第27話 オウゴウヌ王国の歴史(その2) ー500年前から現在までー
(前話からの続き)
「ところで、、、」と執事は話題を変えた。
「先ほど申しあげたとおり、神話によれば、
約2000年前、創造神ガエリア様より魔法を授かりました。(第26話)
その魔法によって、巨大生物への対抗手段を得たアシエシア大陸の人々は、
創造神ガエリア様への信仰心が篤いのです。
アシエシア大陸の人々はほぼ全員、ガエリア教に帰依しております。」
僕は黙ってうなずいた。
そりゃ、僕でもこの国に生まれたら、そんな神話を聞けば、そうなるだろう。。。
執事はため息をつき、話を続けた。
「今から、約1500年前、そのガエリヤ教の教皇が統べる国ができました。
その名前を『ガエリヤ教皇国』と言います。」
そういうと、再びアシエシア大陸の地図(第26話)のほぼ中央からやや西側を指さした。
ここに『ガエリア教皇国』があるのだろう。
もっとも、僕はアシエシア語は読めないが。。。
執事は少し憂い顔で話を続けた。
「教皇は創造神ガエリア様への信仰のあり方を細かく指示するようになりました。
そんな教皇にとって、異世界からの技術や知識は邪魔なのです。」
僕は戸惑い、「なぜ」と問うた。
執事はため息をつき、答えた。
「創造神ガエリア様を信仰せぬ世界からの知識や技術を
受け入れるとは何事かと。。。」
僕はあきれ、「は?」とつぶやいた。
正直、バカバカしいと思った。
執事もあきれ顔で話を続けた。
「実は約1000年前、創造神ガエリア様が、
我が国に限り、30年に一度、異世界の人を招致することを認めたとき、
2つの条件の他に、もう一つ指示があったのです。」
僕は戸惑い、「もう一つの指示って?」と問うた。
執事はあきれ顔のまま答えた。
「創造神ガエリア様は、
『異世界の知識や技術をタブー視せず、
と言って、そのまま受け入れるわけではなく、
検証を重ねながら受け入れるように。』
と指示されました。
我が国はその指示に従って、
異世界の知識や技術をタブー視せず、
ちゃんと検証を重ねておりました。
それでも、教皇は我が国の姿勢を問題視したのです。。。
先ほど申しあげたように、
南からの巨大生物、北からの近隣諸国からの侵略を跳ね返すため、
異世界の知識や技術を取り入れることは必要不可欠です。
したがって、
ガエリア教皇国と我が国の対立は徐々に深まっていきました。。。」
執事は悲しげな顔になり、話を続けた。
「ついに、約200年前、オウゴウヌ王国は、教皇から破門を言い渡されました。
そして、教皇はアシエシア大陸諸国に檄を飛ばし、
『異端国家であるオウゴウヌ王国を討ち滅ぼせ!』
と命じたのです。
そして、教皇自ら、アシエシア大陸諸国の連合軍、総勢約30万の大軍を率い、
オウゴウヌ王国への侵攻を開始したのです。
一方、当時のオウゴウヌ王国が迎え討った兵力は総勢約5万に過ぎず、
オウゴウヌ王国史上最大の危機を迎えました。。。」
うわー、6倍の兵力差かよ。。。ほとんど絶体絶命じゃねーか。。。
僕は恐る恐る問うた。
「で、、、どうなったのですか?」
執事は苦笑いを浮かべ答えた。
「この時は、地の利と、装備に勝り、精強を誇る兵を持つオウゴウヌ王国が、
激戦の末、アシエシア大陸諸国連合軍の侵攻を何とか防ぎ、
連合軍は撤退しました。」
僕は思わず、ホッと息をついた。
執事は顔を誇らばせ、僕に語った。
「約200年前、我が国最大の危機を迎えた時、
我が国に地の利や、装備が優れていただけでなく、
その時の我が国の女王が傑物だったのが、
危機を克服できた理由の一つかもしれません。」
僕は驚き、「え?」とつぶやいた。
執事は僕の驚きをスルーして、話を続けた。
「当時の女王の名前は『アンジェラ・オウゴウヌ』。
約200年前、教皇から破門を受けても、大陸諸国連合軍から侵攻を受けても、
国是を貫き、国を守った伝説の女王です。
結果として大陸諸国連合軍を破り、歴史上最大の国家存亡の危機を克服し、
独立を守りました。」
そう言うと、執事は子供のような笑顔で語る。
「記録によれば、大陸諸国連合軍との戦争中、
