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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

私以外の女にチョコを渡すなんて!

作者: 水稲
掲載日:2026/02/14

 最近、彼女ができてから、厚底のスニーカーを履くようになった。

 六センチの厚底を履くと、あたしの彼女――八宮はちみや有栖ありすとの身長差が十五センチくらいになる。

 そうすると、ちょうど有栖の事を抱きしめやすくなる。


 靴紐を結び終わり、立ち上がると、ドアノブを掴み、背筋をピンと伸ばし、深呼吸。


 メイクもヘアセットも普段より時間をかけて丁寧にした。荷物も全部持った。


「よし」


 息を吐くと同時に扉を開く。

 いつも通りの光景。しかしあたしの気持ちは全くいつも通りなんかじゃなかった。


 今日はバレンタインデーなんだから。






 有栖の家は、あたしの家のすぐ近くにある。

 だからいつも、有栖の家の前で合流してから二人で学校に行く。


 これは付き合う前からの習慣だった。

 私たちは幼なじみで、昔から仲良くしていたのだが、最近あたしから告白して付き合う事になった。

 付き合ってからの毎日は、本当に幸せなものだった。


「有栖、学校行くよ」

「あっ、はい!すぐに行きます」


 豪邸と形容するに相応しいような巨大な西洋風の邸宅。そのインターホンを押すと、すぐに有栖が出てきた。


 有栖はかなり裕福な家の育ちで、所謂お嬢様というやつだった。

 いつも礼儀正しく、あたしにもクラスメイトにも敬語を使う。


「お待たせしました」

「おはよ、有栖」

「おはようございます、ユウちゃん」


 ドアを開いて現れた有栖は、普段と変わらない、綺麗な身なりをしていた。

 恐ろしい程丁寧に、まるで西洋の人形のように手入れされたまっすぐな長い髪。細長い目の中で輝く、色素の薄い真っ直ぐな瞳。それを引き立てる睫毛。

 ああ、いつ見ても惚れ惚れする。


 つい普通に話すだけでも少し緊張してしまう。バレンタインのせいだ。

 緊張するような事なんて何一つとして無いのに、どうしても、特別な日であることを意識すると胸が高鳴ってしまう。


 このようなちょっとした事ですぐに気分が上下してしまうのは、あたしの悪い癖だ。


 あたしが歩き出すと、有栖はすぐに腕を組んできた。

 付き合ってからまだ一ヶ月も経たないが、こうして腕を組んで登校するのにはかなり慣れてきた。


「ねえ有栖」

「なんですか?」

「んー、まだいいや」

「えー」


 今チョコを渡してもいいかな、と一瞬思ったが、もっと雰囲気を作ってから渡したい。

 帰り際、二人きりの教室なんかで突然手作りのチョコを渡し、有栖を喜ばせるのだ。


 こういう、ロマンチストすぎるあたりもあたしの悪い所だと思う。


 歩いているうち、ふと、有栖から漂う香りに気がつく。


「あれ、有栖今日めっちゃ良い匂いしない?」

「あっ、ユウちゃん、気づいちゃいましたか〜?」


 有栖が嬉しそうにニヤつきながら身体を強く寄せてきた。


「今日、香水付けて来ちゃったんです」


 有栖が寄ってくると、その首筋の方から漂う柑橘系のいい香りがより強くなる。


 あたし好みの香りだ。

 蜜柑が大好きなあたしに合わせて、柑橘系の香りを選んでくれたのだろうか?


 というか、わざわざ香水付けてくるって事は、有栖も今日は気合いを入れてきているのだろうか?


