第43話 練兵場へ(その1) ー遠慮せよ!ー
オウゴウヌ王国での留学生活が本格スタートした。
提供した計測機器やパソコンの操作に慣れ、較正も終わり、ヒラリー後方支援連隊長とルーク教授の医学分野、パスカル教授の農学分野は今のところ、順調のようだ。
じゃあ、僕の方は、と言うと、、、うまくいっていない。。。
ま、重力定数Gの計測は、較正も終わり、計測を開始しているんだけど、、、
残りの、太陽や近くの恒星のスペクトル解析とか、球状星団の観測はそうもいかない。。。
王立オウゴウヌ大学のキャンパス内には天文台はない。
実は、日本から個人的に望遠鏡を持ち込んでいてね。。。
ま、ホビー用で大した口径の望遠鏡じゃないんだけど、それでも太陽や極めて近い恒星ならスペクトル解析できる。
そこでキャンパス内で望遠鏡にスペクトル解析機器を繋げて、太陽の観測していたら、職員から知らせを受けたカドワダドル教授が飛んできて、えらい叱られた。
「この前話した通り、異世界の知識や技術について、
学生や教職員でも否定的な人がいます!
(第42話)
刺激しないでください!」
ま、それもそうね。。。
これは僕が配慮が足らなかった。。。
当然、僕はカドワダドル教授に「すみませんでした!」と平謝りした。
でも、ドーラも一緒に謝ってね。
これは申し訳なかったな。。。
実は王立オウゴウヌ大学のキャンパスに天文台がないのもこれが理由らしい。
翌日、バチャール学長にも呼び出され、しっかり小言をもらってしまった。
「本学は約500年の歴史があり、
約300年前にはキャンパス内にも天文台があったそうです。
約200年前、大陸諸国との戦争があったころ、
教皇から我が国は異端として破門になりました。
(第27話)
そのとき、一部の狂信的な信徒から、
本学の理数系学部は焼き討ちにあった歴史があるのです。
特に、キャンパス内の天文台は徹底的に破壊されてしまいました。
それ以来、天文台はキャンパスには設置しないことになりました。
ここは日本とは違うのです。
異世界の学問や技術への、
あからさまな研究活動は一部信徒を刺激します。
絶対にしないでください。」
つまり、天体観測は天文台に行かないとダメなんだ。。。
と言って、天文台に行く2ヶ月に1度の観測では、待ちきれない。
そもそも、このオウゴウヌ王国に滞在できるのは、たった1年しかない。。。
その日の夕方、王城内の官舎に戻ると、隣のドーラの部屋を訪ねた。
あ、基本的にはドーラの分隊は僕が大学に通う朝から夕方までは当番勤務、夕方以降は官舎で待機任務となる。
ということで、僕が大学にいるのは、基本は朝から夕方までだ。
でも、研究をやっていると、時に深夜まで研究室に籠ることもあるし、何より天体観測となると基本は夜だ。
実は、オウゴウヌ王国には電波望遠鏡はない。
話を戻すと、僕が夜間に研究活動している時は別の分隊が僕を警護するか、ドーラの分隊のシフトを変更する予定だ。
さて、僕がドーラの部屋のドアをノックすると、ドーラがドアを開けた。
そして、無言で入室を促した。
彼女の部屋も小さな机と椅子、そして小さなベットがあった。
彼女は僕に椅子に座るように促すと、彼女はベットに座った。
僕はドーラに語り掛けた。
「オウゴウヌ大学で天体観測ができない件なんだけど、
天文台には2ヶ月に1度しか行けない。
でも、僕は1年しかこの国に滞在できないから、
とてもそれだけじゃ足りないんだ。
この首都レワヅワの近郊で、安全が確保されていて、
しかも住民を刺激せず、天体観測できる場所って無いだろうか?」
ドーラは腕を組み、天井を見上げて、答えた。
「うーん、、、王城の庭ならどうだろう?
