第52話 練兵場にて(その8) -娘、母を怒らせる-
(前話からの続き)
振り返ると、ダグ騎兵連隊長があきれた表情で後ろに立っていた。
僕は戸惑い、ダグ騎兵連隊長に問うた。
「ダグ騎兵連隊長、、、どうして、ここに?」
ダグ騎兵連隊長はあきれた表情のまま答えた。
「午後からロードバイクの訓練の筈だが、、、(第50話)
ちっとも来ないから迎えに来たんだ。。。」
僕は慌ててスマホを確認すると、午後1時をとうに過ぎていた。
しまった!
ルイス少尉のパラシュート降下訓練に夢中になって、時間を確認することを忘れていた!
ドーラは慌てて下馬し、ダグ騎兵連隊長に駆け寄ると、頭を下げた。
「大変申し訳ありません!」
ドーラは頭を上げると、ダグ騎兵連隊長に釈明した。
「ローレンス曹長には、午前中、
ルイス少尉のパラシュート降下訓練の手助けをさせておりました。
(第52話)
でも、もう、ローレンス曹長の手助けは不要です。」
そしてドーラはエミリー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵に顔を向け、指示した。
「エミリー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵、
今すぐオフロードバイクの教習に向かえ!」
エミリー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵は直立し、一斉に「「「は!」」」と答えた。
ドーラは再び、ダグ騎兵連隊長に頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!」
ダグ騎兵連隊長はため息をついて、うなずいた。
どうも、これで許してくれるらしい。。。
だが、ダグ騎兵連隊長は怪訝な表情でドーラに問うた。
「ところで、、、
ルイス少尉の『パラシュート降下訓練』とは、、、
なんだ?」
すると、ダグ騎兵連隊長の娘のエミリー少尉が、笑顔で上空のルイス少尉を指さした。
「騎兵連隊長閣下、あれです。」
ダグ騎兵連隊長は、エミリー少尉が指さした方向に、ルイス少尉がパラシュートを広げて降下している姿を見つけた。
そして驚きの表情を浮かべ、エミリー少尉に問うた。
「なんだ!? あれは!?」
エミリー少尉は笑顔のまま、ダグ騎兵連隊長に視線を向けて答えた。
「修司殿曰く、あれはパラシュートと言って、
空をゆっくりと降りるための道具だそうです。
ルイス少尉は、今、そのパラシュートを装着して、
空をゆっくりと降りている際中であります。」
ダグ騎兵連隊長は僕に視線を向け、驚きの表情のまま、僕に問うた。
「修司殿、、、
そのパラシュートとやらは、、、
修司殿が持ってきた土産の一部か?」
僕は苦笑いを浮かべ、顔を横に振り、答えた。
「いえ、父・晋一からの土産です。
ロードバイクと同様に、父・晋一からの土産で、
扱いに困っていたものの一つです。」
(第43話)
ダグ騎兵連隊長は驚き、戸惑った。
「なに!? 晋一殿からの土産だと!?」
僕は黙ってうなずいた。
ダグ騎兵連隊長は再び上空を見上げ、降下中のルイス少尉を目で追った。
そして思わず口に出した。
「晋一殿がクラリスに、、、
『空を飛ぶ方法はある』
って言ったのは、、、
こういうことだったのか!?」
すると、後から大きな声が聞こえた。
「私がなんだって!?」
振返ると、レオ近衛師団長、クラリス参謀総長、ウオーレン魔法兵連隊長、ヒラリー後方支援連隊長が立っていた。
そして、レオ近衛師団長とウオーレン魔法兵連隊長は、『あきれた表情』でダグ騎兵連隊長を見つめていた。
加えて、何より、、、
クラリス参謀総長とヒラリー後方支援連隊長は、『怒りの表情』でダグ騎兵連隊長を見つめていた。
ダグ騎兵連隊長は慌てた表情を浮かべ、レオ近衛師団長とクラリス参謀総長に問うた。
