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第5話「晴れ、時々沼地」

 みなさんお久しぶりです。メイナードです。

先日3歳の誕生日を迎えました。こちらの世界に来てはや3年、色々な事がありました。


2歳の中程から練習してきた魔術も、結構様になって来たんじゃないかと個人的には思います。


そうそう、最近ではウィリアムから文字の読み書きを教わっていて、借りている魔術書や2階にある本も何冊か読んでいます。読んだ本の中で何冊か面白いものがあったので皆さんにも紹介しておきます。



1. 翠角獣の博覧誌


著者:ドロミル・フォス

この世界に棲む神獣、幻獣、魔獣、精霊生物などを、精密な挿絵と詩的な観察記録でまとめた大図鑑。

特に「翠角」と呼ばれる角を持つ一族は、神話と生態が密接に絡み合っており、一部は“古の神の落とし子”と呼ばれているらしい。



ページの様々な場所に小さな書き込みが残っており、どうやらキャロルもこの本を読み込んでいたようだ。

地球の生物とは全く違う生物たちが描かれていたで、いつか両親と冒険に行ってみたいものだ。



2. 影狩りグリモア


筆者:不詳


この本は表紙に魔除けの銀釘が打たれていた。

「影を喰らう影」の異名を持つ悪神と、それに挑んだ

“狩人”たちの血塗られた戦いが記録されている。

記述には一切の美化がなく、冷徹なまでの現実。

だが巻末には、“影を封じる術式”とともに「光の使者の誕生」が予言されていた。



なんというか、ダークファンタジー系の小説を読んでいるような感覚だった。大昔の大戦について記述してあり、この世界の大陸に大きな亀裂が走り、そこが海となったのは大戦の名残りらしい。一度見てみたい。



3.灰の王と六つの鍵


著者:ミラヴェル=エン


神話の時代、世界を焼いた“灰の王”が、6つの「封印鍵」によって眠りについたという伝説。

鍵の1つは現在の王国の地下に眠っているとされ、残りは各地の聖域や遺跡に隠されているらしい。



世界を焼いたり大陸を割ったりする話が続き、内心半信半疑だ。そんな事が出来るのであればとんでもない魔術が存在するという事だろうか。



4. 秘環の円環術


著者:リヴェル=アマス


円を描くことから始まる、失われた“古代形式魔術プリミティブ・サークルアーク”についての魔術理論書。

魔法陣の意味や構造、詠唱との連動、感情との共鳴関係などを体系的にまとめた一冊。

応用例には「風の拘束円」や「記憶への接続環」などがあり、読者の魔力に反応してページが“浮き上がる”仕掛けが施されている。



古の魔術の本だった。どうやら昔は詠唱ではなく魔法陣のようなものを描いていたようだ。庭の隅に魔法陣のようなものがあった事から、キャロルがかつてこの本の一節を使って、庭になんらかの魔術を施しているのだろうか。



5. 赤月録─ヴェイル神話注解


著者:神話記録官メザニル=フレア


この世界の月がかつて“血の色”に染まった時代を記した伝承集。

世界創成における“語られざる第三の神”や、悪神と対をなす善神がかつて交わした「永絶の盟誓」が断片的に記されている。

記述は多くが詩的かつ象徴的で、全貌を理解するには長い時間がかかりそうだった。



月が赤く染まるのは見てみたい気がするが、こちらの世界では不吉な事だろうし、なんでも良い神様と悪い神様同士が交わした約束が「互いに手を下さぬこと」

らしいが、それが破られる度に赤い月が現れるらしい。



 これら以外にも本は沢山あって、まだまだ読めていないものが多いでじっくり読み進めていこうと思う。

本は心の栄養って小学生の頃の先生が言ってた気もするしな。


 そして今読んでいるのがこの「星環の綴」という本だ。自分で読んでおいてあれだが、どれも3歳児が読むような本では絶対ないはずだ。こういう本を平気で読ませる両親には如何なものかと思うがな。


もっとこう、絵本とかあるだろ?将来2人目とか3人目の子供が出来た時に絶対苦労するぞまったく…


 しかし俺的には魔術を学べるならそれに越したことはないのだ。


 この「星環の綴」は魔術に関する事から上級的な事までが網羅されてある、学術書だ。

つまり、この本に書いてある事が出来るようになれば魔術の土台固めは出来たということになるはずだ。


 以前魔術を使うにあたり、条件があるんじゃないかと予想していたのを覚えているだろうか?


