第24話 オウゴウヌ王国での納骨式
(前話からの続き)
7時半には朝食を食べ終わり、全員、一旦個室に戻った。
僕は洗面台で歯磨きをし、7時45分、祖母・マーガレットの遺骨箱を持って部屋を出た。
この時も、すでにドーラが廊下で待っていた。
アン女王を先頭に、レオ近衛師団長、シャーロット第二王女、オリビア第三王女の後ろを、僕とドーラは王城の奥へ歩いて行った。
当然、僕の両手には祖母・マーガレットの遺骨箱があった。
また、王城の奥も王家のプライベート区域だ。
そうやって歩いていると、西欧風の石の墓が並ぶところに出た。
墓の間には芝生が敷き詰められ、芝生の緑と石のコントラストが美しい墓地だった。
おそらく、ここが王家の墓なのだろう。
そしてそこには、デービス元老院議長、ソフィア叔母さん、その娘3人(アリシア、ベティ、シェリー)が黒い喪服を着て、待っていた。
ソフィア叔母さんにとって、祖母・マーガレットは伯母にあたる。
でも、会ったことはないはずだ。
なぜなら、祖母・マーガレットがこのオウゴウヌ王国から日本に渡ったのは59年前だ。
ソフィア叔母さんが産まれる前のことだ。
それにもかかわらず、参列してくれた。
とてもありがたかった。
いや、その5人だけではない、アーサー前元老院議長とトーマス公爵も黒い喪服を着て待っていた。
何度も言うが、祖母・マーガレットが、オウゴウヌ王国から日本に渡ったのは59年前だ。
つまり、参列者のほとんどは、祖母・マーガレットが日本に来た時は生まれる前であったろう。。。
まあ、もしかしたらアーサー前元老院議長は、祖母・マーガレットに会ったことがあったかもしれないが。。。
だが、おそらく彼の亡き妻・セシリアと結婚する前であったろう。。。
だが、それでも、、、
アーサー前元老院議長の亡き妻・セシリアの姉、祖母・マーガレットの納骨式に参列してくれた。。。
そして、セシリアの息子であるトーマス公爵にとっても、祖母・マーガレットは伯母にあたるからと言って、わざわざ納骨式に参列頂いた。
とてもありがたかった。
8時になると、白い服にクリーム色の法衣を羽織り、クリーム色の帽子をかぶった男性が、微笑みを浮かべて、歩いて近づいてきた。
その男性は初老で深いしわの刻まれた、ふくよかな体形の身長170cm程で、銀縁の丸い眼鏡を掛けていた。
ま、あとでメルヴィン・リントン司教と知るんだけど、彼はオウゴウヌ王国のガエリア教のトップだ。
あ、オウゴウヌ王国はアシエシア大陸にあり、アシエシア大陸において、創造神ガエリアを唯一絶対神とするガエリア教が広く信仰されている。
メルヴィン司教はいつもは首都レワヅワの最も大きな教会にいるんだけど、この日は祖母・マーガレットの納骨式のためだけに来てくれた。
アン女王は、墓地の正面にある、石のテーブルを指さし、僕に優しく語り掛けた。
「修司殿、伯母上・マーガレットの遺骨箱を、そこに置いてくれるか?」
僕は戸惑いながら、祖母・マーガレットの遺骨箱を、その石のテーブルに置いた。
すると、参列者は全員、石のテーブルに置かれた遺骨箱に向かって、片膝をつき、頭を下げた。
僕も慌てて、祖母・マーガレットの遺骨箱に向かって、片膝をつき、頭を下げた。
メルヴィン司教は、石のテーブルの前まで進み、右人差し指と右中指を立て、くっつけた。
そして右手を左上から右下に向けて、空を切った。
次に右上から左下に向けて、空を切った。
次に両手を広げ、空に向けて、言葉を発した。
でも、どんな言葉を発したのかは分からなかった。
後にドーラが教えてくれたのだが、メルヴィン司教が発したのは、アシエシア大陸の共通語で、アシエシア語だそうだ。
オウゴウヌ王国以外の国はこの言語を用いる。
オウゴウヌ王国は日本語とアシエシア語が公用語なのだが、今では日本語の方が主流だそうだ。
そしてドーラはメルヴィン司教の発した言葉を教えてくれた。
「(日本語訳)
創造神ガエリア様、亡き人(=マーガレット)をお讃えください。
全参列者よ、亡き人(=マーガレット)を讃えよ。
