魔術や魔法で魔力を使うよりももっと効率的に持続的に使うことができるから。――ちょっと話がそれたね。で、“ロスト”との違いは何かというと、“ロスト”はその魔力をほぼ無限に使い続けることができるという点だ。“ロスト”と呼ばれる生物はその他の生物に比べて極端に体内にある魔力が乏しい。それはどうしてかというと、“ロスト”は常時魔力を作り出すことができるから。“ロスト”はね、息を吸い込むというの生物なら当たり前の行為だけで魔力を生産することができるんだ。言ってしまえば魔力製造生物。その効率は99.9%。魔装に内蔵されている魔力変換石でも70%が限界なのにね。しかし、“ロスト”以外にはそれができない。なぜなら、“ロスト”は魔力をエネルギーとして生命を維持しているため、食物をとることで体を作っている他の生物とは違い、魔力によって生かされている生物だから。だから、通常の生物にはそこまでの魔力は必要がない。それ故に、それができない。で、それがどうしたかと言えば、人間たちはその”ロスト”の魔力変換ををどうにか利用できないかと考えたんだ。しかし、“ロスト”の作り出す魔力はその他の生物が作り出す魔力とは違っていて、使いこなすことができない。有態に言えば毒なんだよ。”ロスト”の魔力は。さて、そこで躓いてしまった人間たちはあることを発見した。“ロスト”の魔力を使いこなす人間がいることに気付いたんだ。例えば百人もの人を殺した殺人鬼。例えば禁術を完成させた魔術師。例えば敵味方問わず虐殺した狂戦士。とかね。」

 少年は一旦話を区切って再び手を叩いた。

「少し場を変えよう。そっちの方が分かり易いや。」

「ここは、牢獄?」

 再び景色は変わり、今度は暗く湿っていて血と腐った匂いの充満している部屋に出た。

「そう、君が四年間捕まっている場所だよ。もう一度言うけどここにいる人間は例によって例に漏れず死なない人間だけだ。では、何故死なないのか?それは、簡単だよ。契約したのさ“ロスト”と。君と同じようにね。“ロスト”と契約した人間は死ななくなる。その理由は魔力を使って体を再生できるという“ロスト”の性質を得ることができるから。そして、“ロスト”と契約した人間は“ロスト”の生み出す魔力を扱えるようになる。それは、変換した魔力を人間に使えるようにまた体内で再変換しているからね。だけど、息を吸うだけ魔力へと変換してしまうその性質だと人間の体は魔力過多でいずれは破裂していく。風船に空気を入れ過ぎたときのように。だから、放出する。それも無限に。半永久的に魔力を放出していくのさ。そこに魔装国家オーキッドのお偉いさんは目を付けた。“ロスト”と契約したものをここに幽閉して、無限に放出されている魔力を吸収し利用しているんだ。」

「……それは、本当の事なのか?だから、俺が生かされてここに幽閉されているのか?」

 俺は少年のその言葉に驚愕した。

「俺の放出している魔力を利用する為に此処に投獄したってことなのか!!」

 そう、俺が声を荒げたと同時に三度風景が切り替わった。

 それも、最初にいた真っ白なあの空間に。

 しかし、今度は少年は全く動かなかったはずだが。

「君が僕に寄せる信頼が弱まったから、僕はまたこうして変な姿に逆戻りしてしまった。」

 目の前には少年ではなく、黒い靄が浮かんでいた。

「うっ!!……すまない。」

「仕方がないよ。見ず知らずの僕が言っていることなんかを信じるのがそもそもおかしいからね。まあ、だけど僕が言ったことは真実だ。君の現状は“ロスト”と契約したことにより無限に放出されている魔力を利用する為にあの牢獄に幽閉されている。それが裏向きの理由だ。」

 俺はゆっくりと息を吸って心を落ち着かせてみたが、黒い靄はまた少年の姿に戻ることはなかった。

「正直に言うとね、この後の話を君には聞いてもらいたくないんだよね。一度あの日のことを思い出して、感情を放出したことで君は再びあの日のことに向き合おうとした。でも、あの日の真実は君のように優しい人が聞いていい話ではない。隠された真実なんてものは残酷で碌なものがないんだ。特にあの日の真実は悪意しか詰まっていない。人が人を利用する為に多くの人を犠牲にしてその歩むはずだった人生を狂わせた。」

 聞こえてくる声に強い怒りが篭っているのが分かる。

「これを僕は許したくない。こんなことは許しちゃいけない。だけどね、この事実を僕が知っていても僕には何もできない。――だから、僕は君にお願いしたい。」

「お願い?俺に?」

「そう。一番の被害者である君には辛いことだとは分かっているけど、これを頼めるの君しかいないんだ。」

「一体何を……。」

 ”一体何を俺に頼みたいんだと”言いかけところで、いきなり真っ白な空間が闇にのみ込まれるようにして黒空間へと変化した。

 そして、俺の目の前にはやはり金色の釦が付いた黒い服を着ている少年が立っていた。

「無理矢理で申し訳ないんだけど君を勝手に僕の世界へと連れ込んだ。僕にはもう君が信頼してくれるのを待っている時間がないんだ。」

 申し訳ないという顔でこちらを向いて話している少年を見て、俺は茫然としていた。

「なんで……右腕がないんだ?さっきまで付いていたのに。」

 少年の右腕は食いちぎられたように消失していた。


「……もう、僕には時間がない。僕は君にお願いしたい。――この世界を滅ぼしてくれ。」

 酷く静かな激情が耳に響いた。

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