第37話 貴族との晩餐会
(前話からの続き)
晩餐会まで、僕は部屋でテーブルマナーの特訓を受けた。
そして、晩餐会では執事が選んだ服を着た。(第34話)
黒い礼服と白い蝶ネクタイだ。
さて、これまで、食事は王室用の食堂だったが、晩餐会は宮殿の大広間で行われた。
大広間の入口にあるラウンジに、王族(アン女王、レオ近衛師団長、ドーラ、シャーロット第二王女、オリビア第三王女)と共に入場した。
アン女王、ドーラ、シャーロット第二王女、オリビア第三王女は白のローブデコルテ、アン女王は王冠を被っていた。
レオ近衛師団長は白の軍服だ。
ラウンジに入場すると、晩餐会に参加する上位貴族の女性はやっぱり白のローブデコルテ、男性は軍服か黒い礼服を着ていた。
どうも、貴族との晩餐会では、女性は白のローブデコルテ、男性は黒い礼服か軍服を着るのが、ドレスコードらしい。。。
あ、その上位貴族には当然、僕の歓迎会(第18話~第20話)に参加した、オスカー・デービス元老院議長とその妻のソフィア・デービスさん、加えてトーマス・ライト公爵とその妻のコニー・ライトさんもいた。
ま、ソフィア・デービスさんはソフィア叔母さんと言う方が、僕にはしっくりくるけど。。。
あ、オスカー家の跡取りとして長女のアリシア・デービスさん、ライト家の跡取りとして一人娘のイライザ・ライトさんも、この晩餐会に来ていた。
さて、ラウンジに入場すると、当然のことながら、アン女王には多くの貴族が集まった。
恭しく頭を下げ、アン女王に語り掛ける貴族が多かった。
たとえば、
「女王陛下、この度は晩餐会にお招きくださり、ありがとうございます。」
とか、そんな類だ。
でも、同時にシャーロット第二王女にも多くの貴族が集まった。
まあ、シャーロット第二王女は王太子だ。これは仕方がないだろう。
そりゃ貴族からしたら、未来の女王陛下のご機嫌を取りたくもなるだろう。
例えば、
「王太子殿下、ご機嫌いかがでしょうか?」
とか、こんな感じで多くの貴族が集まった。
だが、オリビア第三王女に一番多くの貴族が集まった。
しかも! 若い男性の貴族ばかり!
もー、デートのお誘いばっかり!
例えば、
「オリビア殿下、(首都レワヅワに)新しいレストランがオープンしました。
とてもおいしいそうです。一緒にいきませんか?」
とか、、、下心、見え見え!
ははは。。。
ただ、シャーロット第二王女が自分に集まる貴族達と歓談しながら、オリビア第三王女を冷たい視線で横目で見ていたんだ。。。
なぜだろう?
オリビア第三王女に人気が集まるのが妬ましいのだろうか?