勝機とみた女王は、騎乗し、オウゴウヌ王国全軍5万の前に進み、振り返り、
剣を握った右手を高く掲げ、叫んだそうです。
『皆の者! 時は来たれり!』
そう言うと、敵陣に向きなおり、剣を握った右手で敵陣の方向を示し、
叫んだそうです。
『突撃! 我に続け~~~!!』
そして、女王自ら、単騎で、30万の大軍の中に飛びこんでいったそうです。
夫の近衛師団長は、、、
戦争期間中は元帥として、我が国軍の最高司令官となりますが、、、
妻の女王を守らんと、慌てて女王の後を追って、
馬を走らせ、敵陣の中に飛び込んでいったそうです。
我が国軍で最強の近衛師団1万も、女王を守らんと、女王の後を追って、
慌てて敵陣の中に飛び込んでいきました。
近衛師団以外の4万の軍も、女王を守らんと、近衛師団に続いて、
慌てて敵陣の中に次々と飛び込んでいきました。
結果として、オウゴウヌ王国軍5万は、
6倍の30万の大軍に対し、決死の突撃を敢行した形となりました。
大陸諸国連合軍30万は、それまで戦闘で疲弊しきっていて、
オウゴウヌ王国軍の突然の決死の突撃に驚き、
装備と練度の差もあって、壊滅的大敗を喫したそうです。
そして連合軍30万は這う這うの体で撤退したそうです。」
執事は微笑み話を続ける。
「アンジェラ・オウゴウヌ女王陛下は、
今もオウゴウヌ王国の国民から尊敬を集める伝説の女王です。」
たぶん、国民の間で有名な話なんだろう。
そうじゃなければ、執事が子供のような笑顔で語るなんてしない。
執事は苦笑いを浮かべ、話を進めた。
「ただし、この戦争において、
ガエリア教皇国を始め、アシエシア大陸諸国とは和平を結んでおりません。
和平を結ばず、撤退してしまったので、
国際政治上は戦争状態が続いております。
ま、実際の戦闘は行われておりませんが、、、」
僕は恐る恐る問うた。
「つまり?」
執事は苦笑いを浮かべたまま答えた。
「オウゴウヌ王国はアシエシア大陸諸国とは断交しており、
鎖国状態にあります。。。」
執事は苦笑いを浮かべたまま、両掌を天井に向け、両手を伸ばし、僕に話しかけた。
「加えて、ガエリヤ教皇国がアシエシア大陸諸国へ、
我が国からの知識や技術の流入を禁じています。
当然、アシエシア大陸諸国に対し、我が国との交流も禁じています。
一方で、我が国は異世界の知識や技術を吸収し、ますます発展していった。。。
でも、大陸諸国は約200年前のまま、あまり変わっていないようです。。。
皮肉なことに、我が国と、大陸諸国の国力の差は開く一方ですな。。。
この2枚の地図のように。。。」
そう言うと、執事は、まるで中世の地図のようなアシエシア大陸の地図と、
近代的なオウゴウヌ王国の地図を指さした。
確かに、この2枚の地図は、オウゴウヌ王国とアシエシア大陸諸国の差を如実に物語っている。。。
(第26話)
執事は少し緊張した表情で僕に語った。
「約300年前、創造神ガエリア様の指示があり、
異世界から来た男性が戻るとき、オウゴウヌ王国の王家の女性と結婚し、
一緒に戻ることになりました。
そして二人のご子息が30年後に我が国に来て、
異世界の知識や技術を伝える習わしとなりました。」
アン女王の言葉(第15話)を思い出し、問うた。
「そう言えば、アン女王陛下が約300年前よりそれ以前は、
第一王女が王位を継承していたと仰ってましたが。。。」
執事はうなずき、こう答えた。
「創造神ガエリア様は『第一王女』とまでは指定していませんが、
『魔法器官を失った女性しか、異世界に渡れぬ。
魔法器官を失った女性が異世界へ渡るように。』
との指示がありました。
オウゴウヌ王家は異世界を繋ぐ極大魔法は
第一王女が行うしきたりとなっており、
その結果、第一王女は魔法器官を失います。
それ以来、第一王女が異世界に渡る役目を担うという訳です。」
僕は戸惑い問うた。
「もし、魔法器官を失わずに、異世界に渡ったら?」
執事は悲しげな表情で顔を横に振り、答えた。
「創造神ガエリア様曰く、
『異世界は我の力が及ばぬ場、我の制御が利かぬ。
魔法器官が発火し、その者は焼け死ぬだろう。』
とのことです。」
僕は唖然として、「そんな。。。」とつぶやいた。