この者は遠き異国で、この大陸とこの国のために、生涯をささげた。
創造神ガエリア様、改めて申します。
亡き人(=マーガレット)の功績をお讃えください。
全参列者よ、この功績を讃えよ。
全参列者よ、この功績を長く讃えねばならぬ。この世が続く限り。
今、亡き人(=マーガレット)の魂は、母国に帰ってきた。
全参列者よ、亡き人の魂の帰還を喜べ。
全参列者よ、亡き人の魂を温かく迎えよ。
亡き人(=マーガレット)よ、母国で眠れ。
我ら、生きとし生けるものは、そなたの魂を永遠に守らん。」
メルヴィン司教の祈りが終わると、片膝をついていたアン女王が立ち上がり、祖母・マーガレットの遺骨箱を持った。
アン女王以外の参列者も立ち上がった。
メルヴィン司教は歩き出し、その後をアン女王が続いた。
そして、僕を含む参列者は、アン女王の後を歩いた。
数分歩くとメルヴィン司教はある墓に足を止めた。
先ほど言ったように、王家の墓は西欧風の石の墓なのだが、その墓は日本風の石の墓だった。
しかも、日本語で刻まれており、左側に白字に縦書きで祖母・マーガレットの名前が、つまり、『和泉・オウゴウヌ・マーガレット』と刻まれていた。
右側には赤字で縦書きで祖父・賢治の名前、つまり『和泉 賢治』と刻まれていた。
メルヴィン司教は微笑み、その墓に向けて、右手を向けた。
アン女王は振り返ると、僕に語り掛けた。
「修司殿、墓の石の蓋を開けてくれるか?」
僕はその墓に近づき、石の蓋を開けた。
すると、そこには遺骨壺が2つ入るほどの空間があった。
アン女王は片膝をついた。
すると、参列者全員が片膝をついた。
アン女王は僕に語り掛けた。
「修司殿、マーガレット伯母上の遺骨を、そこに収めてくれるか?
その後、石の蓋を閉めてくれるか?」
僕は、アン女王がもっていた遺骨箱から遺骨壺を取り出した。
次に墓の空間に収め、石の蓋を閉めた。
メルヴィン司教は墓の前まで進んだ。
そして、再び、右人差し指と右中指を立て、くっつけ、右手を左上から右下に、次に右上から左下に向けて、空を切った。
そして、墓に語り掛けた。
この時もメルヴィン司教はアシエシア語で墓に語り掛け、後にドーラが訳してくれた。
「(日本語訳)
亡き人よ(=マーガレット)、ここで眠れ。
そなたの両親のそばで。
そして両親とここで永久に語り合えばよい。
長く離れて暮らしていたのだから。
便りも出せぬ遠い地で生きてきたのだから。
我ら、生きとし生けるものは、ここを永遠に守らん。」
そしてメルヴィン司教は微笑み、王家の墓から去っていった。
突然、アン女王は涙を流した。
そして隣の西欧風の石の墓に語り掛けた。
「ミッチェルおじい様、チェルシーおばあ様、
マーガレット伯母上が立派に勤めを果たし、
オウゴウヌ王国に帰ってまいりました!
どうかマーガレット伯母上を褒めてやってください!」
そう、後に知ったのだが、その墓は僕にとっては曾祖父の『ミッチェル・オウゴウヌ』と曾祖母の『チェルシー・オウゴウヌ』の墓だったんだ。
チェルシー・オウゴウヌは祖父・賢治が60年前、オウゴウヌ王国を訪ねた時の当時の女王で、僕にとっては高祖父と高祖母の『和泉 洋治』と『和泉・オウゴウヌ・ヘレナ』の遺骨をオウゴウヌ王国で弔いたいと願い出た時、喜んで受け入れた人だ。(第13話)
祖母・マーガレットにとって、『ミッチェル・オウゴウヌ』と『チェルシー・オウゴウヌ』は両親にあたる。
そしてアン女王は涙を流しながら、斜め前の西欧風の石の墓に語り掛けた。
「ブリジット母上、59年ぶりにマーガレット伯母上が帰ってきました!
母上、伯母上との再会をお喜びください!」
これも後になって知ったのだが、その墓は僕にとっては母方の祖母の『ブリジット・オウゴウヌ』の墓だった。
祖母・マーガレットにとって、『ブリジット・オウゴウヌ』は妹にあたる。
アン女王はなおも涙を流しながら、空に向けて語り掛けた。
「セシリア叔母上、59年ぶりにマーガレット伯母上が帰ってきました!