 ああ、いけない。

 また色々考えすぎてしまった。有栖の一挙一動に様々な妄想を巡らせ、勝手に喜んで萌える癖もやめた方がいいだろう。


「んー、ちょー良い匂い。あ、いや、もちろん普段の有栖もめっちゃ良い匂いするんだけどね?」

「ふふ、ありがとうございます」


 不要な配慮から、めちゃくちゃキモい事を言ってしまった気がする。

 だが有栖は喜んでくれているようだから問題は無い。


「……あれ、ユウちゃんの方からも良い香りが」

「えっ、あっ、ちょ!これは気にしないで!」


 鞄の中に詰めていたチョコレートの匂いが溢れてしまったのか、突然、有栖が不思議そうに鞄の方へ顔を寄せた。


 あたしは咄嗟に鞄を背中側に隠す。


「えー、私に隠し事ですか?」

「こればっかりは仕方なくって……」


 そもそも、チョコレートがある事を隠す必要なんて無いのだが、なんとなく、渡す時までチョコを持ってきた事を隠したいという心理が働いていた。

 今チョコの存在に勘づかれると、すぐにチョコを渡す事になってしまう気がする。

 それは良くない。やはりムードを作ってから渡さなくては。


 あたしは必死に話題を逸らしながら、学校へと向かった。





 学校へは片道約20分。

 二人で雑談をしながらだとすぐに着く。


「じゃあユウちゃん、また後で」

「ん、また後で」


 あたしたちは別のクラスだから、一旦ここでお別れ。

 昼休みは一緒にご飯を食べるが、それ以外の時間は二人別々で過ごす事が多い。


「あ、ユウ、おはよ〜!」

「おはよ」


 クラスの友達と軽く挨拶を交わす。

 周りを見渡すと、既に何人かがチョコを交換し合っている。


 うちの学校は女子校なので、チョコを渡すというよりはチョコを交換し合うというのが普通だ。


 そういうシステム故に、とりあえず義理チョコをばら撒きまくる人も少なくない。

 あたしは結構人脈の広い方なので、毎年とりあえず義理チョコをばら撒くようにしている。


 今年も、あたしは有栖に渡す手作りの物の他に、クラスの人に配る用のチョコを沢山持ってきた。

 そのせいで鞄はパンパンで少し重いが。


「ユっちゃん、これウチから」

「あ、ありがと〜!」


 鞄を置き、自分の席につくと、後ろの席に座っていた友達がチョコをくれた。

 ちなみに、私はクラスの友達からはユっちゃん呼びされている。


「ユっちゃんもどうせ持ってるでしょ?頂戴」

「待って。昼休みに一気にみんなの分配るから」

「えー、早く食べたいんだけどー」

「え、あんたその場で食べるの?」


 そんな会話をしていると、チャイムが鳴った。そろそろ授業が始まる。


 私は一限の準備をしながら、朝礼の開始を待った。




 今日の授業は一段と退屈だ。


 なにせ、今日はもはや授業のためではなくバレンタインのために学校に来ているのだから。

 授業はほとんどオマケで、余興のようなものだった。


 普段の二倍にも感じられる長さの授業を4時間耐え抜き、ようやく昼休みがやってきた。


「ユウちゃん、お昼一緒に食べましょう」


 いつものように有栖がやって来て、あたしの前の席を動かし、あたしと向き合うようにして座った。


 前の席の子は普段から学食で、いない間有栖がこの席を使うことも許してくれている。


「ユウちゃん……その、今年も、チョコは配るんですか?」

「うん、みんなに配るつもり」

「へぇ……そうなんですね」


 お弁当を食べながら有栖が聞いてきた。

 なんだか不満そうな表情をしているのは気のせいだろうか?


