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第11話 恵比寿駅に集合よ

◆待ち合わせ


月曜(祝日):PM13:50


「後10分か。もう少しゆっくり来ても良かったかもな」


現在俺は、恵比寿の西口改札前で一人立ち尽くしていた。


今年は寒くなるのが早い。


例年は温かい9月だというのに気温は落ち込む一方だ。14時という温かい時間帯ではあるが、それでも少し寒い。


もっと着込んでくればよかったと、おもむろに白いパーカのポケットに手を突っ込む。辺りを見渡すと、連休最終日にも関わらず多くの人達で賑わっていた。


俺の近くでスマホを弄っている人達も、待ち合わせ中なのだろうか……と、思考を巡らせると同時に、昨日のやり取りを思い出していた。



◆首相撲


「明日は無理だよ。シフトが入っているし。どんなに急いでも、恵比寿に着くのは20時近くになるよ?流石に女子高校生を遅くまで連れ出すのは気が引けるし、お店も閉まっているんじゃない?」


美香ちゃんは、明日恵比寿にあるスイーツが美味しいカフェに連れて行って欲しい。と、俺にお願いした。勿論それ自体は構わなかったけれど、残念ながらシフトが入っている。


「そうだ!村瀬は明日すこぶる忙しんだ、そんな暇はない!休むと会員様方に迷惑が掛かるだろ?それにほら……あれとか、これとかあるからな。無理!!諦めなさい、美香」


何故か食い気味に俺の事を語るのは黒木会長。大人しい人だと思った事はないが、これだけテンションが高いのは珍しいな。


指示語が多すぎて内容が頭に入ってこないが、よっぽど俺に出勤して欲しい、という事だけは伝わった。


「カイチョー、サマーが、カワリデテモイイヨー」


先生は美香ちゃんに助け舟を出そうとしたのか、そんな寛大な御心を披露した。サマー先生だってたまの休日くらい色々やりたいことがあるだろうに。


その一方で、会長といえば取り付く島もなかった。


「ダメだ!村瀬は貴重な戦力だからな。村瀬の変わりはいない!村瀬万歳!」


どれだけ俺の名前を連呼すれば気が済むのかという位、会長は狂ったように俺の出勤を推してくる。


褒め称え方が雑過ぎるからだろうか?一周回って馬鹿にされている気すらしてきた。


そんな会長に対して、サポン先生は粘り強く交渉を行うことにしたようだ。


「カイチョー」

「駄目だ!」

「ダメデスカー?ドシテモ?」

「どうしてもダメ!」

「……シアイ、デテイイよ?」


……バッ!!と、俺と会長は大きく目を見開き、勢いよくサマー先生へと振り返った。


今、何て言った?試合に出てもいいと言ったのか。嘘だろう?


会長も先程までの勢いだけで話す様な事はなくなり、真剣な表情でサマー先生の顔を覗いていた。


「それ本気で言っているのか?だってお前、あれだけ嫌がっていたじゃないか」


無言のまま、にこりと笑みを浮かべるサマー先生。そんな表情のまま見つめ続けられた会長は遂に根負けしたようだった。


この瞬間、会長のTKO負けが決定した。


「はあー。どうして、お前はそこまで美香に肩入れするんだ?まあいい。村瀬だったら問題も起きんだろうからな……それとサマー、さっきのは聞かなかったことにしてやる。もし本気で試合に出てもいいと思えたら、改めて教えてくれや。喜んで最高のマッチメイクをするからよ」

「カイチョーさん、アリガトゴザイマス。ダイスキ」

「というわけで、村瀬。お前明日は来なくていいから」


さっきまでの熱量は何だったのか?シッシッと、まるで野良猫を追い払うような動作を俺に向ける。


というか、シフトを勝手に削られたよな?俺の意向はお構いなしですか、そうですか……。


美香ちゃんといえば、状況を全く理解できていなのだろう。説明を求めるべく、ツンツンと俺の脇腹をつついてきた。


「ねえ、レンジ。今のやり取りってなんだったの。サマーがどうしたの?」

「ん、ああ。知らなくても仕方がないか?ざっくり云うと、生ける伝説の試合が見れたかも、ってとこ事かな」

「……何それ?」

「まあ、興味あるなら今度ゆっくり教えてあげるよ。最も、俺より会長の方が何倍も詳しいと思うけどな」

「ふーん?」


少しの間、何かを考えるようにしていた美香ちゃんだったが、突然ニヤリとした表情を浮かべた。


「じゃあレンジ。明日14時に恵比寿の西口に集合ね?」

「はいはい、分かりましたよ。お付き合いしますよ、お嬢様」


元々仕事があるから予定を入れている訳もなかった。それに、ここで断ったら……


ビューン!!ズバッ!


後ろで鼻歌を歌いながら、回転肘打ち《ソーククラブ》のシャドーをしているサマー先生の肘が飛んできそうな予感がして、物凄く怖かったというのが本音である。



◆5分前行動


「レンジー!」


その声でふと我に返る。声の主は勿論、美香ちゃんだった。


ふわふわとした白いファーが付いているベージュ色のダッフルコートを羽織り、下は丈が短めなスカート。どこから見ても可愛らしい女の子、という装いで彼女はこちらに駆け寄ってきた。


「ま、待った?」

「いや、5分くらいかな?」


現在は14時、5分前。ちゃんと5分前行動が出来る美香ちゃんは感心である。


そうそう。女子の「待ったー?」はこういう風に、お互いが時間通りに来ているから可愛いのであり、おもっくそ待たされた状況でそれをされると、イラッ、と来るだけだから気を付けよう。


「そ、そう。じゃあ行きましょうか?……何よ、ジッと見詰めたりして?」

「いや、その髪飾り。高校の入学祝いに俺がプレゼントしたヤツだなと思って」


美香ちゃんの左側頭部あたりで静かに主張しているのは、彼女の入学祝いにと贈った髪飾りだった。


ユリの花と葉をモチーフにした銀色のそれは、決して高価ではなかったけど、何となく彼女に似合いそうだなと思って購入したものだ。


少しだけ、耳と頬を赤く染めた美香ちゃんは、


「そ、そうだったけ?よく、覚えてたわね//」


そう言うと、ちょこんと俺の小指を握りゆっくり歩き出すのだった。


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