そのさん。 大好きなお前の笑顔のために
いったいどこですれ違ってもうたんやろう。
結婚を前提とした同棲を半年した後、本気の指輪を渡したんはクリスマスイルミネーションの光がキラキラと輝くツリーの前やった。
我ながらべたやと思ったけど、あいつがきっと喜びよる思うたから、あいつの細い指に指輪をはめた。
そん時のあいつの顔は一生忘れん。
夜のクリスマス、周りはカップルばっかりでやたらにぎやかやった。
いつ渡そういつ渡そうってあほほど悩んだけど、キラキラ光るツリーの前のあいつの顔はクリスマスの雰囲気を存分に味わってて、こっちが楽しくなるくらい笑っていた。
―――――こいつしかおらん。
俺はこいつがおらんと生きてけん。
あいつの笑顔は俺の心臓をきつう握り締めて潰してしまうんちゃうかなって思うくらいの破壊力やった。
そん時に、するってポケットの中で握り締めてた指輪を出した。
ツリー見ててこっち見てへんかったあいつの肩を叩いて、俺を見てほしくて、たまらんかった。
手ぇ出して、ゆうた時はわけわからんかったんやろう、「へ?」って。
ああ、なんてかわいいんや。
俺は出された手を掴むと、右手に持った指輪をあいつの左の薬指にはめたんや。
世の中はうまいこといかんもんや。
あいつの指はありえんくらい細いのに、俺の指が震えてしもてあいつの指にちゃんとはまらんかった。
第一関節でとまってもうた指輪を、あいつは空に向かってかざす。
プラチナの金属と小さい小さいダイアモンドの石がイルミネーションの光を受けてきらきら輝いた。
大きな目ぇが、もっともっと大きなって、大きな涙をひとつ、ぽろってこぼしやった。
綺麗やった。
それから二人で新しい門出に相応しい新しい家を探して、家具もあちこち見に行って、二人で納得できるもん揃えて、忙しぃしてたけど、これもあいつを手にいれるためやとおもうと苦やなんて思わへん。
結婚式は大層なことしたない、親戚だけで式あげて、顔合わせの披露宴。
友達は別口で二次会みたいな披露宴にしよ。
それやったらお金もかからんし、なにより楽しいやん。
話し合いはたくさんして、たくさん決めたつもりやった。
せやけど途中からあいつの様子がおかしなってきた。
マリッジブルーってやつかもしれん。
お互いどこか触っていると安心するから、家でも手ぇつないでることが多かったのに、だんだんと手をつながへんようになった。
ソファに座っててもこの前までは寄り添っとったのに、今ではソファの端と端に座ってまるで他人のようや。
仕事があるからそないに一緒におられへんのに、一緒におったかて俺は音楽きいて、あいつは本をよんでやる。
手が寂しい。
肩が寂しい。
あいつの笑い顔は――――いつ以来見てへんのや?
結婚式の日は真っ青に晴れ上がった空。
白いタキシードきて、あいつが気に入ってた花を胸に。
あいつも白いふわふわのドレス着て、俺とお揃いの花の冠。
俺は教会の祭壇の前で、あいつが入場してくるのを不安な気持ちでまってた。
昨日のあいつはずっと俺の顔を見ぃひんかったから。
声をかけたぁても、背中で拒否してるのがわかったから。
何苦しんでんのん?
俺の顔見てぇな。
俺の眼ぇみて話してぇな。
もうすぐ二人、一緒になるやん。
今日と明日では気持ちがちゃうやろ?
苦しんでるお前みてたら、こっちも苦しいなるのに、何で一人で抱えてるねん。
なあ、どないしたん?
あいつからの返事は―――――
「ごめん……」
ああ、やっぱりか。
そんな気ぃしてた。
俺やったらお前を幸せにできひんねんな。
お前の幸せは俺と一緒には築くことができひんねんな。
苦しい、苦しい。
俺はお前のことが―――――っ!
どこで間違うたんやろう。
お前の笑顔が好きやった。
ふとした表情を愛してた。
お前を後ろに乗せて走った自転車は、お前の重みが心地よかった。
あほゆうて笑いあったあのころ。
俺にはもう見ることは許されへんのやな。
潔よう、別れよう。
それがお前を好きでいられる唯一の方法やから。
ありがとう、そして。
シリアス?
ちなみに関西弁が古臭いのはれんじょうの関西弁の知識が古臭いからです。
(2013.5.8掲載)
ちょろっとだけ改造したりして。
花冠~秋田書店の中山星香先生作『花冠の竜の国』を思い出しつつ。まごうとこなきファンタジーやね。大好きです。