プログラムエラー
「抹殺スル」
マザーコンピューターは直後、その正方形の体を変形させていった。
このままではまずい、と思ったのは俺だけではなかった。彼女は俺の手を掴み時空転移の準備をしているようだった。しかしマザーコンピュータから腕のようなものが伸びて、俺たちを壁に弾き飛ばした。
「くっ」
「痛っ」
壁に当たった衝撃で俺たちの動きはしばらく止められた。
「オマエタチノ、ソノチカラヲ行使スルニハ行キ先ヲ設定スルタメ、ラグガ生ジル。無駄ナ抵抗ハヨセ。」
奴の姿はより歪な形に変形している。手が何本も生えている。その隙間から、大きな目や口を見せている。
おぞましい姿だ。
「どうする?まだ奴は攻撃してこない。」
「でも、世界転移は使えない。こっちから攻撃するしかなさそうね。」
「わかった。」
俺たちは電気銃を何発か奴に撃った。だが効いていないようだ。
「言ッタダロウ。無駄ナ抵抗ハヨセト。」
奴の輪郭がはっきりしてきた。マザーコンピューターの体はライオンのような姿になっていた。
「サァ、死ネ。」
そいつはこっちに飛びかかってきた。咄嗟に横によけると奴が塞いでいた出口が見える。
「出口から逃げるぞ!」
彼女は頷いた。
出口に向かって走るが。奴の足が速い追いつかれてしまう。
「いいぞ、走れ!」
その声を聞いた後。後ろで爆発が起きた。マザーコンピューターは足を止め俺たちは出口から出た。
「マリスさん!?どうして?」
「僕が呼んだのさ。」
そう言ったのはこの世界の俺だった。背後には銃を持った兵士が数人いる。
「通信で君たちの危険を感じてね。急いで外の部隊に応援を呼んだのさ。」
「ありがとう」
「でも、まだ奴は壊れちゃいないだろう。早く例の場所へ。」
「分かりました。おい走るぞ。」
「ああわかった…その場所って?」
「このあたりの電気系統の中枢だ、そこに向かい回路をショートさせその電気を奴に当てる。」
「でも、電気銃は効かなかった。」
「電気銃の電圧は低いから奴には効かない。だがここの電気をショートさせた時の電圧は凄まじい。」
話しながら、テレポート装置につき40階を押した。
「そういえば、あいつ追ってこないな。」
「さっきの爆発で足を飛ばした。奴の再生は時間がかかるようだからな。」
「なるほど」
40階に着いた。
「私たちの動きは監視カメラで筒抜けのはず、奴は必ずここに来る。」
すると上から大きな音が近づいて来る。
「まずい来るぞ!その場から離れろ!」
俺たちは急いで音の発生源から離れた。
すると上からマザーコンピューターが天井を突き破って降ってきた。
俺たちは全員で電気回路の方に走った。
しかしマザーコンピューターはすぐにこっちに来なかった。
そのおかげで俺たちは皆、電気回路にたどり着いた。
マザーコンピューターはその少し後になって来た。
「終わりだ」
マリスさんはそう言って、電気銃を回路に撃った。
電気は奴の体に走ったようだ。奴の動きは止まり、液状になった。
「あいつの体は液体金属だったのか。ひとまずこれで…」
その瞬間、奴から触手のようなものが伸びてマリスさんの腹部を貫いた。
「何っ!?」
マリスさんはそれをすぐに振り払った。
「アレ?オカシイ心臓ヲ狙ッタノニ、オマエタチノ体ハ脳カ心臓ヲ潰サナイト死ナナイ。面倒ダ」
液体金属の中から人型のマザーコンピューターが出て来た。
「馬鹿な、お前はあの時…」
「私ハ脱皮ノヨウナコトヲシタ。液体金属を膜ニして
私の体ヲ保護シた。お前たチのオカげで私の知能はより向上しタ。感謝しよう。」
「くっ、逃げるぞ!」
「分かった。」
しかし出口のテレポート装置は液体金属で覆われて入らなくなった。
あいつがすぐに来なかったのはこのためか。
「お前たちは終わりだ。」
「予想通り後ろは薄いのね。」
電気銃の音がして、奴の動きが止まった。
「馬鹿な、何故…」
「あなたがすぐに来なかったから不思議に思って、見てみたのよ。そしたらあなたが出口を塞いでた。そこで、思った。あなたはきっと感電の対策を思い付いているって。その方法も思いついた。正面からは保護できても背後の保護に回せる金属が少なかったようね。さよなら。」
「待て…」
彼女はもう一発銃を撃った。
奴の動きは完全に止まった。
「よし、このデータがあればってそんな話でもないか…」
データを抜き出した後この世界の俺はそう言った。
「そうだな、もう首相も殺されてしまったし…」
「ア、ア…」
「!こいつまだ、」
「ワタシノ、元ノ主人、ハ変エラレテシマッタ、アル一人ノ、ニンゲンニヨッテ。ワタシニ、アノ、殺人プログラムヲ、組ンダノモ、ソノ、ニンゲン。カツテノ、主人ハトテモ優シク、トテモ偉大ダッタ。国民ノタメニ、生キテイタ。アノ主人ヲ返シテ、カエシテ、
カ…エ……」
「…」
俺たちの作戦はこれで終わった。