「近衛師団長閣下、参謀総長閣下、、、
いつ、どうやって、練兵場に来られたのですか?」
クラリス参謀総長は怒りの表情のまま、静かに答えた。
「今朝、急行便の馬車で王城を発し、
昼過ぎ、つまりたった今、練兵場に着いたわ。。。」
ダグ騎兵連隊長は慌てた表情のまま、「はい」と答えた。
クラリス参謀総長は怒りの表情のまま、話を続けた。
「ダグ、、、あなた、、、
私が明日、近衛師団騎兵連隊第二大隊の訓練を視察することを口実に、
夜、副官が不在の時、王城を抜け出したそうね。。。」
ダグ騎兵連隊長の顔が青くなり、表情が凍った。
クラリス参謀総長はダグ騎兵連隊長を罵った。
「あなたが仕事をさぼる口実に、私を使うな!」
ヒラリー後方支援連隊長も怒りの表情で、ダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「それだけじゃないわ。。。
ダグ、、、あなた、、、
晋一殿の土産扱いに困っていた、
オフロードバイクの教習をドーラ分隊に行わなければならないから、
あなたの副官に王城に帰れないって伝えたそうね。。。」
(第46話)
ダグ騎兵連隊長は「はい」と答えた。
ヒラリー後方支援連隊長は、怒りの表情のまま、ダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「近衛師団長閣下から、聞かれてしまったわよ。。。
『誰が、晋一殿の土産で扱いに困っているものについて、
操作方法や適用方法の再調査をドーラ分隊に依頼したのか?』
(第43話)
って。。。
危うく、私があなたが王城から抜け出して、
仕事からサボった共犯にされるところだったわよ。。。」
ダグ騎兵連隊長は、再び顔が青くなり、表情が凍った。
ヒラリー後方支援連隊長はダグ騎兵連隊長を罵った。
「私まで巻き込まないでくれる!」
ウオーレン魔法兵連隊長は、困った表情でダグ騎兵連隊長に語り掛けた。
「ダグ、、、
急行便の馬車の中、、、
俺と近衛師団長閣下は、
ずっと、参謀総長閣下とヒラリーを宥めていたんだぞ。。。
もう勘弁してくれ。。。」
ダグ騎兵連隊長は「すまん」とつぶやいた。
レオ近衛師団長はあきれた表情でダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「ダグ、、、今日は君の上官としてここにきた。。。
反省してくれ。。。」
レオ近衛師団長は続けてダグ騎兵連隊長に話しかけた。
「君の副官もここ、練兵場に連れてきた。
彼は大変困って、今朝、私に泣きついてきた。
事情を知った、クラリスとヒラリーが、それで怒ったというわけだ。」
レオ近衛師団長はこう言って締めた。
「ダグ、練兵場の官舎で溜まった書類を処理したまえ。
これは上官としての命令だ。」
このやりとりを傍で見ていたダグ騎兵連隊長の娘であるエイミー少尉は、あきれた表情で、ため息をついて、片手で頭を押えていた。
そして、こうつぶやいた。
「まただ。。。」
後にエイミー少尉から教えてもらったんだけど、彼女はこうぼやいていた。
「父さん(=ダグ騎兵連隊長)、
ときどき、書類作業を副官に押し付けて、王城の外に抜け出すの。。。
そのたびに、近衛師団長閣下や参謀総長閣下から怒られるの。。。
もう、何度、近衛師団長閣下や参謀総長閣下から叱られたのか、
わからない。。。
でも、懲りないのよね~。。。
(ため息)は~。。。」
(あきれた笑い)ははは。。。
ダグ騎兵連隊長は、ごまかしたかったのか、その場の雰囲気を和ませたかったのか、雰囲気を変えたかったのかは分からない。
でも、ダグ騎兵連隊長は引きつった笑顔を浮かべ、レオ近衛師団長、クラリス参謀総長、ウオーレン魔法兵連隊長、ヒラリー後方支援連隊長に語り掛けた。
「近衛師団長閣下、わかりました。。。
もちろん、、、溜まった書類は処理します。。。
でも、、、あれを見てもらえますか?