僕は気を取り直し、再度問うた。
「じゃあ、僕の祖母のマーガレットや、母のエリーゼは?」
執事はうなずき答えた。
「ええ、お二人とも、異世界を繋ぐ極大魔法を行い、
結果として魔法器官を失っておられます。
だから、オウゴウヌ王国に来られた賢治様、普一様と結婚後、
日本に渡られたのです。」
僕は初めて聞いたことで、口を開いたまま、しばらく何も考えることができなかった。
執事は僕が落ち着くの待って、話を再開した。
「こうして、約300年前から異世界から来た男性が戻るとき、
オウゴウヌ王国の王家の女性と結婚し、一緒に戻ることになったのですが、、、
120年前から、異世界から来る男性は、
和泉家の長男が来ることに固定されました。」
僕は戸惑い問うた。
「つまり、今回は僕ってこと?」
執事は微笑み、黙ってうなずいた。
執事は微笑み、話を続けた。
「120年前、和泉家から初めて我が国に来られた洋治様は、
つまり、修司様の高祖父様は、記録によれば、アルミプラント技術者でした。
我が国に、アルミニウムの生産方法を伝えられました。」
僕は戸惑い問う。
「でも、アルミニウムの生産には電力が必要では?」
執事はうなずき答えた。
「ええ、そこで90年前、我が国に来られた正志様、
つまり、修司様の曽祖父様は発電プラント技術者でした。
我が国に、発電技術を伝えられました。」
僕は更に戸惑う。
「え? それって都合よくないですか?」
執事は笑い答える。
「ははは! そうですな!
なぜか、我が国に都合の良い技術や知識を持ったものが、
30年毎に異世界から来るのですよ。。。」
そう言えば、父・普一が医者を志した時、祖母・マーガレットは当初反対したが、祖母・マーガレットの枕元に創造神ガエリアが立ち、祖母を説得したと言う。(第1話)
まさか、、、
『創造神ガエリアがオウゴウヌ王国に必要な人材は何かと考え、
父・普一を導いた』
ってこと?
でも、ちょっと待って?
僕は基礎分野の研究者だよ?
僕が物理学の研究者を志した時も、母・エリーゼの枕元に創造神ガエリアが立ち、母を説得したと言う。(第1話)
『基礎分野が必要なことが、このオウゴウヌ王国にある』
ってこと?
僕はますます混乱した。。。
僕の混乱を知らずか、執事は話を進めた。
「でも、発電施設やアルミニウム生産設備を作ると言うのは、
当時のジャネット女王陛下や、次のチェルシー女王陛下にとって、
難しい判断だったようです。」
僕は戸惑い問うた。
「なぜ?」
執事は苦笑いを浮かべて答えた。
「発電設備やアルミニウム生産設備の建設には、大量の鉄が必要だからです。
特に発電機には、鉄と銅が不可欠です。
ああ、銅鉱山も我が国にあり、銅の精錬所もありますが、
やっぱり鉄と同様、大量に生産できるわけではありませんから。。。
一方、発電施設やアルミ工場を作るために、
軍事や農業向けの鉄製品を削減するわけにもいきません。。。
特に先ほど言ったように、アシエシア大陸諸国とは断交状態で、
国際政治上は戦争状態なのです。
軍備を怠る訳にはいかないのです。」
執事は話を続けた。
「しかし、同時にアルミニウムが生産できれば、
鉄の需要に余裕ができ、他の目的に転用できるということで、
発電施設とアルミ工場を作ることを政治決断したのです。
ま、細々と鉄と銅を集めて、
発電設備とアルミニウム生産設備を作ったそうです。。。」
執事は笑顔で語る。
「ようやく、
80年前に発電設備が、70年前にアルミニウム工場が本格稼働しました。
80年前の発電設備には余力があり、70年前、王城に初めて電気が来ました。」
そう言うと、執事は天井の電灯を指さした。
僕は恐る恐る問うた。
「そう言えば、オウゴウヌ王国に来る前、
父(=普一)と祖父(=賢治)が、
『オウゴウヌ王国全土の電化は難しい事情がある』
と言ってました。。。
(第16話)
まさか、それって?」
執事は苦笑いを浮かべ、うなずき、答えた。
「ええ、、、鉄や銅が不足しているので、
発電設備や送電網の整備に限界があるのです。
細々と広めていくしかないのです。。。」
