1200cc
いつものように道の駅で休憩をしていた。
天気もよく、そろそろ春を迎える季節は太陽が明るい。いい季節だ。
天気がいいのにバイクは少な目だった。
大型バイクの3人組と駐輪場で一緒になった。中でも水平対向エンジンの1200ccのアドベンチャーバイクは大きさが際立つ感じだ。俺の相棒が小さく見える。
3人組が会話をしている。
「今日は思ったよりバイクが少ないね」
「あんまり多いと走りにくいから、ちょうどいいよ」
などと他愛もない会話だ。
その中の1人が話しかけてきた。
「どこまで行くんですか?」
「特に決めてないんですけど山でも走ろうかと思ってるんですよ」と応える。
「バイクが小さいと遠出は大変ですよね、大きい方が絶対に楽ですよ」などと言う。
「こいつはよく走るんで、乗りやすいですよ」と応じた。
お互いに軽く頭を下げて、3人組は走る準備をして道の駅を出て行った。俺もそれに続いた。
MT-07にまたがって、ふと今の会話を思い出した。
「ん?今、こいつをバカにされていたのか?」
思い出して少し腹が立ったが、すでに3人組は先に走り去っていた。
会話の通り俺は峠に向けて右折した。本当の名前を知らないが、俺が勝手に命名した「諏訪林道」だ。全線舗装路なので林道と言うと少し合っていないのかもしれないが、名前がないと他の人と話が通じないので命名してみた。
少し山に向けて登った後、2つくらいコーナーを曲がると、さっきの1200ccのアドベンチャーバイクが前を走っているのが見えた。
自分なりのペースで普通に走っていたら、すぐに追いついてしまった。
特にペースを上げているつもりもないのだが、勝手に車間が詰まるので必要以上に詰めないよう気を配る。
こういうシーンでは軽さは絶対だ。制動でも旋回でも立ち上がりでも軽いというだけでかなり有利だ。
突っ込みと言うほどでもないコーナーの進入。エンジンブレーキだけで入る。旋回中はフロントブレーキを握らないといけないほどだったので減速で挙動が乱れる。立ち上がりは少しだけ車間が開くが離されるほどでもない。
「おや?さっき偉そうに言っていたけど、俺の相棒の方がすごくない?」と思ってしまった。
走っているうちに自分の中にも冷静な思考が巡って来た。
「そっか、1200ccは『楽』って言っていたんだっけ、速いとは言ってなかったよな」
車間を詰めないよう大きくマージンを取って、後ろから1200ccを眺める。水平対向エンジンはエンジンの張り出しが大きく、バンクさせると擦るように見える。大柄な車体は車線をはみ出さないライン取りが必要だ。重い車体は制動距離を長くする。どの要素もツーリング向きで峠で走る物ではない。
「そもそも、排気量がデカいからって威張っていたように感じるのと同じで、軽い車体で威張ってみても同じ穴のムジナだよな」などと思ったりもする。
峠を登って下る。川沿いに出る。川の向こうには水穴と言われる洞窟がある。洞窟に少しだけ目をやる。
本来なら梅の季節に来るべき場所だが、梅の季節は過ぎていた。
花や木に合う季節があるように、バイクにも合った使い道があるのだ。
1200ccのアドベンチャーにはツーリングで絶大な信頼感があり、遠い道のりに向くだろう。
俺の相棒は遠くに行く必要はない。でも、どんな狭い道でもスイスイ走る。
次の交差点で1200ccは広い国道に曲がり、俺のMT-07は狭い道を直進した。
言葉は変なやり取りだったが、きっとあのライダーも自分のバイクが好きに違いない。
それ以上でもそれ以下でもない。ただ走る事が好き、それだけなのだ。
夕日は今日も道路を照らしていた。そこに自分の影があろうが、なかろうが、いつも同じで暖かいのだ。




