第51話 練兵場にて(その7) -ルイス少尉の執念(後半)-
翌朝、ローレンス曹長も加わり、ルイス少尉の降下訓練を再開した。
第50話で述べたが、ローレンス曹長の風の魔法を用いて、降下中のルイス少尉に下から風を吹かせ、ルイス少尉の降下速度の抑制を試みた。
ルイス少尉の降下速度を抑制して、安全に訓練できる高度を少しでも増やすためだ。
しかし、、、いきなり強い風を降下中のルイス少尉に吹かせたわけではなかった。
と言うのも、降下中のルイス少尉が風に煽られ、姿勢を乱すわけにはいかなかったからだ。
よって、最初はそよ風程度の弱い風を、降下中のルイス少尉に下から吹かせた。
高度も昨日と同じ20mから始め(第50話)、慎重に高度を上げ、風の強度も少しずつ高めていった。
何とかマットに降下する時間が3~4秒まで増やせるほどの高度になった。
ローレンス曹長は慎重に風を操り、ルイス少尉が姿勢を乱さないギリギリの強度で下から風を吹かせた。
え? たった3~4秒だって?
実際のところ、ローレンス曹長が風の操作を誤って、ルイス少尉が風に煽られ、姿勢を乱し、キリモミ状態になって、マットに落下したことが何度かあったんだ。
高度は20mを越えていたので、救助マットがあっても無事とはいかず、ルイス少尉は大変痛がった。
ケイシー上等兵が急いでヒールとポーションによる治療を行った。
ケイシー上等兵によると、「あばら骨が数本折れてます!」と叫んだこともあった。
ま、すぐにポーションで治癒したみたいだけど。。。
そんなときはドーラがルイス少尉に駆け寄り、ルイス少尉を病院に連れて行こうとした。
だが、ルイス少尉は首を横に振り、「大丈夫だから!」と言って、拒否した。
そして、ルイス少尉は訓練を続けた。
でも、結局のところ、ローレンス曹長の風の魔法も、そよ風から少し強い風を送ることしかできず、それ以上は風を強くすることはできなかった。
それ以上になると、ルイス少尉の姿勢が乱れ、キリモミ状態になり、マットに叩きつけられた。
ローレンス曹長の風の魔法があっても、救助マットに安全に降下できる高度は20mから、せいぜい40m強くらいに伸ばせただけだった。
一方、パラシュートが安全に降下できる高度は、パラシュートの仕様書によれば100m以上だ。
はるかに足らなかった。
それでもルイス少尉の強い意志により、、、なんとかパラシュートを開くためのリップコードを引くまでの訓練を行った。
これ以上は実際に100m以上まで、ルイス少尉自身の魔法で上昇した後、パラシュートを開くしか方法はなかった。
実は、ルイス少尉は夜、練兵場の官舎の部屋で、着地の際の衝撃を和らげるため、足裏、スネ、太もも、お尻、そして背中という順序で体を地面に接地する、5点接地転回着地も訓練していたらしい。
また、パラシュートの畳み方も訓練したらしい。
『らしい』と言ったのは、夜はクラレンス君と一緒に、僕は近くの恒星のスペクトル解析を行っていたので、直接は見ていないからだ。
要するに、あとは実際のパラシュート降下訓練を行うより、方法がなかった。
さて、ルイス少尉は実際に100m以上の高度まで上昇し、パラシュートを開くことになったのだが、、、
そもそもパラシュートは父・普一の土産だ。
つまり、30年前のパラシュートだ。
だから、パラシュートを地上で開き、どこか傷んでいないか、畳み方が間違っていないか念入りに確認した。
しかし、僕を含め分隊メンバには、パラシュートの知識と経験がない。
だから、30年前のパラシュートで問題ないのか、畳み方に問題がないのか、確信は得られなかった。
つまり、パラシュートの安全性に確信が得られなかった。
隊員の命を預かるドーラは実際に100m以上の高度から、パラシュートを開く訓練を躊躇した。
ドーラはルイス少尉に戸惑いの表情を浮かべて、話しかけた。
「ルイス、、、
実際に100m以上にまで上昇し、パラシュートを開くのは、来週以降にせぬか?