ルイス少尉が、現在、パラシュート降下訓練中であります。」
そう言うと、上空でパラシュート降下訓練中のルイス少尉を指さした。
レオ近衛師団長、クラリス参謀総長、ウオーレン魔法兵連隊長、ヒラリー後方支援連隊長は、ダグ騎兵連隊長が指さした方向に、パラシュートでゆっくりと降下しているルイス少尉の姿を見つけると、一様に驚いた。
レオ近衛師団長はつぶやいた。
「なんだ! あれは?」
クラリス参謀総長もつぶやいた。
「うそ! ルイスが空を飛んでいる!」
ウオーレン魔法兵連隊長もつぶやいた。
「まじか!」
ヒラリー後方支援連隊長もつぶやいた。
「こういう方法があったなんて。。。」
ダグ騎兵連隊長はクラリス参謀総長に近づき、告げた。
「参謀総長閣下、今、ルイス少尉は『パラシュート』なるものを使って、
空をゆっくり降りています。
そして、その『パラシュート』は、、、
30年前の晋一殿の土産であります。。。」
レオ近衛師団長、クラリス参謀総長、ウオーレン魔法兵連隊長、ヒラリー後方支援連隊長の4人は、ダグ騎兵連隊長に顔を向け、再び、一様に驚いた。
特に、クラリス参謀総長は「え!」とつぶやき、ダグ騎兵連隊長を凝視した。
ダグ騎兵連隊長はクラリス参謀総長の驚きをスルーして、さらに続けた。
「参謀総長閣下、、、
30年前、晋一殿が参謀総長閣下に、
『空を飛ぶ方法はある』
と言っておりましたが、、、
あれは、このことだったのです。」
クラリス参謀総長は唖然として、空を見上げ、パラシュートで降下中のルイス少尉の姿を追った。
僕は戸惑いながら、クラリス参謀総長に問うた。
「もしかして、、、
クラリス参謀総長も、、、
ルイスさんのような飛行魔法を授かっているのですか?」
上空を見上げていたクラリス参謀総長は、僕に顔を向けると、黙ってうなずいた。
ヒラリー後方支援連隊長も上空を見上げていたが、僕に顔を向け、苦笑いを浮かべ、話しかけた。
「修司殿、、、
この世界の魔法はね。。。
父親か母親の魔法を遺伝で授かることが多いの。。。
実際、私の透視魔法(第33話)も、父からの遺伝で授かったし。。。」
クラリス参謀総長は、再び上空を見上げ、降下中のルイス少尉を目で追いながら、口を開いた。
「私の母、つまりルイスの祖母も、飛行魔法を授かっていたわ。。。
いえ、先祖代々、我が家は女性はずっと同じ飛行魔法を授かるの。。。
でも、制御が難しくってね。。。
先祖代々、『使えない魔法』として、封印してたの。。。」
クラリス参謀総長は、上空のルイス少尉の姿を目で追いながら、苦笑いを浮かべ、話を続けた。
「私も若いころは、ルイスのように、空を飛びたかった。
でも、何度練習してもダメで、母、つまりルイスの祖母から、
『あきらめろ』
と言われて、あきらめていたの。。。
だから、晋一殿から
『方法はある』
と言われても、本気にしなかったの。。。」
僕は「そうだったんですか。。。」と答えた。
すると、クラリス参謀総長は僕に顔を向けると、苦笑いを浮かべたまま、うなずいた。
そんなときだった。
ハンディタイプの無線通信機のスピーカーを通じて、ルイス少尉の無邪気な声が流れた。
「ひゃっほ~い♪
コントールラインも習得して、
パラシュート操作を完璧にしてやるわよ~♪
そして、私の魔法を禁じた、
あの『腹黒狸』に一泡吹かせてやるわよ~♪」
ルイス少尉によると、ルイス少尉の飛行魔法を禁じたのは、母親であるクラリス参謀総長だ。(第49話)
だから、『腹黒狸』が誰を指しているのかは明白だった。
僕は慌ててハンディタイプの無線通信機のスピーカーを手で覆った。
でもすでに、、、
僕の周囲にいた、レオ近衛師団長、クラリス参謀総長、ダグ騎兵連隊長、ウオーレン魔法兵連隊長、ヒラリー後方支援連隊長は聞いてしまっていた。。。
(ごまかし笑い)ははは。。。
ヒラリー後方支援連隊長は「ぷ!」と吹き出し、表情を下に向けた。
レオ近衛師団長、ダグ騎兵連隊長、ウオーレン魔法兵連隊長は真っ青な顔で、かつ凍り付いたような表情で、クラリス参謀総長を見つめた。
クラリス参謀総長は怒りで顔が真っ赤となった。
クラリス参謀総長は僕からハンディタイプの無線通信機を奪い取ると、無線通信機に向けて罵った。
「ルイス!
誰が『腹黒狸』よ!?
誰が!?」
すると、クラリス参謀総長が僕から奪い取ったハンディタイプの無線通信機を通じて、ルイス少尉の無邪気な声が流れた。
「あれ?
参謀総長閣下がそこにおられるのですか~?
ど~ですか~、参謀総長?
私、空を飛んでま~す♪」
慌てて、ドーラが、彼女に配布されていたハンディタイプの無線通信機に向けて罵った。
「ルイス!
バカ者!
煽るんじゃない!」
そんなときだった、「巨大生物だ!」との叫び声が鳴り響いた。
(次話に続く)
次話は2026/3/30 0時に更新予定です。