 そうしてお弁当を食べ切る頃には、周りでちらほらチョコの交換が行われつつあった。


「あー、みんな食べ終わりそうだしそろそろ配ろうかな」


 私はお弁当の蓋を閉じ、義理チョコがたっぷり入った袋を鞄から取り出す。


 すると、有栖が私の事を鋭い目つきで睨んできた。


「ふーん、ユウちゃん、みんなに義理チョコを配るんですね」

「な、何?」


 有栖が何故不機嫌なのかが理解できずに戸惑った。


「ユウちゃん、私というただ一人の彼女が居ながら、クラスみんなに愛をばら撒くと言うのですね?」

「えっ?」

「ユウちゃんのチョコを受け取るのは、彼女である私だけの特権じゃないのですか?」


 少し理解するのに時間を要したが、どうやら有栖はあたしがチョコを色んな人に渡すという事がどうしても嫌なようだった。


「でっ、でも義理チョコだよ?」

「義理であろうがチョコはチョコです」


 バレンタインを重く受け止めすぎだよ、と思ったけど、口には出さなかった。


「でも、持ってきちゃったから配るよ」

「私だけでそのくらい全部食べ切れます!」

「……太るよ?」

「ユウちゃんは私が太っても愛してくれますか?」

「まあ……太ったところで好きなままでしょ。太っても有栖は有栖だし?」

「じゃあそのチョコ全部私が食べます」

「それとこれとは話が違くて……!」


 有栖は何としてでもあたしが他の女にチョコを渡すのを阻止したいようだった。

 普通そのくらいの事で嫉妬するだろうか?


