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普通の男の子に戻りますっ!

作者: なか。

 異世界転生チートをご存知だろうか?

 正しく俺がそれである。


 ありきたりにトラックに轢かれたのかもしれないし、人生に嫌気がさして屋上から飛び降りたのかもしれない。首を括った可能性もある。もしくは何らかの事件に巻き込まれて銃で撃たれて死んだとか。出来れば格好良い死に様だったら良いなと思う。

 もっと我が儘を言って良いなら、俺が死んだと同時にマイパソコンのデータも吹っ飛んでくれてたら助かるんだが。親には見せちゃいけないフォルダがあるんだよ……、マジ勘弁して。

 いやいや、死に方なんてどうでも良いんだよ。死んだ後の俺のお宝の行方も、どうでも良くないけど今はどうでも良い。良くないけど。


 問題はその後。

 俺は神様と対面した。した筈だが、顔はおろか口調も覚えてない。こんな会話したっけな、ぐらいの記憶だ。俺の記憶力を嘗めるな、鶏並みだ。ついでに人の顔を覚えるには最低一年は顔を突き合わせてないと、覚えられる自信は無い。

 その時、俺は神様に事の経緯を説明された。どうやら俺は後百年は生きれる筈で、ご長寿としてギネスに載る予定だったらしい。なのに若い身空で死んだのは神様のうっかりミス。テヘペロじゃ誤魔化しきれないミスだ。せめて俺じゃなく、俺の知らないどこか遠くの他人でうっかりして欲しかった。

 謝罪を十二分に込めて、神様は俺の願い事をなんでも叶えてくれるらしい。



「魔法と剣と冒険のファンタジー世界に転生したい」

「魔力と体力は世界最強並みに欲しい」

「習わなくても、呪文なしで魔法が使えるようになりたい」

「剣の腕も上級者並みにしてほしい」

「頭も良くないと生き辛いよな」

「とりあえず、俺TUEEEの状態希望ですお願いします」



 正直、テンションが上がりすぎて馬鹿を言ったと思ってる。死んだばっかりでおかしなテンションの上がり具合だったんだよ。しかも神様に会うとか更に臨界点突破だよ。


 そんなわけで、俺は異世界ファンタジーで俺的最強状態で転生した。


 俺が生まれたのは田舎の村だった。村民はほぼ爺婆。一番若い大人は俺の両親だけで、子供なんか俺しかいないそんな村。

 お蔭で、どんなに早くはいはいを始めようが歩き始めようが話し始めようが本を読み始めようが剣に見立てた木の棒を振り始めようが魔法を使い始めようが、最近の子供は成長が早いのねで済まされた。今思い返せば、環境によっては化け物として捨てられても文句が言えない異常さだったと分かる。グッジョブ神様の采配。

 こんな田舎に生まれてどうしろってんだ!と心の中で叫んでいた、乳児期の俺を殴り飛ばしたい。


 その後の事は簡略化してお送りする。

 国の決まりで、十才以上で才能のある若者は学校に通わなければいけない。もちろん神様イチオシの才能ある俺も入学案内が来たから、十才の時に入学した。こんな片田舎までよく目が届くものだが、国有の魔術師連合内で一番偉くて強い人が、日々水晶で国中を眺めているらしい。マジで目が届いてた。なにそれ怖い。

 学校は寮生活で、六年間。様々な分野を、自身の能力に合わせて学んでいった。

 俺は才能の固まりな訳だから、殆どの授業を受けて上々の結果を叩き出す。教えられた事のほぼ全てを、忘れず覚えていられる俺すげぇ。

 最初こそ田舎者の貧民が、と馬鹿にされていたが五年経ったらアラ不思議。地位なんかよりも才能を重んじる家庭のご子息さん達が、親友と言ってくれたりライバルと言ってくれたり運命の人なんて言ってくれたりする。チートマジ凄いマジ感謝。

 俺の人生順風満帆すぎるわー。


 と思っていたら落とし穴。

 魔 王 が 登 場 致 し ま し た 。


 お陰様で魔物が活発化。日が陰って作物は育たず食料不足。暗黒時代である。

 魔王と言ったら勇者が必要なわけで、不安で淀む学校の校庭に女神が降り立ち託宣した。



「勇者よ、貴方の力でこの世界の闇を打ち払ってください」



 俺の目の前には絵にも描けない美しさの女神様。どこかのうっかりさんとは別人だ。覚えてないけど。そして俺は、二つ返事で快諾した。

 周囲からも、さすが俺だと絶賛された。俺以外に勇者を出来る奴なんて居やしないと。いやいやそれ程でも、あるんだけどね。

 王様に呼ばれて登城し、国からも勇者を任命された。教会にも呼ばれて、聖剣と聖なる鎧を授かった。最初から最強装備とかマジでイージーゲーム。

 魔王を倒す仲間ももちろんいた。

 学校で、親友だとかライバルだとか運命の人だとか、友達の中でも特に関わりの多かった奴が三人。それから、王様から直々に選抜された騎士。と言うか王位継承権第一位の王子様。

