第46話 練兵場にて(その2) ー娘、父から手ほどきを受けるー
(前話からの続き)
僕は恐る恐る倉庫に入り、土産を見渡した。
そしてある物が目に飛び込んできた。
おもわず「ははは!」と笑ってしまった。
そうか!
父・晋一の土産を30年前に考えたのは、祖父・賢治や祖母・マーガレットだろう。
祖父・賢治と祖母・マーガレットがこれを土産として思いつかない筈がなかった!
僕はなおも「ははは!」と笑いながら、ドーラに振り返り、語り掛けた。
「ドーラさん、これで車で天文台まで行けます!」
ドーラは戸惑い、僕に問うた。
「修司殿、天文台に行けるとはどういうことか?」
僕は微笑み、一つの物体を指さした。
「これです。これを使うんです。」
ドーラはますます戸惑い、問うた。
「それはなんだ?」
僕が答えようとしたが、一瞬早く、ダグ騎兵連隊長が答えた。
「それはオフロードバイクだ。」
ドーラは戸惑いつつ、ダグ騎兵連隊長に問うた。
「ダグ・ハミルトン騎兵連隊長閣下、
オフロードバイクとは何でありましょうか?」
ダグ騎兵連隊長が答えようとしたが、一瞬早く、僕が答えた。
「スクーターと同じ種類の乗り物ですが、
スクーターと違って、非整地の走破性に優れています。」
ダグ騎兵連隊長はうなずきつつ、僕に問うた。
「ところで、『天文台に行ける』とは、どういうことだ?」
僕は苦笑いを浮かべて答えた。
「実は僕とドーラさんの分隊は自動車に分乗して、
首都レワヅワから練兵場の約50kmを2時間半で移動しました。」
ダグ騎兵連隊長は驚いた。
「え? たったの2時間半?
俺は昨夜遅く、騎乗して王城を出発して、今朝練兵場に着いたぜ。。。」
すると、娘のエイミー少尉がしかめっ面でつぶやいた。
「あ!
また、副官の不在を狙って、
夜、副官が帰った後に王城から抜け出してきたな。。。」
エイミー少尉のつぶやきが聞こえたのか、ダグ騎兵連隊長は再び引きつった笑顔を見せた。
でも、僕はそれをスルーして、話を続けた。
「でも、住民との無用な交通事故は防ぐ必要があったので、
馬の代わりにスクーター一台で一行を警護したのですが、、、
2時間半、スクーターを運転したケイシーさんの精神的な疲労が強く、、、
(第44話)
どうしたものかと思案していたところだったんです。。。」
僕は一つため息をつき、話を続けた。
「しかも、首都レワヅワから天文台までは約200km、、、
首都レワヅワから練兵場までの距離の約4倍です。。。
とてもスクーター一台では無理です。。。」
ダグ騎兵連隊長は黙ってうなずいた。
僕は苦笑いを浮かべ、話を続けた。
「なので、、、
少なくとももう一台、自動車に随伴可能な速度で、
かつ長距離移動が可能で、しかも小回りが利く、
乗り物が欲しかったんです。。。」
僕は両手を広げ、話を続けた。
「そんな乗り物で、不整地走行が可能なものであると、なお良いのですが。。。」
僕は再びオフロードバイクを指さした。
「それにはオフロードバイクが最適なんですが、
僕の土産には含まれてなくって、、、
『しまった』
と思っていたんですよ。。。(第44話)
それが父、晋一の土産の中にあって、思わず笑っちゃいました。。。」
ケイシー上等兵が戸惑いながら口を開いた。
「修司殿、配慮ありがとうございます。
でも、常時2台の警護がないと難しいと、
今回、レワヅワから練兵場まで来て実感しました。
特に市街地で人がいるところだと、
一行の車列が住民と無用の事故を起こさないようにと、
本当に気を使いました。
レワヅワから練兵場までの約50kmでも、2台の警護が必要です。」
ケイシー上等兵は話を続けた。
「しかし、レワヅワから天文台まで約200kmあるとなると、、、
このオフロードバイクがあったとしても、