軍内部でパラシュートを詳細に調査してもらって、安全を確認するから。」
だが、ルイス少尉は頑なだった。
「何度も確認しましたから大丈夫です。
それに軍内部にパラシュートに詳しいものはいません。
結局、誰も安全だとは確認できないと思います。
たぶん、ずーと、ずるずると引き延ばされてしまうだけです。
だったら、今飛びたいのです。」
ま、それもそうだろう。
ドーラはため息をつき、フレッド副長と僕を呼び、相談した。
ドーラとフレッド副長と僕と相談し、一気に300m以上の高さから、パラシュート降下訓練を行うことにした。
と言うのも、パラシュートの仕様書によれば、
『少なくとも高度100m以上、
通常は高度300m以上じゃないと効果はない』
とのことだ。
(第50話)
だったら、一気に300m以上の高さから、パラシュート降下訓練を行った方が安全だとの結論だった。
ルイス少尉はヘルメット、少しでも衝撃を和らげるための防刃チョッキ、ゴーグルを装着し、パラシュートを背負った。
ヘルメット下には無線通信機のインカムも装着した。
そして、ルイス少尉は練兵場の一番開けた平地に立った。
そして僕を含め、分隊メンバはルイス少尉から10mほど離れて立っていた。
ルイス少尉は顔を空に向け、目を閉じ、深呼吸をした。
ルイス少尉は目を開けて、顔を正面に向け、ドーラに告げた。
「それでは行ってきます。」
僕はルイス少尉に声をかけた。
「最高地点に達して落ち始めたら、なるべく早く、数秒以内に、
パラシュートを開くためのリップコードを引いてください。」
ルイス少尉は僕に顔を向けると、黙ってうなずいた。
そして、ルイス少尉は顔を下に向け、右手を下に向けて、左手は左手首を持ち、右掌を地面と水平にした。
ついで、ルイス少尉は顔を正面に向け、ドーラを見た。
ドーラは黙ってうなずいた。
ルイス少尉はドーラがうなずくのを見ると、再び顔を下に向けた。
その瞬間、ものすごい速度で彼女自身が空高く舞い上がった。
そう、ルイス少尉は彼女の魔法、まるでロケットエンジンか、ジェットエンジンの魔法を発動したのだ。
ルイス少尉の上昇速度は最初はものすごい速度であったが、徐々に落ちて行った。
そして上昇速度がゼロとなる、最高地点に達した。
最高地点に達した後、ルイス少尉は落ち始めた。
僕は自分がもっていた無線通信機に「リップコードを引いて!」と言おうとした。
でも、言おうとしたその瞬間、ルイス少尉のパラシュートから、小さなパイロットシュートが放出されたのを確認した。
そう、ルイス少尉はリップコードを引いたのだ。
その放出された小さなパイロットシュートはすぐに開き、膨らんだ。
膨らんだ小さなパイロットシュートが主パラシュートを引き出した。
そして主パラシュートが開き、膨らんだ。
主パラシュートが膨らんだことで、ルイス少尉の落下速度がグッと抑えられた。
やがて、ルイス少尉はゆっくりと地面に降りた。
ルイス少尉が地面に降りた瞬間、僕を含む分隊メンバは全員、ルイス少尉の落下地点に駆け寄った。
ケイシー上等兵はポーションの瓶を握って駆け寄った。
もちろん、必要なら緊急治療を行うためだ。
ドーラは、落下地点で5点接地転回着地で寝そべっていたルイス少尉に、心配そうに話しかけた。
「ルイス、、、大丈夫か?」
すると、ルイス少尉は立ち上がり、黙ってうなずいた。
ドーラは思わずルイス少尉を抱きしめ、涙を流しながら叫んだ。
「ルイス! よくやった!」
ルイス少尉も涙ぐみながら、抱きしめたドーラに語り掛けた。
「はい、、、やっと空を飛べました。。。」
エイミー少尉も涙を流し、ドーラに抱きしめられているルイス少尉の肩を叩き、語り掛けた。
「ルイス! おめでとう!
長い間、頑張ってきたもんね。。。」
後から聞いたんだけど、エイミー少尉とルイス少尉は幼馴染だったんだって。。。
ほら!