「詠唱」」と「構成力(イメージ)」の2つだ。

結論から言うとこの2つは間違っていなかった。予想の段階で2つも合うだなんて俺って魔術の才能あるのかもしれないな。うんうん。


失礼、詠唱と構成力を含め、全部で5つの条件があることが分かったので、詠唱と構成力を含め全部紹介します。



1.魔素の受容(受質)

術者の体内に「魔素マナ」が自然に循環している必要がある。

生まれつきの体質や、後天的な修練で獲得できるが、魔素に適応できない者も存在する。


2.詠唱(言葉による指向)

魔術は"形のないが"を "形ある現象"に変えるため、言葉(言霊)による「定義づけ」が必要。

短けでも構わないが、精度や安定性に影響する。


3.術式の構築(意識の設計)

魔術は「心の中で形を作る」ことで発動する。

術者は現象の構造を頭の中で明確にイメージしなければならない。これが"構成力"と呼ばれる魔術師の資質の一つ。


4. 魔素の流動(操作)

魔素は"血流に近い”とされ、精神と呼吸を通して動かす必要がある。心が乱れれば魔術は暴走し、力が届かねば発動しない。

また魔術を使いすぎると魔素切れを起こし魔素が回復するまでは魔術の使用が出来なくなる。


5.触媒・媒体の使用(条件による強化)

強力な魔術や精密な術式には、杖・印章・石・呪具などの触媒が必要な場合がある。

また、属性適性や天候・環境といった外的要因も成功率に影響する。



 新たな知識を得る事が出来て、何か前進出来た気がした。まあ、知っていても実践出来なければ意味はないのだが。

だが1番の収穫は新たに魔素という存在を知れたことだ。

生まれつきの体質などで魔素に適応出来ない人もいるらしいが俺は魔術を使えたことだし問題ないだろう。


詠唱することで空気が止まったり動いたりし、水や火が生成される事から、目には見えていないだけでこの世界には常に魔素が存在し、その形や属性を変えているだけなんだろうな。


もっと俺の中の魔素量を増やして上級魔術を扱えるようになれば本に書いてあるようなすごい魔術も使えるようになるはずだ。さすがに大陸を割ったり焼き払ったりはしないが、、、

 



-----





 本を読み深めながら練習する日々が続いたある日、

平穏な練習に終止符が打たれた。


 その日はよく晴れた日だったので、家の外で魔術の練習をしていた。生活魔術の発動にも慣れたので、初級魔術に手を出してみた。


 すると意外にも初級魔術はどれもすんなりと発動出来たため、調子に乗って中級魔術に挑戦してみたんだが、それがあんなことになるとは……

  