私のスクーターと計2台だけで、レワヅワから天文台まで200kmまでは、
たとえ途中で休憩をはさんだとしても、警護は無理です。。。」
僕は倉庫の天井を見上げた。
「そうか、、、あと数台、いるか。。。」
そう、首都レワヅワから練兵場までの約50kmの道のりを2時間半で移動した。
首都レワヅワから天文台までは約200kmの道のりなので、約10時間の移動となる。
その間、警護にあたるケイシー上等兵と、このオフロードバイクのライダーは、延べ10時間、緊張を強いることになる。
警護を交代しながら移動するとなると、、、
もちろん、スクーターとオフロードバイクを共有して乗り回す方法もあるが、、、
でもメンバ固有にした方が使いやすいだろう。。。
あと数台欲しいところだ。。。
ダグ騎兵連隊長はニヤリと笑い、僕に問うた。
「修司殿、もう少し、オフロードバイクが欲しいか?」
僕は戸惑いながらうなずいた。
「ええ、、、あと2台あると、交代しながら移動できますね。。。」
ダグ騎兵連隊長はニヤリと笑ったまま、僕に語った。
「あるぜ。
俺についてきな。」
そう言うと、倉庫の外に出た。
ダグ騎兵連隊長は、隣の倉庫を開け、倉庫の中に入った。
僕は戸惑いながら倉庫の中に入った。
その倉庫の中に5台のオフロードバイクが置いてあった。
ダグ騎兵連隊長は微笑み、その5台のオフロードバイクを指さし、僕に語った。
「この中から好きなものを2台持って行きな。」
娘のエイミー少尉は戸惑いながら、父親であるダグ騎兵連隊長に問うた。
「父さん、、、いえ、騎兵連隊長閣下、、、
なぜ5台もオフロードバイクがあるのですか?
いーえ、、、そもそも、、、
どうしてオフロードバイクをご存じなのですか?」
ダグ騎兵連隊長は苦笑いを浮かべて答えた。
「30年前、晋一殿の土産の中で、オフロードバイクが一番気に入ってな~。。。
練兵場でよく乗り回していたんだ。。。」
ダグ騎兵連隊長の話は続く。
「ずっ~と、
オフロードバイクを軍の装備として取り入れてくれと上申していたが、
なかなか採用してくれなかった。
で、俺は5年前に連隊長になって、再度上申したら、
フランクリン軍事大臣が根負けして、
毎年1台だけ生産することになったんだ。。。」
ははは。。。
僕の土産にオフロードバイクがなかった理由はこれか。。。
きっと、父さん(=晋一)か、母さん(=エリーゼ)が、ダグ騎兵連隊長の性格を熟知していて、ダグ騎兵連隊長なら上層部に掛け合ってオフロードバイクを作らせると読んだな。。。
だから、僕の土産にオフロードバイクは不要と判断したんだ。。。
ダグ騎兵連隊長は苦笑いを浮かべたまま、両手を広げ、話を続けた。
「で、、、恥ずかしい話なんだが、、、
作ってもらったのはいいが、肝心の適用方法が思いつかず、、、
困っていたところだ。。。」
娘のエイミー少尉があきれて突っ込んだ。
「騎兵連隊長閣下!
具体的な適用方法も考えずに、
ずっと、オフロードバイクを装備に取り入れろと上申し続けたのですか!?」
ダグ騎兵連隊長は引きつった笑顔を浮かべ、「まあそういうところだ」と答えた。
ダグ騎兵連隊長は僕に笑顔を向けて語りかけた。
「でも、ようやく、使い道ができた。
先程のオフロードバイク1台と、
ここの2台、合わせて3台をドーラ分隊に配備する。
使ってみてくれ。」
僕はドーラを見た。
ドーラは僕に向かって黙ってうなずくと、ダグ騎兵連隊長に頭を下げた。
「ダグ・ハミルトン騎兵連隊長閣下、ご配慮ありがとうございます。
我が分隊はオフロードバイク3台を拝受します。」
ダグ騎兵連隊長は「いいってことよ」とドーラに語り掛けた。
そして、ニヤリと笑い、僕に問うた。
「で、、、修司殿。。。
オフロードバイクの運転教習はどうする?