一方で、ドーラには集まる貴族は少なかった。
ま、ゼロって訳じゃないけど。。。
例えば、伯爵家に嫁いだ中学校までの同級生とかで、女性ばかりだ。。。
でも、なんか、まだ未婚のドーラに対して、マウントを取ると言うか、、、
なんというか。。。
「結婚して良かった~♪
旦那様はとっても優しいの~♪」
と、ドーラに語り掛けるんだよね。。。
ドーラは引きつった笑顔で
「幸せそうね~」
と返していたんだけどね。。。
アン女王は一通り歓談を済ませると、手招きして、僕とドーラを呼んだ。
何事かと思い、僕とドーラがアン女王の傍に行くと、アン女王は僕に右手を向け、大声で参加者に呼びかけた。
「皆の者、ここに控えているのは、ドーラの許婿、修司殿じゃ。
異世界の日本からやってきた。
1年ほど、我が国に滞在し、その後、ドーラと共に日本に戻る。」
僕は慌てて、「よろしくお願いします。」と、参加者に頭を下げた。
僕を頭を上げると、ドーラも参加者に頭を下げていた。
だが、参加者を見ると、半分弱は僕を冷たい視線で見ていた。
貴族達からは僕は歓迎されていないことが分かった。
貴族達は、日本からこのオウゴウヌ王国に来る人間を、快く思っていないのだ。。。
そう、晩餐会前の執事の言葉は正しかったのだ。。。(第36話)
あ、レオ近衛師団長はずっとアン女王の近くで微笑み立っていた。
兄のトーマス・ライト公爵とは少し会話をしたみたいだけど、それ以外は黙っていた。
本当は陽気でおしゃべりな人なんだけど(第34話)、この晩餐会ではあまりしゃべらなかった。
さて、歓談も終わり、晩餐会を始めるため、参加者は大広間に通された。
僕は王族の席に座り、ドーラの隣だった。
今回の晩餐会の料理の材料は、日本から持ち込んだ食材と酒だ。
そう、僕の歓迎晩餐会でアン女王が、シェフとソムリエに指示した通りだ。
(第19話)
基本的にはフレンチのフルコースだった。
一品目はオードブルだった。
『生粋の日本人』である僕としてはカルパッチョしてほしかったけど、さすがに僕がオウゴウヌ王国に来てから、1週間以上を経過したのでね。
いくら冷蔵庫や保冷車の中で保存してあったと言っても、生の魚はダメだった。
二品目と三品目はスープドポワソンとムニエルだった。
いやー、料理の前で苦笑いを浮かべたね。。。
と言うのも、連日、朝、昼、晩と魚料理だったから。。。
ほら!
オウゴウヌ王国の海岸は危険地帯だから(第18話、第26話)、オウゴウヌ王国の人は魚を食べる機会はないし、当然、シェフも魚料理の経験はないわけ!
そこは、父・普一も母・エリーゼもお見通しだったから、魚料理のレシピ本が土産にあって、それをシェフに渡したの。
で、、、シェフは毎日魚料理を試作し、王室の食堂で、朝・昼・夕と提供されたって訳!
しかも、、、、
昼食も夕食も、王家の人は誰もいなくて、王室の食堂は僕一人だったから(第33話)、、、
毎日、朝・昼・夕と魚料理を食べていたのは、僕だけで。。。。
もー、さすがに魚料理は食べ飽きてました。。。
はい。。。
ドーラは小さな声で僕に話しかけた。
「修司殿、どうした?
そんな引きつった笑顔をして。。。」
仕方がないので、僕は小さな声で理由を教えたら、ドーラは小さな声で噴き出した。
「ぷ! ははは! よかった!
5日間の集中合宿に行ってて。。。」
(第30話)
でも、やっぱり、王室のキッチンのシェフだからね。
試作を重ねたと言っても魚料理は慣れていなかったと思う。
でも、それでも美味しかったよ。
それに、さっき言ったように、オウゴウヌ王国の人は魚を食べる機会がないから、参加者のほとんどは、初めての魚料理で驚いていたよ。
うん。。。
ただし、次の月以降の、上位貴族との晩餐会では魚料理は提供されなかった。
上位貴族との晩餐会で魚料理が提供されたのは、このときだけだった。
そりゃ、オウゴウヌ王国では、海は大変危険なので、魚を獲ることは命がけだからね。。。
(第26話)
四品目は口直しのアイスクリーム。
これは日本から持ち込んだものでなく、王室のキッチンオリジナルだった。