あそこなら、王室のプライベート区域で、
安全だし、住民も刺激しないぞ。
一度、あそこで太陽観測していたそうじゃないか?」
(第31話)
僕は苦笑いを浮かべ、顔を何度も横に振って、答えた。
「うーん、、、それ考えたんだけど、、、
2つほど問題があるんだ。。。」
ドーラは戸惑い問うた。
「2つの問題って?」
僕は右人差し指を立て、答えた。
「まず、1つ目の問題は、王城はライトアップされていて、
太陽はともかく、星を観察するには少し明るすぎる。」
そう、王城には電気が通っていて、結構明るく照らし出されている。
王城のライトアップは、王室の権威を民衆に見せつけることである。
同時に首都レワヅワの夜景に一役買っているらしく、王城のライトアップは観光スポットなんだそうだ。。。
話を戻すと、ライトアップのため、王城内は夜中に歩いても安心なんだが、逆に天体観測には向かない。
でも、これはそれほど大きな問題じゃない。
僕はさらに右中指を立て、つまり指を2本立て、答えた。
「でも、最大の問題は、僕の研究を手伝ってくれる、
クラレンス君の王城内への立ち入りを認めなくちゃいけない。。。」
ああ、クラレンス君と言うのは、カドワダドル教授の研究室の4年生の男子学生で、フルネームはクラレンス・キャラックと言う。
1年間、僕の研究を手伝い、僕が日本に帰った後は、僕の研究を引き継ぐ予定だ。
僕は苦笑いを浮かべたまま、ドーラに語り掛けた。
「王城内の、しかも王室のプライベート区域への立ち入りを、
1人の学生に与えるのは難しいと思うんだ。。。
しかも、そんなところへ立ち入れば、
僕の正体を訝しみ、下手すりゃバレルと思うんだ。
ただでさえ、分隊メンバと一緒に大学に行っていて、
研究室の学生達は僕を変な目で見ているし。。。」
ドーラは右手を顎に当て、顔を横に傾け、「うーん」とつぶやいた。
数十秒後、ドーラは苦笑いを浮かべ、「フレッド副長にも相談しよう」と僕に告げると、彼女は部屋を出た。
数十秒後、ドーラはフレッド副長を連れて、部屋に戻ってきた。
ドーラはフレッド副長に僕の相談内容を説明すると、フレッド副長は腕を組み、天井を見上げ、「うーん」とつぶやいた。
やがて、彼はドーラに視線を戻すと、こう語りかけた。
「首都レワヅワ近郊の練兵場はいかがでしょう?
あそこなら広大な敷地なので、
周辺住民が修司殿が天体観測していることを目にすることはないから、
刺激することはありえません。
かつ、夜は真っ暗で天体観測に支障はないですし。。。
なにより、練兵場は軍関係者しかいませんから、
修司殿の安全も確保できます。
しかも、王城より、練兵場の方が、学生の立ち入り許可はでやすいのでは?
大学には『近衛兵の好意によって練兵場で天体観測可となった』と言えば、
修司殿の正体を訝しむ学生も減るのでは?」
ドーラは天井を見上げ、腕を組んで、問うた。
「うーん、、、練兵場は良い考えだが、、、
その、練兵場への、修司殿と学生の立ち入り許可を誰に頼む?
まあ、母上(=アン女王)や父上(=レオ近衛師団長)に、
我が頼んでも良いが。。。」
フレッド副長が慌てて制した。
「いや、そんな天の上からだと(=アン女王、レオ近衛師団長)、
練兵場の兵士達や、他の分隊メンバが、
修司殿の正体を訝しみます。」
僕がため息をついて、ドーラとフレッド副長に語り掛けた。
「僕がヒラリー後方支援連隊長に手紙を書きます。
僕の研究は、軍とオウゴウヌ大学の共同研究で、
その軍の研究担当はヒラリー後方支援連隊長なので。。。
ヒラリー後方支援連隊長に事情を手紙にしたため、
『共同研究を進めるため、
僕とクラレンス君の練兵場への立ち入り許可を
ください。』
と頼んでみます。」
ドーラとフレッド副長は黙ってうなずいた。
翌朝、僕は大学に出かける前に、ヒラリー後方支援連隊長に手紙を送った。
その夕方、ヒラリー後方支援連隊長から返信の手紙が届いていた。
内容は次の通りだった。
『委細承知した。
練兵場への立ち入り許可申請は副官に命じた。
明日の朝には立ち入り許可証を渡せると思うので、
明日の朝、9時30分にドーラ中尉と共に、個室に来てほしい。』