 紹介されてないのにどうして分かったかって?最強魔法使いに不可能は無いのですよ。ステータス見たら一発でした。

 なんでわざわざ王子様が、とは思ったが気にしなかった。その時は。


 旅は楽しかった。

 魔王を倒すのが目的って言っても、その行程を楽しんじゃいけないなんて誰も言ってない。山あり谷あり、ハプニングありイベントありでポロリもあるよ。まぁポロリはないが、恋愛イベントだってあった。仲間の五人中二人は女の子だし。ライバル発言してるのと、運命の人発言してる二人だ。

 そんなこんなでレベルを上げつつ(俺視点に限る。この世界にレベルなんて概念は元々ない)、ついに来ました魔王城。

 の魔王の部屋の前。



「……ついに来たな」


「ああ。ここまで、長かった……」


「魔王を倒せば、平和が戻ってくるのよね。もう、誰も死ななくて済むのよね」


「もう、苦しむ人達の顔は見たくありません。親を亡くして悲しむ子供も、子供を殺されて泣く親も、寄り辺である故郷を焼かれて嘆く人々も、これ以上増やしたくない」


「おう。だから、ここで絶対に魔王を倒そうぜ!」



 改めて決意を固める俺達。ちなみに王子、親友、ライバル、運命の人、俺の順番。最後の俺の台詞に、四人から「勇者殿……」「勇者……」「勇者ったら……」「そうですね、勇者さん……」と熱い視線を頂いた。好感度バッチリで困ったねこりゃ。


 間。


 魔王は倒した。

 「世界の半分をお前にやろう」のテンプレ台詞も聞いたし、第二形態第三形態も見た。満足だ。

 倒した後、魔王は黒い霧になって消えた。そして代わりに捕らえられていたらしい女神が現れて、満身創痍な俺達(でも俺は軽傷)を治療してくれ、世界に光を満たしてくれた。

 俺達の冒険、完!


 で、終われたらどんなに良かったか。


 俺は王子様に斬り掛かられた。チートじゃなきゃ死んでたねっ。王子様の剣の熟練度、下手すると国の騎士団長より上だから。



「父上に言われて今まで貴様を見てきたが、やはり、貴様は危険だ」



 おいおいいきなり何言っちゃってんの?頭沸いたの?魔王戦で頭打ったの?

 訳がわからないよー!と叫んだところで話は通じず。殺されちゃ敵わんと逃げた。脱兎のごとく。


 そうして、俺は英雄になるどころかお尋ね者になったのだ……。


 この世界の魔法とは違った、俺独自の魔法を駆使して影で生活し続けて数ヵ月。俺は今まで知らなかった事実を知った。


 どうやら、俺は嫌われ者だったらしい……。


 嫌われると言っても、軽度から重度まで様々だ。

 「あいつの高慢ちきな態度嫌いだったんだ」「あいつのせいで順位が上がんなくて親にも叱られたよ」「言うこと聞かないと殺されそうで不安だったんだよね」「友達?は、ふりだけだし」「能力は確かに高いですけど、和を乱すのは最悪でしたね」「いつかはお尋ね者になると思ってた」

 以上が学校での俺への評価である。泣きたい。チートの俺も心はガラスハートだ。

 しかも、親友ライバル運命の人の三人も、俺が犯罪者にされた時点で手のひらを返している。木っ端微塵だよ俺の心……。

 涙を堪えつつ国のお偉いさんがたの評価も聞いてみたら、危険視されてた。いつか国を脅かしかねないと。それは結構前から騒がれていたようで、村にいた時から既に。

 そして今回、魔王を討伐したことで最終決定が下された。



「人類全員の敵となる魔王すら及ばぬ、人の形をした化け物を生かしておいても益はない」



 いやいやいやいや。ちょっと待とうか冷静になろう。

 確かに俺の能力は軽く人外だ。でもだからって殺さなくても良いじゃん?そもそも、魔王倒してくれって頼まれたから、頑張ったんですよ。益じゃん、これ人類にとっての益じゃん!


 なんて、訴えたくても一体誰に言えば良いのか。王様に直談判は無理だ。姿見せた時点で殺されそう。そう簡単に殺せないチートだけど。


 ……俺は何処で選択肢を間違えたんだろうか。

 チート能力を望んだ時点でか?

 ファンタジー世界に憧れた時点でか?

 はぁ、もう普通に日本に生まれて普通に生きていきたい。普通最高。

 だが残念なことに、今さら日本で生きることはできない。まぁ死んでみたらいけるかも知れないけど、誰が好き好んで死ぬかよチクショー。

 そこで、俺は考えた。


 もっかい子供からやり直せば良いんじゃね?


 頭良いわ俺。空間魔法とか時間魔法とかなんやかんやを組み合わせて、あれがこうでそれがああで、うん出来るわ。

 今回の人生を省みて、兎に角、質素で堅実に誠実に真面目な村民になろう。チートはどうしようもないけど、隠せば良いのだ。そしたら、国に目を付けられて命の危険を感じる日々なんて遠ざかる筈。俺頑張る。


 よしよし。ではでは皆様、俺は今日をもって普通の男の子に戻ります!

