後悔の記憶。
「実のところこのレスという呼び名も本名じゃあないのだけれど、随分と昔に名前を失ってしまって。それで、急ごしらえでレスとその時決めたんだけど。」
黒い靄のようなものが俺に流暢に話し掛けてくる。
「それじゃあ、貴方は“ロスト”なのか?それに元人間ってどういう事だ。」
俺はその靄に尋ねた。
「いや、正確には君の世界にいる“ロスト”とは別者何だけど、でも大した差はないよ。もともと人間だった僕は本来人間として許されざることをしたから、化物になった。難しいことしたわけじゃないよ。化物を助けるために化物に魂を売った。ただそれだけのこと。」
「化物を助けるために魂を売ったのか!?」
「うん。まあね。……でも、結果は最悪だった。化物だった彼は人間に殺されて、その巻き添えで無関係な人も大勢犠牲になって、当然僕も化物として追われて、すべてを失った。仲間も友人も家族も。」
俺は思わず同情してしまった。
「それって……。」
「――そう、僕は君とほとんど同じことをした。化物を助けれるために人間を敵に回した。“ロスト”を助けるために人間を敵に回した君と同じようにね。」
俺は目を見開いて驚愕した。コイツはあの日のことを知っているということに。
すると、その黒い靄は段々と人型に近い形へと変形していった。
「実はこの世界は君の夢の中――君が想像している世界なんだ。その君が作り出している創造の中に僕が勝手に入り込んでどうにか話をしているというわけ。それで、無理やり入り込んでしまっているわけだから少なからず拒絶反応が出てしまって、先ほどの姿みたいになったんだ。」
まだ、靄のような実体だが、その体型はどこからどう見ても人影に見える。
そんな、人影は人間味が増した声で話し続ける。
「君と僕が親しくなるほど――要は君が僕に親近感や共通点を感じていけばいくほど、僕は形を取り戻していくというわけさ。」
「共通点……。」
「そう、共通点。」
「………………。」
沈黙を返せざる負えなかった。それはつまりこの人影が言っていることを認めて、肯定していることになる。
「少し、思い出してみようか。君には辛いことだけど、あの日――君が全てを失ったその時のことを。」
「思い出す……。」
「何で君は全てを失わなければならなくなったのか。その原因は、いったいなんだい?」
人影は決して責めるような強い口調ではなく、俺のことを思いいたわるような優しい口調で尋ねた。
「……あの日の始まりは、俺が一人の“ロスト”である彼女を助けたことだった。」