 しかし、あたしとしてはそういう訳にもいかない。

 有栖の制止を振り切ってチョコを配り始める。


「はい、みゆちー、これあげる」

「わっ、ありがと〜!これ私からね」


 まず、二つ隣の席の美優――通称みゆちーに一つチョコレートを差し出し、お返しの一目で義理とわかるチョコを受け取る。

 有栖は私の後ろにべったりくっ付いて、みゆちーに威嚇している。


「えー、何、ありすぃもしかして嫉妬してんの?」

「嫉妬してます」

「ユっちゃんの事大好きじゃん」

「大好きです」


 みゆちーがあたしの方を見て大爆笑。有栖はなんだか自慢げな表情をしている。


 有栖は、あたしの友達と大体仲が良い。

 行儀が良くて愛されやすく、しかもノリがめちゃくちゃ良いからだ。

 有栖はあたしの友達からありすぃと呼ばれていた。


「じゃあ〜、そんなカノジョ思いの可愛いありすぃには、おじさんが義理チョコあげちゃいまーす」

「えっ?良いんですか?」


 みゆちーが冗談めかした声色でそう言うと、鞄からチョコを出し、有栖に手渡す。

 あたしに渡したのと同じブラックサンダーだった。


 その様子を見ていると、どうしてか少し嫌な気分になった。


「あ、でもどうしましょう……ユウちゃんの分しかチョコを持ってきていないので、お返しが渡せません……」

「いいよいいよそのくらい。そんじゃホワイトデーとかに返して」

「では……ありがたく受け取ります」


 有栖が嬉しそうにチョコを握りしめる様子を見ると、どんどん不安な気持ちに――いや、これは嫉妬だ。

 嫉妬の気持ちが湧き上がってきた。


 なんとなく、さっき有栖の言わんとしていた事の意味が分かった気がする。


「有栖、あたしには他の女にチョコ渡すなって言うのに、自分はチョコ受け取っちゃうんだー」

「あれ、ユウちゃん、もしかして嫉妬してらっしゃるんですか?」

「そういうのじゃないし……」

「ふーん、じゃあ私が他の女のチョコを沢山受け取ってもユウちゃんは構わないんですね?」

「いや、それは…………いや、別にいいよ、そのくらい。あんまりチョコくらいで大袈裟な事言わないでよ」


 つい強がって、別にいいよ、なんて言ってしまったが、正直めちゃくちゃ嫌だ。

 はっきり言うと、あたしはブラックサンダーごときに嫉妬している。


 しかし、有栖が他の人からチョコを受け取るのをやめて欲しいと頼むのなら、あたしもチョコを渡すのをやめないといけないだろう。

 流石に、持ってきてしまった以上それはできない。


「……そうですか」

「あっ……有栖……」

「私は他にしなくてはいけない事があるので。また後で会いましょう」


 有栖は私が素直に嫉妬心を告白しなかった事に怒ったのか、それだけ言って去ってしまった。

 あたしはそれを見ている事しかできなかった。


「あーあ、ユっちゃんがありすぃ怒らせた〜」

「うあー……やらかした。あたしもう有栖の彼女失格だよもう……有栖に嫌われたらもう死ぬしかない……」


 机に突っ伏す。

 失敗した。有栖を嫌な気分にさせてしまった。つい冷たい言い方をしてしまった。

 せめてもっと他に優しい言い方ができたはずだった。つい照れ隠しのような気持ちが働いて、うまく言葉を紡げなかった。


「てかさっきから思ってたんだけど、あんたたちめちゃくちゃ重くない?」

「まあ……自覚はある」

「てか私ちょっと余計な事しちゃったよね、ごめん!」

「あっ、いや!いいのいいの。みゆちーは悪くないよ……」


 そうして暫くみゆちーと歓談しているうちに、元気が出てきた。

 とりあえず、有栖には後で謝って、一旦今はチョコを配り終えよう。

 あたしは一度深呼吸し、他のクラスメイトの方へと向かった。





 結局、昼休みのうちにチョコを有栖以外の渡したい人全員に渡す事には成功した。


 しかし、チョコを渡そうと奔走しているうちに休み時間が終わってしまい、有栖と話せるタイミングが無くなってしまった。


 授業と授業の間の短い休み時間で有栖と話に行こうかとも考えたが、そんな中途半端な時間で仲直りというのも難しいだろうと思い、放課後まで待つことにした。


 あたしはこの世の終わりみたいな気分で五六限を受けた。


「あ"ー、ようやく授業終わった」

「ユウ、さっきからこの世の終わりみたいな顔してるけど大丈夫?」


 授業が終わり、終礼を待っている間、有栖とあたしの親友である浅羽あさばよもぎ――もとい、ヨモちゃんが話しかけてきた。


「有栖に愛想を尽かされちゃったかもしれない」

「えぇ……?有栖が、ユウに?愛想を尽かす?そんな訳無くない?」

「いや、それが――」


 こうなった経緯を説明する。それを聞いたヨモちゃんは半ば呆れているようだった。


「――という訳なんだけど、どうすればいい?」

「えー、まあ、謝ってキスしたら許してくれるんじゃない?」

「だよねー……誠心誠意謝るべきだよね……あ、あとキスはまだした事ないから恥ずかしくて無理」

「えっ、まだなの?」

「まだ」

「嘘だぁ」


 ヨモちゃんはかなりビックリしている様子だった。


 あたしだってしたいが、勇気が出ないんだから仕方がない。


「多分、有栖の方も嫉妬でつい冷たい行動しちゃっただけだろうから、そんなに怒ってないんじゃない?」

「そうかなぁ」


 あたしは、有栖がもう許してくれているんじゃないかという希望を胸に抱いた。

 しかし、それでもまだ不安だ。