さすがに王室のキッチンのパティシエさんだ。
作り方を覚えると(第19話)、『王室にふさわしい品質のアイスクリーム』を仕上げた。
まあ、僕ははっきり言って、『バカ舌』なんだけど、それでも日本で食べていたアイスクリームより、シンプルなんだけど、上品な感じがしたよ。
当然、アイスクリームには上位貴族達も驚いていた。
アイスクリームが配膳された時、アン女王は立ち上がり、どや顔で参加者に話しかけた。
「このアイスクリームの製法は修司殿の日本から我が国に伝わった。
だが、残念ながら冷蔵庫のある、
王室のキッチンでしか、作ることができぬ。
(第19話)
よって、今後、月に一度の貴族との晩餐会では、
このアイスクリームを提供する。
ありがたく味わうがよいぞ!」
ま、本当は冷却魔法で代用可能らしいんだけど、、、(第19話)
それを知っている、デービス夫妻とライト夫妻は苦笑いを浮かべていた。。。
ははは。。。
5品目は和牛のステーキ、ただしフレンチらしく、ステーキの下にフレンチらしいソースが敷いてあった。
これは、アン女王、ソフィア叔母さんの予想通り(第19話)、肉に参加者は驚いていた。
6品目はチーズ、7品目はケーキ2品とアイスクリーム、8品目はコーヒーだった。
このチーズもケーキ1品とコーヒー豆は日本からの土産だ。
残りケーキ1品はフルーツケーキで、フルーツは日本産だ。
さすがにオウゴウヌ王国から1週間以上経過しており、フルーツを生で提供するのは憚られた。
チーズ、ケーキ、アイスクリーム、コーヒー、すべてに参加者は驚いていた。
また、食事の最中には酒もふるまわれた。もちろん、この酒も日本から持ち込んだものだ。
酒にも参加者は驚いていた。
コース料理が終わった時、アン女王は立ち上がり、参加者全員に語り掛けた。
「皆の者、今回の晩餐会の食材と酒は、
すべて、修司殿の母国、日本から持ち込んだものだ。
今回の料理で皆も分かったであろう。
日本は豊かな国なのだ。」
参加者の一部はうなずき、だが冷ややかに女王を見つめる者もいた。
アン女王は話を続けた。
「その豊かな国から、知識と技術を吸収し、
我が国、オウゴウヌ王国が歩んできたことを忘れないでほしい。」
そしてアン女王は微笑み、僕に右手を向けた。
「皆の者、今回の晩餐会の食材と酒を提供してくれた、
修司殿に感謝を示すため、拍手を送ろうではないか!」
すると、参加者全員が拍手を送ってくれた。
僕は慌てて立ち上がり、「ありがとうございました」と、何度も方向を変えて頭を下げた。
ふと気づくと、ドーラも立ち上がり、頭を下げていた。
こうして晩餐会が終わり、大広間の外のラウンジで再び歓談となった。
やっぱり、僕やドーラにはあまり人が集まらなかった。
一方、アン女王、シャーロット第二王女、オリビア第三王女に人が集まった。
特にオリビア第三王女には若い男性貴族が集まった。
その若い男性貴族の中にとりわけ熱心にオリビア第三王女に話しかける一人の男性がいた。
後にその男性はローガン・アサル公爵って知るんだけど。。。
そしてそれを横目でシャーロット第二王女が冷たく見ていた。
ドーラは僕に近づくと、耳元でささやいた。
「もう帰ろうか?」
僕はうなずき、ラウンジから、二人で僕の部屋に向かって、廊下を歩いて行った。
僕は廊下を歩きながら、ドーラ以外に近くに人がいないのを確認すると、ドーラに問うた。
「ドーラさん、
歓談にオリビアさんに人が集まっていましたが、どうしてですか?」
ドーラは歩きながら、苦笑いを浮かべ、答えた。
「ああ、オリビアの結婚相手が、次の元老院議長になるからだ。
元老院議長は貴族のトップだからな。
若い男性貴族はその座を射止めんと、オリビアに群がったという訳だ。」
そう言うことか、上位貴族でオリビア第三王女と年齢的に釣り合いの取れる男子がいれば、かつ野心があれば、次の元老院議長の座を射止めんと群がる気持ちもわかる気がする。
でも、だったら、シャーロット第二王女の冷たい目はなぜだろう?