 「よしよし、生活魔術も思うように使えるようになって来たし、そろそろ初級魔術にも挑戦してみようかな!」


庭に散らばっている落ち葉を風の生活魔術で1カ所に集め満足げに呟いた。


火を灯したり、水を軽く出してみたり、風を吹かせたりする事が思うように出来るようになった。

最初は難しかった生活魔術も今では詠唱もせずに、魔術が発生する時の感覚を思い出し、集中する事で無詠唱で発動出来るようになった。

無詠唱についての記述は今のところ確認していないため、もしかしたら俺は凄いことをやっているのかも知れないな。


 生活魔術の次の段階といえば、初級魔術に相当するため俺は初級魔術に挑戦することにした。

そうそう、魔術は生活魔術という誰もが扱える簡素で魔素への負担が少ないように昔の魔術師たちが創り上げたものらしい。


 そして生活魔術とは別で戦術魔術というものがある。戦術魔術は攻撃や防御などを行うための魔術だ。


戦術魔術は「初級」「中級」「上級」「高位級」「王級」「聖級」「禁級」「神級」

という具合に8段階に分かれているらしい。

高位級までは結構使える人数も多いらしいが、王級になると両手で数えられる程にまで減少し、それより上はもう伝説中の伝説だとか。


 本の中に載っていたものは初級でも充分人を傷つけうる効果があるものが載っていたので、慎重に魔術を選ぶ必要がある。


そこで選び出したのが水飛礫(アクアスプラッシュ)だ。


効果としては「手のひら大の水球を放つ単体攻撃。命中しても致命傷にはならず、牽制や気絶を狙う。」

初めての初級魔術にうってつけだ。


水を出すイメージは生活魔術の反復練習で慣れているので、あとは俺の中の魔素量が足りるかだ。


「澄みゆく水よ、掌に集いて放て、水飛礫(アクアスプラッシュ)


いつもより慎重に唱えてみる。狙う的はとりあえずは庭に生えてる木だ。

すると前方に向けた手から直径30cm程だろうか、手のひら大より大きめだが、形も揺らぐことなく真っ直ぐにそこそこなスピードで射出された。


木に命中しバシャリと音を立て霧散し、命中した部分は木の皮が捲れていた。初級といえども相当な威力に違いない。


とはいえ初級魔術の詠唱に成功したんだ、大きな前進と言えるだろう。

もう1度詠唱し今度は空に向けて2発連続で射出する。


15m程上昇した後に弾けて消えたのを見ると、射程距離なんかもあるみたいだ。よく考えたら重力に逆らって打ち出している訳だし、銃弾の威力も遠くに行けば行くほど弱まるんだ、そんなもんだろう。最初にしては上出来だと自分を褒めたい。


 今ので合計3回の初級魔術を発動したんだが、疲労感も特に感じないし、初級魔術は3歳の俺にも扱えるぐらいの魔素量しか消費しないんだろう。

案外ちょろいのかも知れないな。


『この調子で中級もやってみるかな』


一応中級の中で一番危なくなさそうなものを吟味する。

同じ水系の魔術のページを何枚か進んだら、丁度良さそうな魔術があった。


魔術名:水紗の帳(アクアヴェール)

詠唱例:「静かに滴りて流れ集え、水の帳よ、地を包め」

効果概要:術者を中心に半径数メートルの範囲に、透明な水の膜と薄い霧を同時に発生させ、視界を遮りながら地面を湿潤化する。敵の足元を滑りやすくし、火系の術を打ち消す補助効果も持つ。


間違えても家や庭へのダメージが無さそうなこれなら問題ないだろう、せいぜい庭が水浸しになるぐらいだ。

早速詠唱してみる。


「静かに滴りて流れ集え、水の帳よ、地を包め

水紗の帳(アクアヴェール)!」


唱えてみると自分を中心に霧が発生し、地面が水浸しになった。


『やった、中級も成功だ!』


と思ったのも束の間、霧がどんどん濃ゆくなり、次第に1m先も見えなくなってしまった。そして少し水が張っているぐらいだった地面がぐちゃぐちゃになり、くるぶしが埋まるほど、柔らかくなってしまった。

まるで古い森の中にある沼のようになったみたいだった。


『…まずい!どうにかしないとッ…!』


どうすればいいの必死に考えるも、危機的状況下において冷静な判断を下すのは難しいものだ。


 どうにか思いついたのがまずは視界を遮る霧をなくす事だった。けれど生活魔術で起こす風の流れで霧を飛ばす算段だったが、いくら詠唱しても霧は晴れるどころか益々濃ゆくなる一方だった。