執事は苦笑いを浮かべたまま、話を進めた。
「でも、これでも、アシエシア大陸諸国の中では、
オウゴウヌ王国は電化が最も進んでいるのですよ。。。
我が国以外は発電施設自体がない国がほとんどです。。。」
僕はため息をつき、天井を見上げた。
執事は微笑み話を続けた。
「修司殿の高祖父・洋治様、そして曾祖父・正志様により、
アルミニウムが我が国で生産され、
鉄の不足が一部緩和されました。
そして、60年前、我が国に来られた祖父・賢治様も、
我が国の鉄不足解消に貢献されたのです。」
僕は「え?」とつぶやいた。
確か、祖父・賢治は化学プラント技術者(第1話)で金属には関係ないはずだ。
執事は僕の戸惑いをスルーして、話を続けた。
「賢治様は我が国に強化プラスチックの技術をもたらしました。
ま、これが生産に乗るのは、賢治様が我が国を去って、約20年後、
つまり今から約40年前でしたが、、、
鉄の代わりに、アルミニウムや強化プラスチックという選択肢が増え、
インフラに鉄を用いることが以前より容易になりました。
例えば、わが国には鉄橋がいくつかありますが、
アシエシア大陸の中で鉄橋があるのは、我が国だけです。」
僕は恐る恐る問うた。
「プラスチックには原油が必要ですが、
油田や石油精製施設もあるのですか?」
執事は笑って答えた。
「ははは!
150年前、我が国に来られた方が、油田を発見し、
精製方法を我が国に伝えていました。
金属類と違って、石油や石炭はわが国は豊富にあるようですな。。。」
僕はこの答えに疑問を抱き、問うた。
「すみません。。。
どうして150年前来られた方のご子息が120年前にオウゴウヌ王国に来ず、
120年前、僕の高祖父・洋治がこの国に来たのですか?」
すると、執事は困った表情を浮かべ、天井を見上げた。
そして、ゆっくりと僕に視線を戻すと、言いにくそうな表情で、語り掛けた。
「実は数代にわたって、約200年前から150年前まで、
我が国に来られたのですが、、、
150年前、その方が異世界に戻る寸前、
一緒に異世界に渡るはずだった、
『第一王女の姫君が暗殺された』のですよ。。。
よって、一人、異世界に戻られました。。。
そこで、一旦、『途絶えてしまった』のです。。。
そして、創造神ガエリア様は、新たに和泉家を選ばれ、
120年前に洋治様が来られたのです。。。」
僕は驚き、思わず叫んだ。
「暗殺!? 一体なぜ?」
執事は何度も顔を横に振り、思いつめた表情で答えた。
「先ほど言ったように、
約200年前、我が国はアシエシア大陸諸国と戦争を行いました。
外国、特にガエリヤ教皇国は、30年に一度、異世界の人間を招致し、
『異世界の知識や技術を吸収することを苦々しく思っています。』
そして、それは国外だけでなく、国内でも、
『異世界の知識や技術を吸収することを快く思わない勢力がいます。』
150年前の暗殺事件の犯人は未だわかりません。
しかし、おそらく、国内外の反対勢力が手引きしたと推察されます。」
僕は背中に寒気を感じ、黙り込んだ。
執事は思いつめた表情のまま、話を続けた。
「実は暗殺事件は150年前だけでなく、未遂を含めれば、度々起こっています。
異世界に渡る予定だった、第一王女の姫君だけでなく、
異世界から来られた方への暗殺や誘拐・拉致もありました。
その都度、『一旦途絶えた』歴史があります。
実は、30年前、我が国に来られた普一様にも暗殺未遂事件がありました。
そして、言いにくいのですが、今後1年の間に、
『修司様やドーラ殿下に対する
暗殺や誘拐・拉致が起きぬとも限りません』。。。」
僕は驚き、「え!」と叫んだ。
執事は僕の驚きをスルーして、思いつめた表情のまま、僕に語り掛けた。
「いいですか、修司様、
ここでの行動に、注意を怠らないようにお願いします。
もちろん、修司様とドーラ殿下の安全を確保するため、
我が国は可能な限りのことは致します。
よろしいですね?」
僕は黙ってうなずくしかなかった。
でも、、、
『こんな怖い国イヤだ~! 早く日本に帰りた~い!』
と心の中で叫んでいた。。。
次話は2026/3/11 0時に更新予定です。