エイミー少尉はダグ騎兵連隊長の長女で、ルイス少尉はクラリス参謀総長の長女だ。
(第30話)
一方、ダグ騎兵連隊長とクラリス参謀総長は、30年前、僕の母・エリーゼが率いる分隊メンバで同僚だった。
(第15話)
どうも母・エリーゼが父・普一と共に日本に渡った後も、ダグ騎兵連隊長とクラリス参謀総長は、ウオーレン魔法兵連隊長もヒラリー後方支援連隊長も含めて、プライベートでも親しく交流していたらしんだ。。。
で、ダグ騎兵連隊長とクラリス参謀総長の二人の娘も、つまりエイミー少尉とルイス少尉は、親が交流しているから、小さいころから自然と交流していたらしいんだ。。。
ただ、ドーラによると、エイミー少尉とルイス少尉は単なる幼馴染ってだけでなく、ライバルでもあるらしい。。。
どうも、士官学校では、常に成績トップを競っていたらしいんだ。。。
話を戻すと、エイミー少尉とルイス少尉は幼馴染だったので、小さいころからルイス少尉がずっと飛行魔法に取り組んでいたことを、エイミー少尉は知っていたんだ。
だから、エイミー少尉は、ルイス少尉のパラシュート降下訓練成功を、涙ながらに心から祝福したってわけ。
ルイス少尉は感極まったのだろう。
両目から大粒の涙を流し、エイミー少尉に向かって、「うん。。。」とうなずいた。
他のメンバも涙ぐみながら、微笑み、ルイス少尉に拍手を送った。
あ、僕もウルっと来たかな。。。
ルイス少尉のパラシュート降下訓練の興奮が冷めると、ルイス少尉はパラシュートを畳み、「また飛ぶ!」と叫んだ。
よっぽとうれしかったのだろう。
ドーラは慌ててルイス少尉を窘めた。
「ルイス、パラシュートはちゃんと正しく畳め。
慌てるな。」
ルイス少尉は鬱陶しそうに返した。
「分っております!」
ま、仕様書を読むと、予備パラシュートもあり、安全装置はあるようだけど。。。
1時間くらいでパラシュートを畳むと、再び、ルイス少尉は自らの魔法で飛び立った。
でも、今回はとても高く飛んだ。
前回の数倍くらいの高度だった、たぶん1000mを軽く越えていたと思う。
いや、もしかしたら、数千mだったかもしれない。
ドーラは慌てて、彼女自身に配布された無線通信機に通じて、ルイス少尉に叫んだ。
「バカ者! いきなり高く飛び過ぎだ!」
ルイス少尉は無線通信機を通じてドーラに返事した。
「分隊長(=ドーラ)、大丈夫です。
もっと高く飛ばせてください。」
ドーラは困った表情で無線通信機を通じて、ルイス少尉に話した。
「そうは言っても、上空の風で流されておるではないか?
このままでは練兵場の外に降下するぞ!」
ルイス少尉は能天気に返した。
「あ! いけね!」
僕は苦笑いを浮かべて、自分用の無線通信機を通じて、ルイス少尉に話しかけた。
「ルイスさん、左右のコントロールラインを引っ張ってください。
そうすると、パラシュートの向きを変えたり、前に進んだりします。」
ルイス少尉はやっぱり能天気に返した。
「どれどれ、、、あー本当だ。
コントロールラインの練習しま~す。
これで何とか練兵場内に降下できるか、やってみま~す。。。」
まだルイス少尉はパラシュートの操作に慣れていない。
たぶん、僕達がいるところからは、だいぶ離れた地点に降下するだろう。
僕は苦笑いを浮かべて、ドーラに話しかけた。
「ドーラさん、多分、ルイスさんは僕達からはかなり離れた地点に降下します。
ルイスさんを収容しに行った方が良いと思います。」
ドーラはため息をついて騎乗した。
ルイス少尉が降下した場所まで馬で移動し、ルイス少尉を収容するためだ。
そんなときだった、後ろから「何をやっているんだ?」との声が聞こえた。
振り返ると、ダグ騎兵連隊長があきれた表情で立っていた。
(次話に続く)
次話は2026/3/29 0時に更新予定です。