それにさっきはくるぶしまでだったのがどんどん深く沈みだし、脛の中程まで沈んでしまった。


 このままだと家の庭に底なし沼を生成したのが俺の死因になってしまう。なんて事を思っていたら、後ろから颯爽な足音がし急に腕を掴まれて沼から引き上げられた。


 水上を駆けて来たのだろうか、ウィリアムが助けてくれたのだ。


父親としての彼は普段キャロルに小言を言われて尻に敷かれているし、最近気付いたのだが少しだらし無い部分もあるのであまり尊敬していなかったが、あの泥沼の上を駆け、助けに来てくれたことには感謝しないといけない。


「ありがとうございます」と口を開きかけた時に、凛とした母の声が響き渡った。


「燃えよ焔、風を伴い、霧と化せ!熱風衝波(スチームバースト)!」


その魔術が発動されると立ち込めていた霧は瞬く間に消え、泥沼のようになっていた地面は水分が消え、雨上がりぐらいの水分量まで戻っていた。

あまりに一瞬の出来事だったので口を開けたまま庭を眺めていたら、満面の笑みのキャロルと目が合ってしまった。


『あ、まずい、これは怒ってる人の顔だわ』


と、瞬時に察知した俺はすぐに謝罪を行った。


「か、母様、庭をこんなにしてしまってごめんなさい…」


そう言って頭を下げるもキャロルからもウィリアムからも何の返事も無かったので、下げた頭をやや戻し、上目遣いで2人の様子を伺う。


ウィリアムは驚いた様な表現をしていた。

キャロルは驚きつつも何か真剣な表情を浮かべていた。


「メイ、こりゃまた派手にやったな〜…あっ!母さんが大事にしてるマナユズの木の皮がめくれてるじゃないか……」


「えぇ全く、この子は庭で何をしていたのかしらね?!お陰で洗濯物も植物も滅茶苦茶じゃないの!

木にも傷つけちゃって!庭はお母さんとお父さんがどうにかしておくから、メイは着替えてらっしゃい!」


そう言われて家に戻った。


『あぁやってしまったな…的にしていたあの木はキャロルが大事に育てていたものらしいし、地面はぐちゃぐちゃ…中級魔術に手を出すのは早かったか。』


初めての戦術魔術に発動の成功、調子に乗りすぎたのが原因だ。やっぱり誰かと一緒じゃないともしもの時にどうすればいいかが分からない。


 今日の失敗は成功続きだった俺にとっては結構ショックな事だった。


 



-----





「ねぇあなた、これどう思う…?」


2人の眼前には先ほどとは一変し、深い森の沼地のような景色から、雨が上がった後のようないつもの我が家の庭へと戻っていた。


「正直驚きだな…生活魔術はだいぶ扱えるようになって来たと思っていたが、いきなり中級魔術を使い出すとはな」


「確かにそうね…いきなり中級魔術の水紗の帳(アクアヴェール)を使えたのにもびっくりだけど、私が気になったのはあの霧の濃ゆさと地面が沼のようになっていたところよ…あの魔術はあんなになる事はないんだけれど…」


「ハッハッハッ!確かに森の中でもあんな霧はあまり見た事ないな!扉を開けた瞬間びっくりしたよ」


「もうっ!笑い事じゃないわよ、3歳の子供が初級を使えるって話しも聞いた事がないのに中級を使って魔素切れを起こして様子も無かったじゃない?きっとメイには才能があるのよ!もっとあの子を伸ばせられるように頑張らないと!」


「おいおい、男の子だったら剣術、女の子だったら魔術って生まれる前に話し合ったじゃないか??」


「ふふっ、そんな事話したかしら?忘れちゃったわ、とりあえず庭を戻して今後のことについて話し合いましょ」


「ちゃんと剣術も教えるからな!」というウィリアムの言葉を背にはいはいとキャロルは返事をしつつも

庭を元に戻す作業に取り掛かるのであった。







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