「そうそう。だからぁ、謝れば絶対許してくれる。んでチョコ渡してキスして終わり」

「だからキスは無理だって……!」


 そうして話しているうちに先生が入ってきた。


「じゃ、また後でどうなったか教えて」

「んー、分かった。頑張るわ」


 終礼の内容はほとんど頭に入って来なかった。






「あっ、有栖」

「ユウちゃん、こんにちは」


 終礼が終わり、鞄を持って廊下に飛び出すと、先に隣のクラスの終礼は終わっていたようで、既に有栖が教室の前で待っていた。


「あの、有栖……」

「ユウちゃん、これを見てください」


 先程の事を謝ろうとした途端、有栖があたしの言葉を遮って、突然鞄を開いた。


 その中には――沢山のチョコレート。


「クラスメイトから頂いた物です」


 その数はあたしが友達に渡した物よりも多いように見えた。

 有栖はお返しのチョコレートを持っていないから、このチョコを有栖に渡した人たちは全く見返りを求めずに好意でチョコを渡したのだろう。


 有栖の人脈の広さ、友達の多さに改めて驚愕した。

 当然だ。有栖のように可愛くて礼儀正しくてノリも良くて優しい人も滅多に居ない。

 あたしなんかよりも友達が多くて当然だ。


「……」

「ユウちゃんが他の女にうつつを抜かしていたので、復讐です」


 絶句していると、有栖がニヤニヤと笑いながら畳み掛けてきた。


 どうやら、あたしが色んな人にチョコを配って嫉妬心から嫌な気分になったので、あたしにも同じ気持ちを味あわせてやろうという魂胆のようだ。


 こんな事であたしを嫉妬させられると思ってている有栖も有栖だし、こんな事くらいで本気で嫉妬してしまうあたしもあたしだ。


「有栖、あたし以外からのチョコこんなに受け取ったんだ……」

「ユウちゃんが先に、私以外にチョコをばら撒いたんですよ?」


 有栖は本当に拗ねてしまっているようだった。

 子供みたいな拗ね方で可愛いなぁ、と思うと同時に、有栖に拗ねられてしまった、有栖を嫌な気分にさせてしまったという不安感や悲しみがあった。


 有栖にもあたし以外沢山の友達がいて、あたしと一緒にいない時はその友達と仲良くしていて、その時はあたしの事なんて考えていないんだ。

 そう思うと、突然すごく寂しくなってきた。


「私は、ユウちゃん以外にも沢山お友達が居ますから……」


 有栖が非情にもそう言った途端、あたしの中で何かが決壊した。

 高波が押し寄せるように有栖への感情――嫉妬だの独占欲だのが溢れてきた。


「有栖、ちょっとこっち来て」

「へっ……?」


 あたしの冷たい声に戸惑う有栖の腕を強引に掴み、引っ張って連れていく。


 行先は、放課後は使われていない空いた教室。


 鍵はかかっていなかった。

 扉を開き、中に入り、有栖を引き込みドアを閉める。


「ゆ、ユウちゃん……?」


 戸惑う有栖をそのまま壁際に追い詰める。

 有栖が鞄を手から落とし、チョコレートが少し溢れ、落ちる。


「ねぇ、有栖。あたしは他の誰よりも、有栖の事が好き。有栖は?」

「え……あの、私は……」


 突然の事に困惑し、赤面して何も言えなくなっている有栖に、鞄から出したチョコレートを押し付ける。


「これ、チョコ。有栖が貰ったどのチョコよりも時間かかってるし頑張って作ってるはずだから、美味しくなくても食べて」

「は、はい……」


 もはや、あたしは正気ではなかった。

 有栖への気持ちが爆発して、とにかく有栖に自分だけを見て貰いたいと思い、誰もいない教室に連れ込んでしまった。

 とにかく、有栖の恋人はあたしなのだという実感が改めて欲しかった。


 自分でも何を言ってるか分からないほどあたしは焦っていた。

 有栖に誠意と愛を示し、すぐに仲直りしたいとしか思っていなかった。


「で、有栖は?」


 壁に手を付き、有栖に迫る。

 あたしは必死で気付いてなかったけど、客観的に見たら壁ドンだ。


「は、はい……私も誰よりもユウちゃんの事を愛しています…………。さっきは、ユウちゃんに妬いて欲しくて、つい色んな人からチョコを受け取ってしまいました。ごめんなさい。ユウちゃんから愛してさえ頂ければ私はそれで幸せ、です……」


 その言葉を聞けて、あたしは心から満足した。


「あ、あとこれ……私からのチョコです。時間をかけて、愛情込めて作ったので……是非、食べてください。ユウちゃんにしか渡していません……」

「ありがとう、有栖。その……他の人にも義理チョコいっぱいあげちゃってごめん。あたしも謝る」

「は、はい……!」


 どうにか仲直りはする事ができた。

 ひとまず安心。


「今後、こういう風に喧嘩する事は絶対無くしたいの、あたし。だから、あたしの事信じて?あたしが本気で好きなのは有栖の事だけだから」

「……本当、ですか?」

「本当」

「じゃあ――どうして、ユウちゃんは私に口付けをしてくださった事が無いのですか?」

「へっ?」


 有栖が、まっすぐ私の事を見つめている。

 安堵していたところに突然の爆弾発言。あたしは狼狽えた。


 ここで、全てのピースが繋がった。

 なるほど、有栖が理不尽に義理チョコに嫉妬していたのは、あたしと付き合ってしばらく経つのに全くあたしが有栖に手を出さないせいで、焦っていたせいだ。

 あたしがキスの一つも有栖にしなかったせいで、有栖は自分が愛されていないのではないかと感じて、不安になっていたのだ。


 じゃああたしが全部悪いんじゃん!


