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告白される姉

「会長さようなら〜」


「はい、さようなら中村さん」


「さ、さよなら白波瀬先輩!」


「さようなら。あ、気をつけて岡田君。前を見て歩かないと危ないよ」


歩けば棒にあたるじゃないけれど、姉さんが学内を歩くと色々な人に声を掛けられる。そして姉さんは声を掛けてきた相手の名前を、ほぼ確実に知っている。これは素直に凄いと思う


「屋上は先輩でしたっけ?」


今回の告白者は三人。屋上、裏庭、校門 で待ち合わせ。他にもラブレターを貰っているけれど、そちらについては後日返事を出すそうだ


「うん。三年の和泉さん。優しくていい人だよ」


「それでも断るんですね」


「好きにはなれないから」


告白について姉さんは曖昧な返事を許さない。僕も何年か前に曖昧に返してしまったら、3日ぐらいまとわりつかれてしまった


「僕は横に居れば良いですか?」


「ドアの前で待っていて。告白は一人で受けます」


「分かりました」


僕達は言葉少なく階段を上がる。屋上へ続くドアの前へ行くと、姉さんは何度か深呼吸をし、僕に気弱な微笑みを見せた


「姉さん?」


「ん……、いってきます!」


「いってらっしゃい」


大変ですけど、頑張って


ドアの向こうに消えてゆく小さな背中を見送り、僕は壁に寄りかかった


それから五分ぐらいが経ち、屋上から男性が出てきた。彼は僕に気付いたけれど、何も言わず階段を降りて行く。目が少し潤んでいたように見えたのは、きっと僕の感傷によるものだろう


「……姉さん」


屋上へのドアを開け、フェンス側で佇んでいる姉さんに声を掛ける。姉さんは、さっきの人より泣きそうな顔で僕を見たあと、誤魔化すように首をブンブンと振った


「次、行こう!」


「そうですね」


早く終わらせて、何か奢ってあげよう



二人目は裏庭。やっぱり僕は一緒には行かず、建物の陰で待つ


「白波瀬の事、ずっと気になっていた。俺と付き合ってくれないか?」


風に乗って聞こえてくる声はとても真剣で、明確な告白だった。その告白に姉さんは一拍おいた後、言葉を返す


「……ありがとうございます先輩。ですが私には好きな人がいます。先輩のお気持ちにお応えする事はできません」


「そうか……。相手は?」


「片想いです」


「そう……か」


ため息のような声を発し、二人は黙ってしまう。僕は気まずさに空を見上げて、なんとなく雲を数えた


「もう行っちゃったよ、悟」


10個ほど数えた頃、姉さんが僕を呼んだ。物陰から顔を出してみると、確かに先輩の姿はない


「お疲れさま。次で最後ですね」


肩を落とす姉さんに近寄り、ことさら明るく労う。姉さんは口をキュッと結び、握り拳を作った


「よーし、ラスト行くよ!」



三人目は友達の付き添いがあった。だから僕も付き添いと言う事で、相手から姿が見える所で待つことにする


「お待たせしました松井先輩」


今回の告白者も先輩らしく、彼は姉さんに来るのが遅いと強く咎めた


「ごめんなさい」


「……ま、いいよ。で、どうすんの? 付き合ってみる?」


基本的に軽い人だったみたいで、言葉に先ほどの人のような重みはない。当然姉さんは断るのだけれど、真剣には聞いてくれなかった


「こっちは遊びなんだからさ、軽く考えようよ。適当に遊んでつまんなかったら別れれば良いだけの話だろ?」


「遊びでも軽くは考えられません。お付き合いは出来ません」


「は? なに断ってんの? つーかノリ悪いって。良いのはツラと体だけ?」


心ない言葉に姉さんの体が強張る。それを見て、付き添いの人が初めて口を開いた


「あんまイジメてやるなよ進、俺は悪くねぇと思うよ純情なの」


「そう? じゃ持ってく?」


「っ!」


ここから見ても分かるほど、姉さんの顔は青ざめた。怖いのだろう、震えているようにも見える


「はは、ビビんなよって。カラオケとか行くだけだから」


「…………」


いろいろ問題のある姉とは言え、このまま見ているのは面白くない。僕は待っていた自転車置き場から何気ない風に姉さん達に近寄り、声を掛けた


「姉さん、まだ時間が掛かるのですか? 早く帰らないと怒られてしまいますよ」


「悟……」


「……なんだよ」


姉さんに告白をした人が、僕を見て眉をしかめる。それに対して付き添いの人は、表情が一切変わらなかった


「姉は早く家に帰らなければならないのですが、まだ何かお話が?」


「……いや、別に。アドレス交換しとく?」


携帯を出しながら、付き添いの人にそう聞く


「いらね」


それだけを言い、二人は姉さんに何も言わず立ち去った


「…………ふぅ」


「終わりましたね、姉さん」


「うん。それじゃ帰ろう、悟」


姉さんは微笑んでいるけれど、その手はやっぱり少し震えていた。僕は手に手を重ね、お疲れさまと心で伝える


「るんくん……」


「大変でしたね。さ、たい焼きでも食べに行きましょう」


「うん!」


そして帰り道。駅前の商店街にあるたい焼き屋でクリーム味を2つ買い、店のベンチに座る


「温かいですね」


美味しそうだ


「るんくん〜。たい焼き一緒に食べるよ〜。るんくんは右から、わたし左から。あむ……ふぁい!」


たい焼きをくわえ、姉さんは迫ってくる


「……勘弁してください、ほんと」


「本気の拒絶!?」


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