悲嘆の中で。
(死にたい)
闇で閉ざされた視界の中で俺はそう思った。
しかし、両手両足を鎖で繋がれたこの状態じゃ何もすることができない。
舌を噛もうにも猿轡されているためそれもできない。
(何で俺は生きているんだろう。どうしてあの時俺だけは生き残ってしまったのだろう。)
あの日からずっと自問自答を続けてきたことだ。
どうして。どうして俺だけは死ななかった。
なんで。なんでみんなが死んだんだ。
(無力だ。あまりにも自分は無力だ。誰一人として救うことも助けることも出来ず、のうのうと一人生き残って。……死ぬことすらできない。)
団長の肩書がなんだ、神童がどうした。いくら偉くなろうと、誰も守れない騎士に何の意味がある。
そんな者は無意味で無価値だ。
生きている価値すらない。
(もう、嫌だ。死にたい。死なせてくれ。どうせならいっそ、誰か俺を殺してくれ。)
声にもならないその悲痛な願いは届かない。
そして、ラークは暗闇の中で目を閉じた。
夜も朝もないこの世界で彼は悲嘆な叫びをあげていた。
◆
次に俺が目を開けたとき、そこは暗闇ではなかった。
暗闇どころか、真っ白な場所に俺は立っていた。
気づくと手足の鎖や猿轡もなくなっている。
服装もボロボロの囚人服ではなく、金色の釦が付けられている見たこともない黒い服に変わっている。
「……なんだここは?一体、何があった?」
疑問を浮かべつつも辺りを見回して情報を収集する。
――しかし、この場には何もない。真っ白な空間が広がっているだけだ。
「夢でも見ているのか。」と、思い頬を抓ってみるが目は覚めることはなく、抓った頬が痛いだけだった。
顎に手を当てて考えてみても全く皆目見当もつかない。
もしかして、ここは天国だろうか。
やっとのことで俺は死ぬことができたのかもしれない。
「――いいや。残念だけど、ここは君が望んでいるような天国ではないよ。」
不意に声が響いた。
「だけど、君がいた現実でもないけどね。まあ、少なくとも君が死んだということはないよ。」
そこには何かがいた。今までに見たこともない何かとしか言い表しようがない。
強いて言うならば黒い靄が漠然と白い空間に浮かんでいて、人間似た声で俺に喋りかけているということだ。
「……貴方は何者だ?人間ではないよな。その姿はいったい……。それに此処はどこなんだ?」
「うん、そうだね。一つ一つ答えていこう。まず僕は人間じゃない。今は元人間だった化物だよ。レスと呼んでくれ。」