叔母上、伯母上との再会をお喜びください!」
祖母・マーガレットにとって、『セシリア・ライト』は妹にあたる。
『セシリア・ライト』はアーサー前元老院議長の亡き妻であり、トーマス公爵の亡き母だ。
アン女王は涙を拭い、墓に向けて語りかけた。
「最後にマーガレット伯母上、長い間ご苦労様でした。
遠い日本で大変だったでしょう。」
僕は墓に向けて手を合わせた。
そして、スマホで墓を撮影した。
1年後、日本に帰ったら、祖父・賢治に写真を見せなくちゃならないから。。。
その後、アン女王は僕を連れて、斜め前の西欧風の墓、『ダグラス・オウゴウヌ』と『ブリジット・オフゴウヌ』の墓に行った。
そしてアン女王は墓の前でしゃがむと、父・普一と母・エリーゼからの手紙を墓に供えた。
アン女王は手刀を右から左へ、そして左から右へと切った。どうもこれがガエリア教の作法らしい。
僕は手を合わせた。
アン女王は優しく墓に語り掛けた。
「父上、母上、、、
マーガレット伯母上とエリーゼ姉上と普一殿からの手紙です。
天国でお読みください。
それと、父上と母上のエリーゼ姉上への手紙は、
余の娘ドーラが、つまりお二人の孫のドーラが、
ちゃんと届けてくれましたよ。。。
そして、今、お二人の前にいるのが、
エリーゼ姉上の息子、つまりお二人の孫の修司殿です。。。」
僕は慌てて墓に語り掛けた。
「どうも、はじめまして、孫の修司です。
直接お会いできずに残念です。」
アン女王は振り返り、ドーラに語り掛けた。
「ドーラ、修司殿に和泉家の墓を案内してやれ。
たぶん、和泉家の墓は修司殿は始めてのはずだ。」
ドーラは戸惑いながらうなずいた。
アン女王は立ち上がり、ドーラ、シャーロット第二王女、オリビア第三王女に語り掛けた。
「それと、ドーラ、シャーロット、オリビア、今日は夕方まで休みにいたせ。
昨日まで4日間、大変だったのだから。。。」(第7話~第9話)
ドーラ、シャーロット第二王女、オリビア第三王女は黙ってうなずいた。
アン女王は苦笑いを浮かべ、レオ近衛師団長とデービス元老院議長に語り掛けた。
「さて、レオ、デービス、我らは仕事に戻ろうかの。。。
昨日までの4日間、全く仕事をしておらん。。。
溜まりに溜まった仕事を片付けねばならん。。。」
レオ近衛師団長もデービス元老院議長も苦笑いを浮かべ、黙ってうなずいた。
アン女王は再びドーラ、シャーロット第二王女、オリビア第三王女に語り掛けた。
「数日、余とレオは帰りが遅くなる。
昼食も夕食も一緒には食えぬだろう。
しばらく一緒に食えるのは朝食だけじゃ。
少なくとも、今日の昼食と夕食は、姉妹と修司殿だけで食すのじゃ。」
そう言うと、アン女王とレオ近衛師団長とデービス元老院議長は政府庁舎区域に向けて歩いて行った。
ソフィア叔母さんは娘3人を連れて、どこかへ歩いて行った。
トーマス公爵もアーサー前元老院議長を連れて、どこかに歩いて行った。
シャーロット第二王女、オリビア第三王女は、宮殿に向かって歩いて行った。
僕とドーラは王家の墓に残り、ドーラはため息をつくと、僕に語り掛けた。
「それでは、修司殿、和泉家の墓を案内しよう。」
そう言うと、ドーラは和泉家の墓を案内してくれた。
120年前、初めてオウゴウヌ王国を訪れ、119年前、初めて日本にやってきた、僕の高祖父と高祖母の『和泉 洋治』と『和泉・オウゴウヌ・ヘレナ』の墓を。。。
そして90年前、オウゴウヌ王国を訪れ、89年前、日本にやってきた、僕の曽祖父と曾祖母の『和泉 正志』と『和泉・オウゴウヌ・アナースターシア』の墓を。。。
2つの墓とも、祖母・マーガレットの墓と同じ共通点があった。
それは、オウゴウヌ王国の両親の墓が必ず隣にあるのだ。
例えば、僕の祖祖母の『アナースターシア』の墓の隣には、『アナースターシア』の両親である、『テッド・オウゴウヌ』と『ジャネット・オウゴウヌ』の墓があった。
きっと、、、遠く引き離されてしまった両親と娘の墓を近くに置き、亡き人の悲しみを癒そうと言う配慮なのだろう。。。
僕はふと、ドーラを見つめた。
本当にドーラは日本に来て良いのだろうか?
アン女王は涙を流し、僕にとって曾祖父と曾祖母の『ミッチェル・オウゴウヌ』と『チェルシー・オウゴウヌ』の墓に語り掛けた。
加えて、涙を流しながら、僕にとって祖母の『ブリジット・オウゴウヌ』の墓に語り掛けた。
本当は、アン女王は、
『ドーラが日本に行ってほしくないんじゃないんだろうか?』
と、そう思った。
次話は2026/3/9 12時に更新予定です。