とのことだった。
すぐにドーラの部屋を訪ね、ヒラリー後方支援連隊長からの手紙を見せた。
手紙を読むと、ドーラはため息をついて、黙ってうなずいた。
翌朝、9時15分、ヒラリー後方支援連隊長の個室に、ドーラと共に訪ねた。
ドーラ曰く、
「お偉いさんに会う場合は、15分前に到着し、
30分以内に用事を済まさなければならない。
長々と会話しないように。」
と念押しされていたのでね。。。
個室の前の副官に到着を告げると、副官は手帳を開き、ヒラリー後方支援連隊長のスケジュールを確認すると、ドアをノックし、個室に入った
副官は個室から出てくると、笑顔で告げた。
「予定より早いですが、入室ください。」
僕とドーラは恐る恐るドアを開けると、ヒラリー後方支援連隊長がドアの前に立っており、ドアの近くのソファーに右手を向けた。
僕とドーラは恐る恐るソファーに腰を下ろすと、ヒラリー後方支援連隊長が反対側のソファーに座った。
ヒラリー後方支援連隊長は、ソファーの間の机に二枚の紙を置き、僕に語り掛けた。
「はい、修司殿とクラレンス君の練兵場への立ち入り許可証。
有効期限は1年間、練兵場の入り口に立っている警備兵に示せば、
いつでも入場できるわ。」
僕は立ち入り許可証を手にすると、頭を下げた。
「ご多忙の中、ありがとうございました。」
横目で見ると、ドーラも頭を下げていた。
ヒラリー後方支援連隊長は微笑み僕に語り掛けた。
「いいのよ。
私は副官に命じただけだもの。。。
実際の申請作業は全て副官が行ったの。。。」
そしてヒラリー後方支援連隊長は、ドーラに視線を向けると、すまし顔で問うた。
「で、、、修司殿だけでなく、、、
ドーラ中尉も呼んだ理由なんだけど、、、
ドーラ分隊は練兵場まで、
『ただ、修司殿とクラレンス君の送迎するだけ?』
練兵場は他の兵が訓練をしているわ。。。
1年間、練兵場で訓練もせず、送迎するだけだと、
他の兵が不満を持つと思うけど。。。」
すると、ドーラは困った顔で答えた。
「しかし、、、練兵場で軍事教練をやると、、、
修司殿の警護がおぼつかなくなります。。。」
ヒラリー後方支援連隊長の意見ももっともだ。。。
そもそも練兵場は軍事教練の場だ。
他の兵は厳しい訓練を行っているだろう。。。
その兵から見て、ただ僕やクラレンス君の送迎だけをしているドーラの分隊を目にすれば、不満を感じるだろう。。。
同時にドーラの意見も正しい。。。
厳しい軍事教練をしながら、僕の警護をこなすのは難しいだろう。。。
ヒラリー後方支援連隊長は、うなずき、ドーラに語り掛けた。
「そう。
軍事教練までしろとは言わないけど、
なにか訓練はしなさい。。。」
僕は腕を組み、一つのアイデアが浮かんだ。
そしてドーラに語り掛けた。
「うーん、、、
オウゴウヌ王国にもちこんだ土産の中で、
『どう使えばよいのか分からない』
ってことで、扱いが保留になり、
僕の担当になっているものがいくつかあります。
(第21話)
その操作訓練とか、適用方法の調査を、
ドーラさんの分隊が、練兵場で行うってのはいかがでしょうか?」
すると、ヒラリー後方支援連隊長は微笑みうなずいた。
「ま、当面はそれでごまかしなさいな。。。
そういえば、30年前、晋一殿からの土産で、
扱いに困ったものもあるから、
それも改めて、操作訓練や適用方法の調査を行うってことで、
私の方から、ダグ(=騎兵連隊長)には手紙を書いておくわ。。。
あなた(=ドーラ)の上司である、ダグ(=騎兵連隊長)が許可すれば、
あなたの分隊は堂々と練兵場で操作訓練や適用方法の調査をしながら、
修司殿とクラレンス君の送迎ができるわ。。。」
ドーラは戸惑いながら、ヒラリー後方支援連隊長に頭を下げた。
「ご配慮、ありがとうございます。」
ヒラリー後方支援連隊長は微笑みながら、ドーラに語り掛けた。
「あ、晋一殿の土産で、扱いに困ったものは、
今日中に練兵場の倉庫に運ぶよう、
私の配下(=後方支援連隊)に命じておくから。。。」
こうして、僕とドーラはヒラリー後方支援連隊長の個室を辞した。
次話は2026/3/21 0時に更新予定です。