スクーターより操作は難しいぜ。。。
加えて、軍では俺以外、オフロードバイクに乗れる奴はいないぜ。。。」
娘のエイミー少尉は舌打ちしてぼやいた。
「ち!
また書類作業をさぼる口実を見つけやがった。。。」
僕はため息をつくと、ドーラに顔を向けた。
ドーラもため息をつき、ダグ騎兵連隊長に頭を下げた。
「ダグ・ハミルトン騎兵連隊長閣下、
我が分隊にオフロードバイクの運転教習をお願いします。」
ダグ騎兵連隊長は上機嫌で「よかろう」と返した。
そしてドーラに語り掛けた。
「で、、、誰に教えればよい?」
すると、ドーラは傍らにいた分隊メンバーを見渡し、分隊メンバーに指示を出した。
「エイミー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵、
オフロードバイクの運転教習を受けよ。」
エイミー少尉は驚き、「えー!」と答えた。
だが、ドーラは構わず、エイミー少尉に叫んだ。
「エイミー少尉、復唱せよ!」
エイミー少尉は直立し復唱した。
「は!
エイミー・ハミルトンは、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵と共に、
オフロードバイクの運転教習を受講します!」
ドーラは「よし!」と答えた。
ダグ騎兵連隊長は上機嫌でエイミー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵に語り掛けた。
「よし! 早速、オフロードバイクの運転教習を始めよう。
エイミー少尉、ローレンス曹長、ベリンダ上等兵、俺について来い。」
そういうと、ダグ騎兵連隊長はどこかに歩き出した。
ローレンス曹長、ベリンダ上等兵は後ろについて歩き出した。
エイミー少尉だけは「はー、やれやれ、、、」とつぶやき、ため息をつき、肩を落として、トボトボとダグ騎兵連隊長の後ろを歩いていった。
突然、ダグ騎兵連隊長は振り返ると、大声でドーラに語り掛けた。
「あ! ドーラ中尉!
俺はオフロードバイクの運転教習でしばらく王城には帰れねー!
副官にそう伝えておいてくれるか!」
ドーラは頭を下げ、大声で返した。
「かしこまりました!」
ドーラは頭を上げると、フレッド副長に話しかけた。
「フレッド頼む。」
フレッド副長は「は!」と答えると、どこかに歩いて行った。
僕はエイミー少尉がトボトボと歩く姿を見ながら、ドーラに小声で語りかけた。
「ドーラさん、エイミーさんに命じてよかったんですか?
なんだか、エイミーさん、
父親(=ダグ騎兵連隊長)を嫌っているようでしたが。。。」
すると、ドーラは微笑み、小声で返した。
「エイミーは決して、騎兵連隊長閣下を嫌ってはおらぬ。
むしろ、尊敬しておる。」
僕は思わず、「へ?」と答えた。
ドーラは微笑み、更に小声で答えた。
「エイミーは、単に書類作業から逃げる騎兵連隊長閣下にあきれているだけだ。
反発しているだけだ。
それ以外の部分は尊敬しているのさ。」
僕は戸惑いながら、「そうなんですか?」と小声で答えた。
ドーラは微笑み、エイミー少尉の後姿を見ながら、なおも小声で僕に話しかけた。
「そもそも、エイミーは父親(=ダグ騎兵連隊長)の後を追って、
軍人になり、士官学校を出て、
父親(=ダグ騎兵連隊長)と同じ騎兵になったのだぞ?
本当は『父親(=ダグ騎兵連隊長)を尊敬している』のさ。」
ま、それもそうか。。。
ドーラは小声で話を続けた。
「エイミーは多分、父親(=ダグ騎兵連隊長)の唯一の欠点、
『書類作業からのサボり癖さえ改めてもらえれば、
完璧な父親になるのに』
と思っているのさ。。。」
(次話に続く)
次話は2026/3/24 0時に更新予定です。