僕はうなずき、歩きながら、恐る恐る問うた。
「あと、シャーロットさんが、
横目でオリビアさんを冷たい目で見ていましたが。。。」
すると、ドーラは歩きながら、笑ってこう答えた。
「ははは!
シャーロットが冷たく見ていたのは、オリビアではない!
オリビアに話しかけていた『若い男性貴族を冷たく見ていた』のだ!」
僕は戸惑い、おもわず足を止め、ドーラに問うた。
「なぜ?」
ドーラも足を止め、苦笑いを浮かべて答えた。
「だって、オリビアの結婚相手を探し、決めるのは、シャーロットだからだ。
だから、『オリビアにいくら話しかけてもムダ』なのだ。」
ドーラは苦笑いを浮かべたまま、話を続けた。
「だが、オリビアの結婚相手をシャーロットが選んでいることは、
シャーロットやオリビアの様子をよく観察していればわかることだ。。。
それすら見抜けぬようでは、『次期元老院議長として失格』だ。
話にならぬ!
だから、シャーロットはすでに切り捨てているのさ。
よって、オリビアに積極的に話しかけていた若い男性貴族を、
シャーロットは冷たく見ていたのさ。」
僕はオウゴウヌ王家の複雑さに唖然とした。
そして、オウゴウヌ王家に自由な恋愛と結婚はないのだ。
オリビア第三王女の結婚相手は、オリビア第三王女自身では決めることはできない。
僕はハッとした!
だったら、シャーロット第二王女の結婚相手だって、シャーロット第二王女自身が決めることはできないはずだ!
だって、シャーロット第二王女は、王太子なのだから!
オリビア第三王女以上に、シャーロット第二王女の結婚相手は、慎重に決めねばならぬはずだ!
僕は慌てて、ドーラに問うた。
「それじゃあ、、、
王太子であるシャーロットさんの結婚相手は誰が決めるのですか?」
すると、ドーラは廊下の天井を見上げ、「ははは!」と笑った。
そして視線を僕に戻すと、すまし顔で答えた。
「我だ。
我がシャーロットの結婚相手を選ぶ。」
僕は思わず、ドーラを凝視した。
そして、、、
僕はドーラの答えから、和泉家の庭で母・エリーゼがドーラに向けた言葉を思い出した。
『私の推薦通りに王配を選んだのだな。』(第12話)
の言葉を。。。
僕は思わずドーラに問うた。
「ドーラさんがシャーロットさんの結婚相手を選ぶのと同様に、
母・エリーゼが、アン女王陛下の夫として、
レオ近衛師団長を選んだのですか?」
ドーラは黙ってうなずいた。
僕は理解した。
『オウゴウヌ王家では、
第一王女が第二王女の結婚相手を決め、
第二王女が第三王女の結婚相手を決める』
ということを。。。
でも、それは次の疑問が生じることになった。
『じゃあ、第三王女は何を決めるのだろうか?』
って。。。
だって、第一王女と第二王女には決めることがあり、
『第三王女が決めることがないなんてありえない』
と思ったから。。。
でも、その疑問以上に、更なる疑問が生まれた。
と言うのも、、、
アン女王の夫、レオ近衛師団長は、30年前、第一王女だった母・エリーゼの分隊メンバだった。
(第15話)
そして、今、第一王女のドーラの分隊メンバは、尉官ばかりでとてもいびつな編成だ。
しかも、騎兵連隊隷下なのに乗馬できないメンバが少なくない。
ドーラの分隊の編成は、素人の僕が見てもおかしい。。。
(第30話)
加えて、ドーラがシャーロット第二王女の結婚相手を決める。
つまり、ドーラの分隊の編成がおかしな理由は、、、
『もしかして? いや、、、きっと、、、たぶん。。。』
次話は2026/3/16 0時に更新予定です。