 有栖をこんな風になるまで不安にさせてしまった自分に突然嫌気がさしてきた。


「ユウちゃん……?」

「……っ、わ、分かった……。今まで恥ずかしくて……というか、怖くて、できてなかったんだけど……。有栖がして欲しいって言うなら、する」

「私がして欲しいから、ですか?」

「いや、違う、あたしがしたいから……だったかも」


 形勢逆転。さっきまで壁ドンで追い詰めていた有栖が、今度はあたしに迫っている。

 あたしが後ずさると、反対側の壁にあたしの背中が当たった。いつの間にか立ち位置は逆になっていた。


「さあ、ユウちゃん。私は目を瞑っているので、もし、ユウちゃんがしたいならお好きなタイミングでどうぞ」


 壁際にあたしを追い詰めると、自信に満ちた表情で有栖が目を瞑った。


 身体が動かない。

 めちゃくちゃ恥ずかしい。

 しかし、誠意を見せるにはここでキスをしなくてはいけない。


 あたしは覚悟を決め、一気に行った。


 有栖の顎に指を添え、顔をあたしの方に向けさせる。

 そして、優しく口付けを交わした。


 満足し、唇を離そうとすると


「まだ駄目です」

「んんっ?!」


 有栖が両手であたしの頭を掴み、再びキスを強要してきた。

 意外と力が強い。離れられない。


 あたしは抵抗する事もできず、有栖の熱烈な口付けを受け入れる事しかできなかった。


「……はぁ……これで満足しました」

「ちょっ……有栖……今の、流石にヤバい……」


 息を切らしながら、満足げな顔をする有栖に文句を言う。


 心臓がバクバクと音を立てている。ちょっと汗をかいてきた。耳がすごく熱い。


 有栖からの熱烈な愛を感じ嬉しくはあったのだが、あまりに交感神経が働きすぎて、寿命が縮んだように感じた。


「じゃあユウちゃん、帰りましょうか」

「……うん、帰ろう」


 胸の高鳴りを抑えられないまま、有栖と手を繋いで教室を出ようとすると――


「……ほんとにキスしてるじゃん」

「えっ、ちょっ、ヨモちゃん?!」


 教室の扉が半開きになっていて、そこからヨモちゃんが覗いていた。


「えっ、いつから見てたの?」

「最初から」


 あたしは全身から生気が抜けたような気分になった。


「あらら……私たちの愛の深さが他の人にも知られてしまいましたね……」


 有栖は何故か嬉しそうだったが。


「まあ、仲直りできて良かったね〜。それじゃ」

「ちょ、ヨモちゃん今の絶対他の人に言わないでね?!」

「私は広めて頂いても構いませんよ?」


 ヨモちゃんがどっちとも取れない「んー」という曖昧な返事をして、そのまま去ってしまった。


「さて、帰りましょうか」

「帰ろうか……」


 何だか今日は凄く疲れた。

 帰ったらしっかり休もう。有栖から貰ったチョコでも食べながら、ゆっくり休もう。


 あたしが歩き出すと、有栖は今朝よりも強く腕を抱きしめてきた。







バレンタインなので百合を書きました。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

気に入って頂けたら評価やブクマ頂けると嬉しいです。励みになります。


前に書いた『友達のお嬢様とギャルが両片思いだと発覚したので何としてでもくっつけようと思う。』という作品と同じキャラクターが出ているので、是非そちらもどうぞ。

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