路地裏の追憶
物語というより創作イラストのキャラの活躍をまとめたものなので、物語の中では登場人物や世界観の説明は省いています。
pixivで登場人物やイメージイラストを公開しています。
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家が貧しかったため、気付けば十代前からチンピラのつまらない用事をこなして日銭を稼いでいた天宮夜総会のオーナー、ラム・ユンホン。
買い物の使いっ走りからはじまり、年齢と経験が上がるにつれて格上の仕事を任され、十代半ばには金銭の回収に配属される。
スムーズに金銭の回収が出来ればいいが、取り立てに行った相手が金がないと自暴自棄になって暴れ出したり、逆切れしてラムをボコボコにする事も珍しくなかった。
当然手ぶらでチンピラの元へ帰れば再びボコボコにされる、その繰り返しだった。
ラムの両親はチンピラの手先になるのはやめろと言うが、その日食べるのもやっとで家族が多い現実ではそう言ってられないのも事実。
それに、いつかチンピラの手が伸び家族を巻き込むのも厄介だと考え、ラムはある日を境にやむなく家族との縁を切り姿を消した。
それからというものチンピラの元でいいように使われながら命をつなぐようになる。仕事のない日は特にすることもないため兄貴分たちとアジトでだらだらと過ごす。
度々チンピラが見ていたカンフー映画を盗み見しては、誰もが寝静まった夜、一人見よう見まねで武術を身に着けていた。
成人する頃には仲間内で頭を争って内部抗争が起き、それをきっかけに長らく身を置いていた集団から離れクーロンを拠点とする別の集団に所属する。だが、とあることで仲間と大きな喧嘩を起こして追い出されて以降、どこかに所属することはせず、個人で用心棒として生計を立てる。
ある日、用心棒の依頼が来る。
依頼人の交渉相手と取引が成立するまでの警護の契約。依頼人が取引相手と交渉するためにその相手先の部屋へと向かっていると、路地の片隅に物乞いをしている薄汚れた幼児が座っていた。
ここではありふれた光景。とはいえ、自分の幼い頃を重ねる。チンピラの元で稼いでいなかったら、家族と一緒に居れたが自分もこうなっていたのだろうか。どちらが正解なのかわからない。
それから警護の付き添いをしているとなにかとその幼児を見かける。
幼児はラムの顔を覚えたのか、目が合うと口を緩めて笑って見せたがラムは無視をして通り過ぎた。
ある日、屋外で一服しているとあの幼児が気になりいつもいる路地へ向かってみる。
すると、いつも小銭を入れる皿を両手で持って座っているはずの幼児が地べたに横たわっていた。さすがに腹でも減らしたのかと近づいてみると、幼児の顔と体はまだらに青黒くむくんでいた。
「誰にやられた?うちのモンがやったのか?」
幼児は生気もないまま頭を振った。
ラムはとりあえず食べ物をやり、怪我の手当てをしてやった。
次の日も幼児がどうなったのか気になり様子を見に来ると、ちょうど一人の中年男に髪を引っ張られ、顔をひっぱたかれている瞬間を目撃する。
直感で父親だと思ったラムはすぐさま止めに入った。
「てめぇの子供に何してんだ!」
「お前か!昨日こいつに飯を食わせたのは!飯よりも金だ!現金をよこせ!どうして金じゃなく飯なんかやったんだ!」
父親から幼児を引きはがすも、幼児はラムに食事をもらったことをひたすら父親に謝っていた。
「タダ飯ぐらいが!稼ぎがないならどうなるか、オレと約束したよな?」
父親はポケットからナイフを取り出して見せた。
「腕の一本と目ぇ、どっちにすんだ?」
ラムは父親の言っている言葉の意味が理解できなかった。だが、幼児は一瞬考えた後口を開く。
「目にしたら稼ぎが良くなる?」
「そりゃあもちろん。なんなら腹の中の物を出してもいいんだぜぇ」
「じゃあ、目にする!」
そう答え終わるとすぐさま父親はナイフを幼児の目をめがけて振り下ろした。
「おい、何を考えてるんだ!やめろ!」
ラムは咄嗟に父親の腕を掴む。そして悟った。
社会的弱者にすれば、より哀れまれる姿にさせて物乞いをさせれば、より大勢から同情され、より多くの金を恵んでもらえる。そのために子供の目を失明させるつもりなのだ。
「手を放せ!こいつは俺の子供でもなんでもねぇ。こいつの母親が借金の肩に置いてったんだ。俺の物をどうしようが勝手だろうがよ!なんならてめぇが金を払うか?」
ラムは父親だと思っていた男の頬を思い切り殴りつけた。
男は背後の壁にたたきつけられるように勢いよくぶつかり、うめき声をあげた。
「痛ェ…。おい…シュエガオ!ナイフであいつを刺せ。そしたら飯を食ったことは許してやる。むしろ殺したら褒美をやるよ」
そういってシュエガオの傍に落ちた自分のナイフをあごで指し示した。
「お前の代わりにあいつの目を奪えッ!」
「てめぇ…」
ラムは恐怖でこんな小さな子供を支配し、子供を盾にするようなこの男に怒りが噴き出る。この男をぶちのめすのはラムにとっては簡単だったが、今のままの勢いで殴り掛かれば行き過ぎてしまうかもしれない。
シュエガオは自分の足元に転がっているナイフを拾い、怯えた目でラムを見つめる。
「来い、怖がらなくていい」
ラムは自分からシュエガオに近づき、ナイフを握るシュエガオの手に自分の手を添えた。
「訳がわからなくても生きなきゃいけねぇ。お前だって一生懸命に生きてるんだろ?」
ラムは自分の右目にナイフを突きつけよう、というところで、シュエガオも幼いながらも渾身の力でそれを振り払った。が、その反動でバランスを崩し刃先が目の下をかすめ、血が一筋流れ落ちた。
シュエガオはショックを受け、恐怖し、ナイフを手放した。
そして小さな声で一言呟き、大粒の涙を流し始めた。
「助けて」
ラムにはそう聞こえた。
「こいつの親の借金はいくらだ?」
「膨れ上がってらあ。返したと思ったらまたギャンブルに手をだして借りに来るとんでもねぇ母親だ」
ラムはズボンのポケットから取り出した札束を男に向かって投げた。
「今あるのはこれだけだが、これだけあれば2か月くらいは普通以上の生活が送れるだろ。あとはお前が母親に金を貸さなければいい話だ」
「2か月?たったの2か月で我慢しろと??」
男が全身で不満を表している所へ、ラムの依頼人が現れた。
「探したぞ、こんなところで何してたんだ??話は終わった。帰るぞ」
男はラムの依頼人の顔を見るなり、顔を蒼ざめてそそくさと逃げて行った。
それもそのはず、クーロンでは名のある権力者の一人だったからだ。
「なんだ、あいつは?」
「ただのケチなチンピラですよ」
「で、そのガキは?」
「……俺の次の依頼人ってとこですかね」
「なんだ、そりゃ」
ラムの依頼人は鼻で笑った。
こうして言葉を交わすことなく突然とも自然ともいうべき出会いで、ラムは路地の物乞いの幼児、シュエガオを引き取ることとなった。
その後、用心棒でまとまった金ができると用心棒から足を洗い、天宮夜総会を開くこととなる。