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禁句

三人での登校は短い時間だったけれど、とても楽しいものだった


主に話をしていたのは宇津木先輩で、様々な事を理路整然と話す様子からは、深い知識の一端を感じられた


対して三方先輩はずっと聞きに回っていて、自分からは余り喋らない


それを意外かと言えば、そうでもない。三方先輩は普段から聞きに回る事が多いのだ


「それで兄が言うには――」


「え? 本当に? おいおい、それはないわー。あ、じゃあさ、あれはどうなのよ」


「あれはね」


「うん、うん」


程よい相づちにリアクション、そして時おりしてくる質問のどれもが心地よく、会話は途切る事がない。話している側とすれば、これほど話しやすい相手もそうは居ないと思う


「ふんふん、なるほどな―。……あれ? どうした、るん。さっきから黙っちゃって、腹でも痛いのか?」


「いえ、お二人の会話が面白く、聞き入ってしまいました」


「そうか? ま、澪は話上手だからな。あたしもずっと聞いてるだけだよ」


「ち、ちょっと、その言い方じゃ、私が凄いお喋りみたいじゃない!」


「違うのか?」


照れる宇津木先輩にニヤニヤしながら答えた。それで機嫌を損ねてしまったらしく、宇津木先輩はもう良いわよと、早足で先に行ってしまう


「……やば、怒らせちゃった」


「ですね」


「あいつ真面目だからなー。軽い冗談なのに」


「追いかけて謝りましょう」


「いや、今行くと逆効果だ。後で謝るよ」


「分かりました」


先輩がそう言うのなら、それが正解なのだろう


「しかしお喋りってそんなに悪い表現か? あたしはあんま喋らないから逆に羨ましいけどね」


「先輩は聞き上手ですから。話していると、凄く楽しいです」


「聞き上手ねぇ。ま、るんの姉ちゃんと毎日話してるんだ、聞き上手にもなるか」


口角をあげ、からかうように言う


「そんなに酷いですか?」


普段姉さんがどんな会話をしているか、大体分かるだけに申し訳ない


「あいつの半分は、るんで出来ているからな。今じゃ第二の姉かってぐらいお前に詳しいぞ」


「それは……」


「一昨日の夕食は、るんが好きなオムライスだったんだろ? 夢中で食べてる姿が可愛くて、堪らないって話を1日中聞かされた」


「う……」


「一ヶ月前、足の指の爪を折ったらしいな? まよいの奴、1日中青ざめてて面白かったぞ」


「い、いつもすみません」


本当に


「ふふ。長年親友やってんだ、気にするな。それにあたしはお前の事も好きだしな、話聞くの楽しいぞ」


パンっと僕の背中を叩き、あははと楽しそうに笑う。うん、この人が側にいる限り、姉さんは大丈夫だ


「先輩が男だったら良かったですね」


先輩なら姉さんも好きになれるか……も



「せ、先輩?」


凄い目で睨まれ、息が詰まってしまう


「今、聞き捨てならない事を言ったな、お前」


「え?」


「あれか? 乳か? やっぱり乳で判断か? 乳がなければ女にあらずってか、あはははは」


「あ、あの」


「ああそうだよ気にしてるよ、毎日大きくなれって揉んでるよ。だけど全然大きくならないんだよコノヤロー」


「ぼ、僕、先に行きます。では!」


「あ、待てるん! お前とはじっくり話し合う必要がある!!」


「また今度ー」


「乳の恨みは恐ろしいんだ、待てー!」


それから学校まで全速疾走。途中、宇津木先輩を追い越しつつ、何とか学校まで逃げ切れた


「ふぅ」


悪いことを言ってしまった。今度、高級牛乳を持って謝りに行こう


財布の中身を確認しながら、教室へ入る。何人かの友達と挨拶をして自分の席に座ると、裕太がやって来た


「よ」


「おはよう。今朝は早いんだね」


いつも裕太はチャイムぎりぎりにやって来る事が多い


「今日から朝練も出ろって先輩に言われてさ。ほら、俺らもうすぐ二年だろ? 二年がサボってたら下に示しがつかないとかなんとか」


「そっか。ご苦労様」


「ほんと苦労だよ。朝練より自主トレの方がよっぽど身になるのに……そんな事より、いよいよ今週だな」


「今週? 何かあったっけ」


裕太は身を乗り出して興奮気味に話す。なんだろう、小テストの事かな


「バッカ。バレンタインだって、チョコレート」


「ああそうか」


またあの時期が来てしまったんだ……


「まよいさん、なんか言ってた?」


「とくに何も。裕太はいっぱい貰えるんじゃない?」


いつも女の子に囲まれているイメージがある


「多分貰うけど……。いや、嬉しいけどよ」


あまり嬉しくなさそうに言い、ため息をついた


「市販ならいいけど、手作りって何入ってんか分からないから怖いんだよ。去年は手作り多くて本当困った」


「姉さんも手作りだよ」


作っている時が一番幸せらしい


「手作り最高! 手作り以外、無理だから。……って言ってたって、まよいさんに言っといて?」


「了解」


苦笑いで頷くと、裕太はいきなり教室を飛び出して何処かへ行ってしまった。そして何分か経った後に戻って来て、僕にパックのジュースを差し出す。報酬のつもりなのかな


「だけどこれは無い」


味噌おでんホット


「一回飲んでみろって、うまいぞ?」


「無い」


あり得ない


「そ、そうか、うまいんだけどな……じゃあ俺のホット青汁を」


「…………後で冷やして飲むよ、ありがとう」


「おう!」


「…………」


病院に連れて行ってあげた方が良いのだろうか


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