 フラグじゃないよっ、真面目だよっ。



◇◇◇



 戻ってみたら5歳の自分。

 それからは、質素で堅実に誠実に真面目な村民になろうと頑張ってきた。畑仕事だって狩りだって土木作業だって、とにかく真面目にコツコツやって来たつもりだ。


 そうして10年。前回魔王を倒した時と同じ年齢になったが、俺は日々平々凡々と平和に村で生きている。

 学校は断った。また入学なんかしたら、俺は確実にまた天狗になる。チート最高ヒャーハー!は一度で十分だ。黒歴史は繰り返さない。

 剣を使うのは狩りの時くらい。魔法は痩せた畑に使うくらい。チートの無駄遣いだろうが、俺的には有効活用できてるから良しだ。


 そろそろ嫁がほしいと思い始めた頃、寂れた村が賑わった。なんでも国からの視察団がどうとかで、村長の家にいるらしい。

 嫌な予感しかしないから引き篭った。なのに笑顔の村長がそいつを連れてきた。



「初めて御目にかかります、勇者殿!」



 なんで来たんだ王子様!

 しかも同伴してるのは、友人ライバル運命の人とか言っちゃう痛い人たち。魔王復活の兆しがあり、女神から勇者の資質のある者がこの村にいるとお告げがありました?だったらそこらのお爺様お婆様でもお連れになったら如何でしょうか?


 どこで間違った!やり直しだやり直し!



◇◇◇



 今度は一切、魔法も剣も使わない生活を頑張った。ものっ凄く不便なのが分かったが、お尋ね者になって御用される未来よりはマシだと我慢した。

 なのにまた来た。相変わらずのメンバーで。

 魔法なんて使ったこともないし、剣なんて握るのすら怖いですと言っているのにも関わらず、ならば今からでも王都で鍛えて備えましょうだと。鍛えたくもないし、備えるなら食糧を蓄えて平和な未来まで篭もるわっ!


 やり直しだ!俺は普通の暮らしがしたい!!



◇◇◇



 ……これで一体何度目のやり直しだろう。

 村どころか家の中からすら一切出ずに篭もっても、あいつらはやって来た。

 「そんな風に外の世界を怖がらずとも、貴方にはそんな世界すら変えられる力があるのです!」

 お前らその力を理由にして俺を殺そうとしたよね?

 戻って速攻村を飛び出し山に篭もって野生児してても、あいつらはやって来た。

 「自然すら味方につける貴方は、正しく勇者殿!その力を我々に貸していただきたい!」

 嫌だけど断ったら俺の家族(熊さん狼さん狐さん諸々)を狩る気満々だよね?その重装備はそうだよね?

 国に留まるから駄目なんだ、と隣国に亡命してみても、あいつらはやって来た。

 「世界の大事に国境など存在いたしません!どうか我が国に来て魔王を倒して頂けないでしょうか!!」

 勇者くらいそっちの国で都合しろ……。


 篭もっても逃げても隠れても、あいつらは俺を探して連れて行こうとする。

 もうこれはホラーだ。精神を追い詰める系のホラーゲームだ。俺はホラーゲームが大嫌いだ。

 チートやめたい。自力でどうにか消せないかと試し、結果は封印止まり。しかしそれだと封印を解いてからの魔王討伐ルートで意味がない。


 どうしたら良いかと悩んだ。無駄に良くなった筈の頭を働かせても、今までが惨敗だったので信用がない。それでも頼れるのは俺のみ。どうしたもんか……。



◇◇◇



 俺が、復活前の魔王をコロコロしちゃえばいいんじゃね?と気付いた記念すべき一〇〇巡後。

 魔王さえいなければ、勇者なんか必要じゃない。イコール、俺を探し出そうとしないし力もバレない。やべぇ、頭良いわ、俺。知ってた。

 魔王城までテレポートして、魔王になる前の中途半端な魔王もどきを倒した。なのに魔物や魔人は俺を歓迎してくれて、そのまま城に住まわせてくれた。言葉は通じないし、見た目がちょっとグロいけど良い奴らだ。俺を殺そうとしないし。

 城に厄介になって10年。いつもならあいつらが来る頃だが、影すらない。

 やった!伊達に百回も繰り返してないね!ついに自由だぜヒャーハー!!

 ひとり祝杯を上げる俺に、魔人の中でも結構強い人が近付いてきた。右手を胸に添えて、浅く頭を下げる。礼儀正しすぎて、逆に申し訳ない。ただの居候なのに、



「魔王様、人間達の有する土地も残すところ一割となりました。世界を征服しきるのも、時間の問題でしょう」



 ごめん、また間違ったらしいわ……。




***

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― 新着の感想 ―
[一言] 人間がいなくなっただけでしょ? 別に間違ってないじゃん(迫真
[一言] おもしろかったです。 主人公の頑張りはどこまで続くんだろう。
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